【コロナノコトバ】PART.1867


豊田真由子氏:『「第5波急減の要因は?」「人流抑制の効果は?」新型コロナ突破に「身体と心の免疫を」』


全国で緊急事態宣言が解除されました。今回、第5波の動きについて、「急減した理由が分からない」、「人流抑制は関係なかったじゃないか」といったことが言われます。▶︎新型コロナの今後の見通し、個人や社会の取るべき対策、今後のまた新たな感染症との戦いを考える上でも、大切なことだと思いますので、考えてみたいと思います。▶︎では、今回の第5波の急減の要因は何でしょうか?▶︎私の答えは、(誤解をおそれずに言えば)、「感染症の流行って、そういうもの」です。▶︎減少の理由として、人流抑制、行動変容、ワクチン接種の進展、ウイルスがコピーミスによって自壊してきている(エラー・カタストロフ説)など、いろいろなことが言われます。▶︎そうしたことも考えられますが、こうしたことのどれが、どのくらい減少に寄与しているのか、あるいは、そうではないのか、というのは、実はとても難しいことで、本来は、大規模な比較研究等で、精緻な分析を行わないことには、なかなか確定的なことはいえません。▶︎そして、今回は「人流はそれほど減っていなかったのでは?」「同じ緊急事態宣言中で制限の内容は変わらないのに、感染者が大幅に増えたり減ったりしているのだから、実は宣言の効果ってあまり無いのでは?」とお思いの方もいらっしゃるのではないかと思います。▶︎世界の最新の感染状況を見てみると、例えば、🇫🇷フランスや🇪🇸スペインなど、行動制限を大幅に緩和している国でも、あるいは、🇮🇩インドネシアや🇮🇳インドのように、ワクチン接種率が低い国でも、波が下がってきていることが分かります。▶︎(後述しますが、行動制限やワクチンに意味が無い、と言っているわけではありません)▶︎(なお、🇺🇸米国や🇬🇧イギリスは、現時点ではやや下げ止まっています。▶︎ワクチンの効果については、🇺🇸米国は共和党の支持基盤である南部の州などを中心にワクチンを忌避する方が多く、接種が進んでいない、🇬🇧イギリスはアストラゼネカ製ワクチン(mRNAワクチンではなく、有効性が若干下がると言われている)が中心だからではないか、といったようなことも言われますが、それでも、ある程度のタイムスパンで見れば、下がってくると思います)▶︎ピークを越えたら、波は下がる 

◆歴史に学ぶ。世界の他の地域を見る……

いずれにしても基本的に、新興感染症の波というのは、感染のピークを越えたら、必ず下がります。▶︎それは、一つの波で見ても、パンデミック全体で見ても、です。▶︎過去の様々な感染症の歴史からも、そうしたことが推察できます。▶︎たとえば、非常に単純化して申し上げれば、約1億人が亡くなったと言われる中世のペストや、約5000万人の方が亡くなったと言われる約100年前のスペイン風邪(新型インフルエンザ)も、ワクチンも治療薬も無い時代ですが、甚大な被害を出した後ではありますが、収まっています。▶︎もちろんこれは、感染症対策としての行動制限やワクチンに意味が無いということでは全くなく、一般的には、被害(感染者や死者数)を抑えたり、感染拡大のスピードを遅らせたり、収束を早めたり、そういった効果は十分あるわけです。▶︎また、20203月からの日本の感染の波の形を見ていただくと、おおむね、なだらかに増えたらなだらかに減る、急激に増えたら急激に減る、という傾向があることも分かります。▶︎そして、また、地域は違っても、欧米や🇮🇱イスラエル、🇯🇵日本などは、感染の波の現れ方(2020年夏、20202021年冬、2021年夏)が、不思議と似通っています。

◆取るべき感染症対策は、状況やタイミングによって変わってくる……

こうした諸々のことを考えれば、今回の第5波の急減は、要因がこれだ!と特定はできなくとも、それ自体は、特段驚くことではない、ということがお分かりいただけるのではないでしょうか。▶︎そして、おそらく次の波もまた来るでしょう。▶︎それを繰り返して、収束に向かうのです。▶︎そういう意味では、新型コロナについて、分からないことも、今後について予想できないこともたくさんあるわけですが、広く捉えれば、分かっていることもたくさんある、といえます。▶︎いずれにしても、人間がすべてをコントロール・説明できると思わない「謙虚さ」と、こういうものだから仕方ないという「諦観」と、それでもきっと大丈夫という「希望」、こういったことが、新興感染症に対峙する上では、肝要なのではないでしょうか。▶︎そうすることで、心構えや気持ちの在り方も変わってくるのではないかと思います。

