【地球崩壊カウントダウン?〜忍び寄る気候変動の傾向 vol.7】
■『地球温暖化「人間のせい」って言い切れる?…科学が示した〝自然変動の幅〟超えた変化 気候変動のそもそも』
「気候変動」と聞くと、とたんに「重く」感じてしまう……。▶︎なんだか大変そう。▶︎対策って我慢することですよね?▶︎気候科学が専門の東京大学教授・江守正多(せいた)氏に、気候変動の「そもそも」をずばっと、聞きました。
*江守正多氏=専門は地球温暖化の将来予測とリスク論。▶︎気候変動に関する政府間パネル第5次、第6次の評価報告書の主執筆者
*水野梓(withnews編集部)=学生時代から環境問題に関心があったが、「意識高い」と言われて距離を取られることにもやもや。
*松川希実(withnews編集部)=「気候変動」という大きすぎる問題を〝自分事化〟▶︎できていなかったことに気づき、企画に参加。
◆昔は「地球温暖化」だった?
水野:台風が大型化したり、子どもの頃よりも夏が異常に暑いと感じたり、これが「気候変動」なんでしょうか。▶︎私が中学のころは「地球温暖化」って聞いていた気がします。
江守氏:そうですね。▶︎まず、そこから話しましょうか。▶︎「地球温暖化(Grobal Warming)」は、地球全体で気温が上がっていくことです。▶︎一方、気温の上昇以外にも、雨の降り方が変わったり、氷が溶けて海面が上昇したりといったことを含めて、「気候変動(Climate Change)」と呼びます。▶︎1988年に気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が設置され、1992年には「国連気候変動枠組条約」が採択されましたので、世界では以前から〝気候変動〟という言い方をしていました。▶︎ただ、初期のころに地球温暖化じゃなくて、気候変動と言った方がいいと言い出したのは、🇺🇸アメリカで「地球温暖化対策をしたくない」という種類の人たちだったというメモが残っています。▶︎気候変動と言った方が、「また上がるかもしれないし、下がるかもしれないし」って思えるからなのでしょう。▶︎僕としては、どちらも大体同じ意味だと思っています。▶︎「地球温暖化」は、地球の温度が上がることですが、「地球温暖化〝問題〟」といえば、人間が原因で地球の温度が上がっていろいろな問題が起こること。▶︎「気候変動問題」も同じことを指します。▶︎🇯🇵日本では「地球温暖化」が先行して広まって、「気候変動」は専門的に知っている人が使ってきた感じですが、今は真面目に考える人が増えて「気候変動」が広がっているイメージですね。
◆地球温暖化って「人間のせい」?
水野:「地球温暖化が本当に人間のせいなのか?」と疑問視する声はありますが、「人間のせい」と言い切っていいんでしょうか。
江守氏:はい。▶︎「人間のせい」ですね。▶︎2021年の8月、僕も執筆に参加したIPCCの最新の報告書が出ました。▶︎人間の影響による温暖化は「疑う余地がない」という結論だったんです。
江守氏:1990年にIPCCの報告書が最初に出た時は、「温暖化しているけど、自然の原因でも説明できなくはないかな」ぐらいでした。▶︎それがだんだん「人間活動が主な原因である可能性が高い」「可能性が非常に高い」「可能性が極めて高い」……と変化してきて、今回は「疑う余地がない」になったんです。▶︎科学が進展して理解が深まってきた結果でもあるんですが、この30年間で実際の気温上昇が進んでしまった結果でもあります。▶︎〝自然の変動の幅〟を超えた温度上昇がどんどん起こっていて、人間活動が原因じゃないと説明ができないような大きさなんです。
◆「二酸化炭素」はどこから出てる?
水野:人間活動の影響でもっとも大きいのは「二酸化炭素を出している」ってことでしょうか。
江守氏:そうですね。▶︎「温室効果ガス」と言って、大気中の赤外線を宇宙に逃がしにくくする空気の成分です。▶︎水蒸気や二酸化炭素、ほかにもメタンなどがあります。▶︎地球を暖める効果がもともと一番大きいのは水蒸気ですが、人間が直接出して増やしているわけではありません。▶︎人間が排出する温室効果ガスで、全体的な影響が一番大きいのは二酸化炭素(CO2)です。
水野:二酸化炭素……私たちが、呼吸で吐くやつですよね。▶︎なんかこういうの聞くと、息止めたくなる……。
江守氏:まあ、止められるんなら止めて頂きたい。▶︎3回吸って1回吐くぐらいに(笑)
松川:つらい……(笑)
江守氏:というのは冗談で、呼吸は大丈夫なんです。▶︎なぜだかご存じですか?
松川:え……、吐いた分、吸っているからですか?
江守氏:惜しいですね(笑)▶︎人間が吐く息に入っているCO2の炭素(C)って、もともとは食べ物から来ているんです。▶︎人間がご飯を食べて、体の中で化学反応して、CO2になって出てきている。▶︎その食べ物はどこから来ているか考えると、動物か植物ですね。で、動物もたどっていくと必ず植物に行き着きます。▶︎その植物は、育つ時に大気からCO2を吸っています。植物が取り入れたCO2の炭素を、巡り巡って人間が食べ、それが人間の吐くCO2になっている。▶︎ぐるぐる回っているだけなんです。▶︎これは自然の中で回っているCO2です。
松川:想像以上に、でかい話だった!
江守氏:人間の呼吸っていうのはもともと生態系の中で起きている「生物現象」なので、もともとカーボンニュートラル(炭素中立)なんですよ。
松川:つまり、いま、CO2が問題になっているのは、人間がその「生物現象」以上のことをしてきちゃったわけなんですね。
江守氏:そうです。▶︎それが化石燃料を掘ってきて、燃やしているっていうことなんです。▶︎化石燃料っていうのは、何億年も昔の大気中のCO2を植物が吸収して、地中深くに埋まっていたもの。▶︎それを人間が掘り出して燃やしているわけで、最近の地球にとっては、今ある生態系の別のところから注入された〝余分な炭素〟になるわけです。▶︎これを人間がすごい勢いで、いま、大気に注入しているんです。
◆教科書の数値が変わる
水野:大気中の二酸化炭素の濃度が上がっているのは、分かるんですか?
江守氏:1958年に🇺🇸アメリカの化学者チャールズ・デービッド・キーリングがハワイの山の上と南極で測り始めて、そのデータが残っています。▶︎僕の子どもの頃だと、理科の教科書に「CO2の濃度は350PPM」って書いてあったんですけど、今の教科書だと「400PPM」などと書いてあります。▶︎たった数十年で教科書の数字が変わっちゃうような変化をしているわけです。▶︎大気中のCO2はよく混ざっているので、空気のきれいなところなら世界どこでもだいたい同じような数値になります。▶︎今は世界のいろいろなところで測っていて比べることができますし、人工衛星で宇宙からも測っているので、分布が分かるんです。
水野:濃いエリアが、地球上で分かれているんですか?
江守氏:大体同じ値なんですが、北半球は季節によって変わります。▶︎陸がたくさんあるので、夏は植物がたくさん光合成してCO2を吸ってくれます[*withnews 2022.10.21付記事抜粋/文:松川希実氏・朝日新聞withnews記者]
■『🇯🇵日本が世界一、地球温暖化の被害を受けている?』
[2019年10月の台風19号。川の水があふれてから1日半以上が経過しても水は引かなかった=水戸市]
「地球温暖化」と聞いて想像するのは、海に沈む危機が迫る〝遠くの島国〟だけでしょうか。▶︎🇯🇵日本でなかなか身近に感じにくいのには、ワケがありました。▶︎気候科学が専門の東京大学教授・江守正多(せいた)さんに、気候変動の「そもそも」をずばっと、聞きました。
【江守正多さん】=専門は地球温暖化の将来予測とリスク論。気候変動に関する政府間パネル第5次、第6次の評価報告書の主執筆者。
【水野梓(withnews編集部)】=学生時代から環境問題に関心があったが、「意識高い」と言われて距離を取られることにもやもや。
【松川希実(withnews編集部)】=「気候変動」という大きすぎる問題を〝自分事化〟できていなかったことに気づき、企画に参加。
◆巣ごもり期間に減ったCO2
【水野】:コロナ禍で飛行機が止まって人の移動が減り、世界中でステイホームして経済活動が減り、あわせて二酸化炭素の排出量がすごく減ったというニュースもありましたよね。▶︎これで「ちょっと良くなるのかな」と感じました
【江守さん】:少しは良くなりましたね。▶︎ボリュームでいうと飛行機よりも自動車の移動が減ったことや、工場の稼働が止まったことが大きかったんです。▶︎2020年の世界のCO2の排出量は前の年に比べて5~7%ぐらい減りました。
【松川】:え、数%……!
【江守さん】:あれだけ何にもせず、どこにも行かなかったのに、数%しか減っていないんですよ。▶︎しかも次の年は、また元に戻っちゃったんです。
【松川】:……ちなみに、いま私たちが目指している削減目標は、その数%より大きいんですか?
【江守さん】:私たちが目指しているのは、毎年7%ぐらいずつCO2の排出量を減らしていくことなんです。
【松川】:あ、このレベルで減らさないといけないんですか!? あの巣ごもりレベルの……
【江守さん】:いいえ、あの年はたまたまコロナ禍で排出量が減りましたが、本来やろうとしていたことではありませんよね。▶︎7%分減らすために、また経済活動を止めないといけない、というわけじゃないんですよ。
【松川】:あの巣ごもり期間のような活動できない時期を思い出すと、悲観して「もう考えるのやめよう」と思う人もいるかもしれないと思ったんですが、そうではないんですね!