◆「感染拡大防止対策」と「社会経済活動の維持」は、車の『両輪』、数字に表れない被害にも注目すべき……

今回ようやく解除かと思いきや、「緊急事態宣言解除後のリバウンドを懸念」と言われても、「じゃあ、また同じような制限を繰り返すの!?」という大きな不信と疑問が、国民の間にはあると思います。▶︎新興感染症に対して取るべき対策というのは、状況やタイミングによって変わってきます。▶︎ずっと同じことをやり続けていればよい、というものではありません。▶︎例えば、初期にはロックダウンによって感染の封じ込めが可能であっても、あまりに拡大してしまうと難しいとか、医療体制がきちんと対応できるのであれば、ある程度の感染者増は想定しながら社会経済を再開する道もあり得る、といったことです。▶︎欧米各国が、現在どのように対処し、社会経済や国民生活、感染状況がどうなっているか、といったことにも着目しながら、我が国も、新たな段階の対応をしていくことが必要だと思います。▶︎それを踏まえて、現時点における🇯🇵日本の現実的な目標と対策としては、一人ひとりが、一定の感染防止策を取りながら、社会経済活動をきちんと再開する。▶︎そして、今のうちに、医療体制を着実に整備する。▶︎ワクチン接種と治療薬普及を進めるといったことになるのではないでしょうか。▶︎以前から申し上げていますが、「感染拡大防止対策」と「社会経済活動の維持」は、ブレーキとアクセルではなく、車の「両輪」です。▶︎両方を、バランス良く、ともに回していかなければ、国民生活や社会という「車」は、ちゃんと走ることができません。▶︎必要な治療が受けられずに亡くなる、経済的に苦境に陥る、仕事を失う・廃業する、教育の機会や学校生活の質が損なわれる、自殺が増えている、DVや虐待が増えている――数字として表れにくいものも含め、深刻で甚大な被害が蓄積しています。▶︎新型コロナによる死者や重症者をできる限り減らすとともに、これまでの様々な制限によって国民にかかっている多大な負荷と深刻な影響を、直視し、救済しなければならないと思います。

◆「身体の免疫」と「心の免疫」を付けましょう……

929日に自民党新総裁に選出された岸田さんは、聡明で温厚誠実な方です。▶︎「聞く力」を発揮し、丁寧に、理解・判断し、堅実で安定した政権運営を担われるだろうと思います。▶︎新たな体制で、政府には、多岐にわたる国民の苦境とニーズにしっかりと目配りをした実効的な対策を、そして、国民の皆様には、できる限り、ワクチン接種による「身体の免疫」を付けるとともに、新興感染症について理解を深め、俯瞰して物事を見る、世界全体の中で、過去と未来の流れの中で現在を捉える、といったことにより、「心の免疫」を強化していただくことが、新型コロナを乗り切るためにも、大切なのではないかと思います[*まいどなニュース2021.10.01付記事抜粋/文:豊田真由子氏・評論家、コメンテーター/前衆議院議員、元厚生労働官僚]

『新型コロナ、新規感染者急減で注目される「エラーカタストロフの限界」理論』

◆相次ぐクラスター


政府は新型コロナウイルス対策として、東京や大阪など19都道府県に発令中の緊急事態宣言を930日に解除した。▶︎ワクチンの接種が順調に進み、新規感染者の減少傾向が鮮明になっており、自宅療養者数や入院率などの数値も劇的に改善している。▶︎宣言解除後、政府は日常生活に関する行動制限を段階的に緩和する方針だが、不安の声も上がっている。▶︎2回のワクチン接種を終えてからの感染(ブレークスルー感染)によるクラスターの発生が、病院や高齢者施設などで相次いでいるからだ。▶︎群馬県伊勢崎市の病院では、入院患者17人と職員8人の計25人の感染が判明した。▶︎うち24人はワクチンを2回接種済みで、残る1人は1回接種したのみだった。▶︎和歌山県高野町の特別養護老人ホームでは、施設利用者12人と職員2人の感染が確認されている(うち1人は重症)。▶︎この感染者全員がワクチンの2回接種を完了していた。