◆気候変動を「ドーピング」に例えると
【水野】:でもそれぐらい減らしていかないと、どんなことが起きてしまうのかは気になります。▶︎大型の台風が増えたり、朝日新聞デジタルで連載「食卓異変」も配信していますが、有明海のノリや北海道の鮭やウニがとれなくなっています。
【江守さん】:地球温暖化の問題にはさまざまなリスクがありますが、「地球温暖化」とは地球全体の温度が長期的に上昇していく傾向のことであって、1年1年には違うことが起きます。▶︎ある年にある場所で熱波が来たとか、ある場所で大雨が降ったというのは、「こういう気圧のパターンになったから」というのが直接的な理由なんです。▶︎大ざっぱに見れば、昔から暑い夏も涼しい夏もたまに来るし、大雨もたまに降っていました。▶︎年々の天候や日々の天気は不規則に変動しています。▶︎そこに地球温暖化による長期的な温度上昇の影響が重なっているんです
【松川】:ひどい天候が、もっとひどくなるということですか?
【江守さん】:地球温暖化をスポーツ選手のドーピングと考えてみてください。▶︎たとえば野球選手が打って、ドーピングしていなければ外野フライで終わっていたところ、ドーピングしているとホームランになる。▶︎ドーピングしないときに普通のホームランだったら、ドーピングがあれば場外ホームランになっちゃう。▶︎ドーピングしている分だけ、遠くに飛んじゃう、という感じです。▶︎昔から大雨は降りますが、それが温暖化している分だけ、より記録的になりやすくなる……と考えて頂ければ良いです。▶︎海洋熱波や漁業の不漁なども、たまたまその年にそういう気圧パターンや海流パターンだったからかもしれません。▶︎しかしそこに温暖化の長期的な傾向が重なって、ドーピングでパワーアップしたと考えたら分かりやすいと思います。
【松川】:つまり、今後も地球の温度が上がっていくと、さらにドーピングが強くなるというイメージですか?
【江守さん】:そうです。▶︎たまたま当たった時には、めっちゃ飛んじゃうという。
【水野】:特定の生物にとっては、たまたまその年に発生した生きづらい環境が引き金になって、絶滅するおそれもありますよね。
【江守さん】:そうなんですよ。生物の場合は、ある年に壊滅的な影響を受けて、そこからなかなか回復できないということが起こりえます。
◆CO2を出さない人が負う被害
【水野】:私たちの場合は、記録的な猛暑があっても「エアコンをつけよう」と自分を守る文明の利器もあります。▶︎一方で、途上国ではより影響を受けてしまいますね。
【江守さん】:🇯🇵日本など先進国は、ダムや堤防といったインフラによって大雨が降った時にも被害を減らすことができます。▶︎でも、途上国だと防災インフラがなく、社会として自然災害に弱いわけです。▶︎さらに地理的に見ても、大きな被害を受けやすいところに、けっこう貧しい人たちが住んでいるということがあります。▶︎アフリカや中東、中南米の乾燥地域には、貧しい国が多く、小規模な自給自足的な農業をしています。▶︎しかし温暖化で干ばつが増え、食糧、水が本当に無くなり、収入も無くなる。▶︎🇧🇩バングラデシュなどの沿岸の低い土地、よく話題になる🇹🇻ツバルなどの小さい島国では、海面が上昇して、さらに嵐が来ると高潮でひどい水害になります。▶︎家が流され、畑が流され、住めなくなってしまいます。▶︎問題なのは、そういう人たちはほとんどCO2を出さずに暮らしていて、温暖化の原因になっていないのに被害に遭っているということです。
[🇰🇪ケニア北部、死んだ家畜たちの無数の白い骨片が散乱していた=2022年1月]
◆世界一、温暖化の被害を受けている国?
【水野】:🇯🇵日本でも強い台風がたびたび上陸して、今夏も九州・静岡で大きな被害がありました。
【江守さん】:過去には、🇯🇵日本でも伊勢湾台風などで死者・行方不明者5千人を超すという大きな被害が出ていました。▶︎しかし我々を含めてCO2を出している先進国や新興国は、ダム・堤防といった防災インフラに資金を投入し、いまは被害が少なくなっているんです。▶︎でも🇯🇵日本は、それだけ防災に力を入れていても、2018年の西日本豪雨では災害関連死を含む300人以上が犠牲となっています。▶︎ドーピングによって強くなった台風が来ると、今も深刻な被害が出てしまうんです。
【松川】:地球温暖化の影響というと、遠い国の被害を思い浮かべて、なんとなく🇯🇵日本では実感がないなぁと思っていました。
【江守さん】:実は2019年の台風19号でも甚大な被害がありました。▶︎多摩川があふれ、千曲川があふれて新幹線が浸水したり、東北でも被害があったりしました。
[千曲川の堤防が決壊し、水につかった北陸新幹線の車両=2019年10月13日、長野市]
【江守さん】被害額を計算したら、2019年に世界で起きたあらゆる自然災害の中で、🇯🇵日本の台風19号は最大の被害額だったんですよ。▶︎温暖化がなければあそこまでの被害になっていなかったはずなんです。▶︎だから被害額で見れば、🇯🇵日本は、世界一、温暖化の被害を受けている国、とも見えるわけです[*withnews 2022.10.22付記事抜粋/文:松川希実氏・朝日新聞withnews記者]
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【掲載日時】2022年10月24日(月)