◆約8割がワクチン未接種者……

ブレークスルー感染は海外でも起きている。▶︎ワクチン接種完了率が8割を超える🇸🇬シンガポールでは、感染者が9月に入り急増している。▶︎感染者の98%が無症状・軽症にとどまっているものの、重症者数や死者数が増加傾向にあることから、政府は927日、ワクチン接種者に認められる外食の上限を5人から2人に引き下げるなど、行動制限の強化に踏み切った。▶︎🇯🇵日本でも同様の傾向が見られる。▶︎ワクチンによるコロナの発症や入院を予防する効果は89割と報告されており、重症化するリスクは低い。▶︎国内で発生しているクラスターのほとんどが、軽症又は無症状だ。▶︎924日、東京都は「感染拡大第5波で都内で亡くなった人の約8割がワクチン未接種者だった」ことを明らかにしている。▶︎見劣りするとされる感染予防効果についても、期待が持てる調査結果が出てきている。▶︎大阪府が829日までの2週間の未接種者と2回接種者の感染割合を比べたところ、30代以下で約12倍、65歳以上で20倍以上の差があったという。▶︎厚生労働省も「感染リスクに約17倍の差がある」との見解を示している。

◆予防効果は接種から4カ月で半減……

だがワクチンの感染予防効果には落とし穴がある。▶︎🇬🇧英オックスフォード大学が19日に発表した研究結果によれば、ファイザー製ワクチンの感染予防効果は接種から4カ月でほぼ半減し、ワクチン接種者が感染力の強い🇮🇳デルタ株に感染した場合、ウイルス保有量は未接種者と変わらなかったという。▶︎また、ブレークスルー感染は症状が軽く、感染そのものに気づきにくいことから、無症状のまま他人にうつしてしまい、クラスターが生じる原因となる。▶︎このことからわかるのはワクチンを2回接種したとしても、感染対策が引き続き欠かせないということだ。▶︎コロナのような呼吸器感染症が蔓延しやすい冬場にかけてはなおさらである。▶︎パンデミック以降、マスク生活が当たり前になったが、感染力が強い🇮🇳デルタ株を予防するためにはウレタン製や布製ではなく、不織布マスクの着用を徹底すべきだ。▶︎「ヨウ素液によるうがい」も有効だ。▶︎ヨウ素液を満たした試験管では、新型コロナウイルスは10秒で不活化する(死ぬ)ことがわかっている。▶︎換気対策として1時間に2回程度の窓開けでは不十分であることがわかっており、これに関するてこ入れも不可欠だ。

◆タミフルのような効果……

正念場とも言える冬場が近づく中、「新型コロナウイルスを治療する飲み薬が年内にも登場する」との朗報が届いている。▶︎🇯🇵日本を含む世界各国で、🇺🇸米国のメルクやファイザーが軽症者向け薬剤の最終段階の臨床試験を進めている。▶︎いずれも体内でウイルスの増殖を防ぐための薬剤であり、インフルエンザ治療で使われるタミフルのような効果がある。▶︎経口だけに点滴タイプの既存の治療薬と比べて投与しやすい上、量産が簡単なことからコストが抑えられるメリットもある。▶︎菅首相は925日、「経口薬を早ければ年内にも実用化できる可能性がある」と述べた。▶︎「コロナのリスクをインフルエンザ並みに抑えられる日が近い」との期待が高まる。▶︎最後に残された懸念事項は、ワクチンなどが効かない耐性株の出現だ。▶︎国内外で新たな変異株が次々と発見されているが、アストラゼネカのワクチン共同開発者であるオックスフォード大学のセーラ・ギルバード教授は、922日、「感染力が強い🇮🇳デルタ株以上に致命的な変異株が登場する可能性はない」と述べた。▶︎新型コロナウイルスが人体の免疫を避けるためにスパイクタンパク質を変異させすぎると、これによりかえって人体の細胞に侵入することができなくなる。▶︎このせいでウイルスが抗体を回避しながら感染力を強化することには限界があるという説明だ。▶︎🇮🇳デルタ株の登場後これまでのところ、🇮🇳デルタ株を凌駕するような危険な変異株は出現していない。

◆自滅するウイルス……


さらに、日本での新規感染者が8月から9月にかけて急減したことで、「エラーカタストロフの限界」という理論にも注目が集まりつつある。▶︎エラーカタストロフの限界」とは、1971年に🇺🇸米国の進化生物学者が提唱したもので、「ウイルスは変異しすぎるとそのせいで自滅する」という主張だ。▶︎50年前の説が注目されるようになったのは、インドは🇮🇳デルタ株の出現で最悪の事態に陥ったが、充分な対策が採られなかったのにもかかわらず、急激に感染者が減少したことがきっかけだ。▶︎児玉龍彦・東京大学先端科学技術研究センター名誉教授は、ウイルスのコピーミスを修正するポリメレースという酵素に変異が生じたことで、コロナウイルスの変異速度が格段に上がっていると指摘する。▶︎これが正しいとすれば、「今後🇮🇳デルタ株を超える大波が襲来する」ことを必要以上に恐れる必要はなくなる。▶︎過度の楽観は禁物だが、これらの事情を踏まえ、筆者は「🇯🇵日本に『ウイズコロナ』の日が来るのは近い」と考えている[*デイリー新潮 2021.10.01付記事抜粋/文:藤和彦氏・経済産業研究所コンサルティングフェロー]

『モデルナアームは9割が女性……コロナワクチンで起きうる皮膚の副反応を皮膚科医が解説』


コロナのワクチン接種が進むなか、副反応についての情報が国民の関心事となっている。▶︎世界中で報告された副反応の論文などから、近畿大学医学部皮膚科学教室主任教授の大塚篤司医師が皮膚の副反応について解説する。▶︎COVID19に対するワクチンを2回接種した人が国民の5割を超えた。▶︎副反応で発熱が起きた人、注射部位が赤く腫れるモデルナアームを経験した人、さらにはわきの下のリンパ節が腫れた人など、さまざまな報告を耳にします。▶︎私は皮膚科医なので、ワクチンの副反応と思われる皮膚疾患を多く診てきた。▶︎世界中から皮膚の副反応をまとめた報告が相次いでいる。▶︎そこで今回はCOVID19に対するワクチンで起きうる皮膚の副反応についてまとめたいと思う。▶︎まず最も有名な皮膚の副反応であるモデルナアーム▶︎これは9割が女性というデータが国内外から出ている。▶︎出現時期は1回目の接種から1週間前後、2回目の接種からは12日後に起きやすいと言われている。▶︎ワクチンの種類ではモデルナで多いわけだが、ファイザーのワクチンでも報告がある。▶︎治療は抗アレルギー剤の内服とステロイド外用剤を用いるのが一般的。▶︎次に、じんましん。▶︎COVID19に対するワクチンを接種した後にじんましんが出現した患者さんも多くた。▶︎🇪🇸スペインからの報告では、ワクチン後のじんましんを経験した人は約3割が中等症以上だった。▶︎一般的にじんましんは抗アレルギー剤を内服すれば治まるのだが、これだけでは不十分だったようだ。▶︎抗アレルギー剤を2倍量内服したり、ほかの抗アレルギー剤を併用したり、じんましん診療ガイドラインに従ってH2受容体拮抗薬を一緒に飲んでもらう症例もあった。▶︎ちなみに、じんましんはCOVID19に感染した際も出現する皮膚の症状なので、ワクチン特有の反応ではない。▶︎はしかのようなブツブツも報告されている。▶︎私たち皮膚科医がよく診る皮疹の一つにウイルス疹と呼ばれるものがある。▶︎さまざまなウイルス感染症にともなって皮疹が出現する。▶︎二重丸のように見える皮疹、多形滲出性紅斑(たけいしんしゅつせいこうはん)もその仲間。▶︎COVID19に対するワクチンを接種した後、このようなブツブツが出現した患者を多く診察した。▶︎ちなみに、はしか様の皮疹はファイザーのワクチンで多い。▶︎このような皮疹を診たときに難しいのは、COVID19だけでなくほかのウイルス感染でも同様の皮疹が出現すること。▶︎血液検査で疑わしいウイルスに対する抗体値を測り、どれも違うと否定してはじめてコロナワクチンによるブツブツだった可能性が高まる。▶︎現段階では、状況証拠的にワクチンとの因果関係を考えるしかない。▶︎ワクチン接種後のヘルペスも多く報告されている。▶︎唇や陰部にできる単純ヘルペス、いわゆる「熱の花」というもの。▶︎また、帯状疱疹(たいじょうほうしん)も出現しやすいと報告がある。▶︎論文では、ワクチン接種後に13.8%の人がこれらのヘルペスウイルスの再活性化が起きたと報告されています。▶︎ヘルペスの出現もコロナワクチン特有の副反応ではなく、COVID19の感染でも報告されている。▶︎さらに、ほかのワクチンでのヘルペスウイルスの再活性化の報告例もあるのでコロナワクチン特有というわけではない。▶︎治療は一般的な帯状疱疹と同じ。▶︎この帯状疱疹だが、帯状疱疹に対するワクチンも登場している。▶︎本邦では50歳以上の人が適応となる。▶︎帯状疱疹は痛みが長く続く人も多く、防げるならそれに越したことはない。▶︎以上、コロナワクチン接種後に起きる代表的な皮膚の副反応についてまとめてみた。▶︎原因がなんであれ、上記のような症状が皮膚に起きれば治療は同じ。▶︎気になるブツブツが出たら皮膚科に受診するのが良い[*AERA dot. 2021.10.01付記事抜粋]

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『生物学者の視点で見る「ワクチン接種」の大前提』

新型コロナウイルスによる感染症拡大に伴い、行きすぎた監視社会への危惧やワクチン接種の是非など、科学・技術のあり方に関してさまざまな議論が浮上した。▶︎そこで、生物学者の福岡伸一氏に、生物学の視点から最新テクノロジーやワクチンに対する向き合い方について話を伺った。

◆体を「スマート化」することの危険性……

【福岡氏】私は、新型コロナウイルスによって明るみに出た種々の問題は、人間が生み出したロゴス(論理)と、そのロゴスと対極にあるピュシス(自然)という概念を用いて理解することが必要だと考えています。▶︎例えばこのコロナ禍で、オンライン化が一気に進みました。▶︎あらゆる場面で、技術のスマート化(=ロゴス化)が促進され、私たちの生活は便利になる一方、注意すべき点も含まれていると思います。▶︎この事態を、ロゴスピュシスの観点から掘り下げてみたいと思います。▶︎スマート化が、人間の問題解決能力(力仕事や計算力や計画力といったタスク、あるいは移動、配送、通信、記録、解析といった仕事など)を外部にさらに拡張する・展開する方向に進むことは、一定のコントロールや規制は必要なものの、文化・文明の進むべき方向として、人類が自らの生活を豊かにする方法として選び取ったものだと思いますし、この方向へのモメンタム(大きな潮流)を抑制することはできないと思います。▶︎しかし、このスマート化が、人間の内面、つまり精神や身体性に向かって行われようとすることは大変危険なことだと考えています。▶︎人間の内部にあるものは、ピュシスそのものですから、これをロゴス的に制御することは、生命を大きく損なうことになります。▶︎生命を、単純な図式で、ロゴス的に解釈すると、ピュシスとしての生命から大きなリベンジを受けかねません。▶︎生命はロゴス的マシナリー(機械)ではありませんから。▶︎歯車を1つ大きなものに交換すれば、機械全体が効率よく回るかといえば、むしろ生命現象では逆のことが起きます。▶︎歯車を大きくしたことの無理が、全体の流れに歪みを波及させてしまいかねません。▶︎ある反応を阻害したり、ブロックしたりすれば、痛みや不快感を一時的に軽減することができるかもしれません。▶︎しかし、阻害やブロックは、ピュシスとしての生命体をむしろ逆の状態(阻害やブロックに対抗する方向)へ導きます。▶︎薬が効かなくなったり、ドラッグの使用量が増したり、より中毒性の高いものに向かうのはそのためです。▶︎あるいは、抗生物質で、細菌を制圧したはずなのに、抗生物質という大きな網をかぶせて細菌を抑え込んだことが、逆に今度はその網の目をかいくぐって、抗生物質に抵抗性を持つ変異株を選抜することに手を貸してしまう。▶︎その変異株を制圧するために、新しい抗生物質が開発されると、さらに強力な変異株が選抜される、といういたちごっこが繰り返され、今ではどんな抗生物質も効かない厄介な細菌が存在しています。▶︎これがスーパー耐性菌の出現ということです。▶︎これらはすべて、ピュシスからのリベンジです。

◆ワクチンをどう考えるか?……

新型コロナウイルスのワクチンに対しても、長い射程を持った視点が必要だと思います。▶︎確かにワクチンは、社会的不安を解消する有力な切り札になりえますが、それを万能視してやみくもに礼賛する態度も、逆に、アレルギー的な拒絶反応を示す態度も、ともに冷静さを欠いていると思います。▶︎新型コロナワクチンはワープスピードで開発されたがゆえに、まずは有効性の確認と慎重な副反応の検証に注意を向けるべきです。▶︎ワクチンは、現在、世界中で奪い合いとなっています。▶︎本来、2回投与してしっかりと免疫反応を惹起(じゃっき)させるべきところを、よりたくさんの人に接種することを目指して、1回投与で済ませて、まずは広範囲の普及を優先しようとする動きもありました。▶︎これも議論が必要なポイントです。ワクチンによる免疫賦活作用が不十分なまま、広く、浅く、ワクチンの網の目をかけることで、かえって、新・新型ウイルスへの変化に手を貸してしまいかねません。▶︎つまり、ワクチンの作用をくぐり抜けてしまうような、変異株の出現──細菌でいえば耐性菌の出現──を促してしまうような逆効果の可能性もある。▶︎そうするとまたワクチンを作り直さねばなりません。▶︎いたちごっこになります。ピュシスの可変性、変幻自在さを過小評価すべきではないということです。

◆新型コロナウイルスに対抗するには時間がかかる……

しかし、これは、私たちの体が可変的、変幻自在だということでもあります。▶︎私は、ピュシスとしてのウイルスに真の意味で対抗できるものは、ピュシスとしての自分自身の柔軟な免疫系だけだと思っています。▶︎ウイルスとの共生とは、ウイルスの感染性と宿主の身体性のせめぎ合い、つまり両者の間に動的平衡が成立するということにほかなりません。▶︎それには時間がかかります。▶︎ワクチンによる免疫系の賦活化は有効なコロナ禍対策になると思いますが、その前提として、まずはピュシスとしての自分の身体性を信じる、ということが基本になると思います。▶︎身体性を信じる、というのは、ありのままのピュシスを受け入れるということでもあると思います。▶︎ピュシスは自然そのものですから、ノイズや乱れ、変異、濁りや汚れがつねに含まれています。▶︎現代の高度にスマート化された社会では、これらをロゴスの力で浄化してしまいたい、という清潔さへの異常な希求が見られます。▶︎ピュシスとしての自分の生命、身体性と言ってもいいと思いますが、これを今一度、虚心坦懐に見つめ直すことが、新型コロナウイルスに対抗するための出発点になると思います[*東洋経済ONLINE 2021.10.01付記事抜粋/文:福岡伸一氏・生物学者、青山学院大学教授、ロックフェラー大学客員研究者]

▶️【用語解説】

⚫︎『ロゴスlogos」』=万物の流転のあいだに存する、調和・統一ある理性法則。言葉、言語、真理、理性、事実、命題、意味など。

⚫︎『ピュシスphysis)』=人間の主観を離れて独立に存在し、変化する現象の根底をなす永遠に真なるもの。古代ギリシャの哲学者たちが神話的世界観から脱却したとき、最初の主題になった。

⚫︎『スマート化』=情報システムや各種装置に高度な情報処理能力あるいは管理・制御能力を持たせること

⚫︎『免疫賦活剤(めんえきふかつざい)』=生体の免疫機能を活性化させ,低下している防御力を増強させる薬物。最近では,BRM (生物学的応答調整物質の中心的なものとして癌の免疫療法に用いられる。

⚫︎『スーパー耐性菌』=すべての抗生物質に対して薬剤耐性を持つ菌のこと。▶︎薬が効かないので免疫抵抗力の低下した人が感染すると、効果的な治療法がなく、死に至る場合もある。▶︎医療施設には免疫抵抗力の低い患者が集中しており、院内で集団感染が起こるリスクも高まる。▶︎新薬が開発される見込みはまだなく、今は、スーパー耐性菌を分離したらその情報を共有し、感染防御策を強める他にない。

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【コロナ禍の森羅万象・気象編】

『台風16号の名前「ミンドゥル(Mindulle)」』




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[*掲載日時:2021年10月1日(金)]


それ、知らんかっとってんちんとんしゃん。