【コロナノコトバ】PART.155
◼️大問題:『コロナ禍で削られる年金…来年以降はさらに大幅減額の可能性』
コロナ対応の失策を追及され、言い訳や言い間違いばかりの菅首相だが、国会で10万円の特別定額給付金についての質問が出た時だけは、「再び支給することは考えていない」ときっぱり断言した。国民生活を守るうえで重要な支給を渋るこの国の政府は、ドサクサ紛れにさらなる“給付カット”を進めようとしている。ターゲットになるのは約4000万人の年金生活者である。
◆ルールは変えればいい
コロナ不況と外出自粛が続くなか、年金が2021年4月分(6月支給)から減額される。減額幅は「0.1%」だ。厚生年金のモデル世帯(夫婦で年金の月額約22万円)では1か月あたり228円減らされ、国民年金の満額受給の人は月66円減額される。“そのくらいで済んでよかった”と安心してはいけない。2022年からはもっと大幅に減らされる。そもそも今回の年金カットは、従来なら減らされるはずがなかったものだ。年金制度には「物価スライド」という仕組みがあり、原則として消費者物価が上がった時は年金が増え、物価が下がれば年金も減らされる。物価の変動があっても、年金生活者の生活水準を一定に維持できるようにする制度だった。それが2004年の年金改革で、物価が上がった時は年金の上昇分を低く抑える悪名高い「マクロ経済スライド」という制度が導入され、インフレの時は年金が実質的にカットされることになったが、それでも物価が横ばいなら年金を減らされることはなかった。ところが、2020年の消費者物価の変動率はプラスマイナスゼロなのに、年金が減らされる。「現役世代の賃金が下がったから」という理由だ。年金制度の変遷に詳しい「年金博士」こと社会保険労務士の北村庄吾氏が語る。「2016年の年金改正で、制度の支え手である現役世代の負担能力に応じた年金給付にするという理由で、物価より実質賃金が下がった時は賃金のほうに合わせて年金を減らすように制度改正されました。現役世代の賃金が下がっているのだから、たとえ物価が下がっていなくても、高齢者は生活水準を下げろというわけです。あの手この手で年金額を減らそうとルール変更を重ねる姑息なやり口といえます。コロナで生活を圧迫されている非常時だから、負担増になる政策の延期が検討されてもいいくらいですが、政府はそのまま実施すると決めた」。しかも、今回の年金引き下げはまだコロナによる賃下げの分ではない。
◆2022年は「月4560円」減額の推計
年金の計算に使われる実質賃金の変動率は3年分で計算され、今回の年金減額はコロナ前の2017~2019年に、いわゆる消費税増税不況で給料が下がった分が反映されたものだ。実質賃金が大きく下がったのはその後、昨年(2020年)からのコロナ不況だ。感染拡大が進んだ2020年3月以降、最新のデータが公表された11月まで実質賃金は少なくとも9か月連続して低下が続いており、とくに緊急事態宣言下の2020年5月は前年比マイナス2.3%まで落ち込んだ。そうした賃金の大幅低下に伴う年金減額の実施は、2022年以降になる。「コロナの感染拡大で全国の企業で残業カットやボーナスカット、休業などが広がり、2020年から実質賃金が大きく下がっている。2021年も1月から緊急事態宣言が出ているからこの傾向は続くでしょう。このままでは来年、再来年と続けて年金が大きく減らされることが懸念されます」(北村氏)。どのくらい減らされるのか。前述の厚生年金モデル世帯の場合、2021年の年金減額は夫婦2人で月228円だが、仮に、コロナ不況が反映された実質賃金変動率がマイナス1%となれば、2022年6月の支給分から夫婦の年金額は1か月あたり約2200円、マイナス2%なら毎月約4500円が削られる計算だ(他の諸条件が今回と同じ場合)。減額率は今回の10倍にも、20倍にもなっていくのである。[*週刊ポスト2021年2月12日号記事転載]
◼️コロナ検査:『15分で判定…コロナ簡易検査キット開発』
長崎大は2021年2月3日、同大熱帯医学研究所(熱研)と、体外診断用医薬品の製造販売「アドテック」(大分県宇佐市)が共同開発した簡易的な新型コロナウイルスの抗原検査キットを発売したと発表した。15分で陽性か陰性か判定でき、感染者の早期発見や治療、クラスター(感染者集団)の発生防止につなげる。全国の病院や診療所向けに販売する。検査キットの名称は「アドテストSARS-CoV-2」。綿棒で鼻の粘膜を拭って検体を採取し、その抽出液をテストカードに垂らし判定する。PCR検査との陽性一致率は73.8%、陰性一致率は100%。アドテックは月に最大60万回分を製造できるという。一度の検体採取で、別のテストカードを使えばインフルエンザウイルスの感染も検査できる。熱研の森田公一所長は「冬期は一般診療の発熱外来でインフルエンザとコロナの鑑別が必要なケースが多い。診断が容易になる」と話している[2021.2.4]
◼️コロナ詐欺:『「検査で陽性、助けて」「給付金受給で口座必要」…昨年の特殊詐欺1万3526件』
2020年1年間の特殊詐欺の認知件数(暫定値)は1万3526件で、被害総額は277億8000万円に上ったことが警察庁のまとめでわかった。いずれも前年を下回ったが、認知件数は2004年の統計開始以降で最少だった2010年(6888件)の2倍で、依然として被害は深刻。新型コロナウイルスの感染拡大に便乗した事件も目立っている。
▼「オレオレ詐欺」が全体の半数
手口別では、親族や警察官、銀行協会職員などになりすます「オレオレ詐欺」は6382件で、全体の半数近くに上った。高齢者宅を訪れ、封筒に入れさせたキャッシュカードを別のカードとすり替える「キャッシュカード詐欺盗」が約2割(2833件)だった。コロナ下で被害が続く背景として、高齢者が外出を自粛しているため詐欺の電話を取る機会が増えたり、現金やカードを取りに来た犯人のマスク姿に違和感を感じなかったりしていることが考えられるという。
▼新型コロナ「だましの文言」
新型コロナを絡めた「だましの文言」も多い。2020年6月、山梨県甲斐市の70歳代の女性宅に長男を装う男から「PCR検査を受けた病院で、会社の小切手をなくした」と電話があった。翌日、「検査も陽性だった。助けて」と現金を無心され、女性は、自宅を訪れた長男の会社の関係者を名乗る男に計1500万円を渡し、だまし取られた。警察庁は、感染拡大に伴う給付金や補助金の支給名目で「受け取るには口座を作り直す必要がある」と言ってカードなどを詐取する事件を計55件(未遂含む)確認。被害は計約1億円で、ほかにも、新型コロナに便乗したウソで、現金をだまし取られる被害が各地で相次いでいるという。2021年も、東京都内では、ワクチン接種の予約金名目で現金を要求する電話が13件あった。都や保健所の職員を名乗り、「高齢者を対象に、PCR検査とワクチン接種の予約を取っている」「予約金10万円を振り込んで」などとウソをついており、警視庁は、詐欺グループがかけたとみている。警察幹部は「コロナを悪用して、高齢者らの不安をあおったり、切迫性を感じさせたりする詐欺は、今後も増える恐れがある」と注意を呼びかける。
▼「アポ電」も9万8757件
高齢者の個人情報や資産状況などを聞き出そうとする「アポイントメント電話(アポ電)」も多く、全国で昨年、計9万8757件確認された。その後、詐欺の電話がかかってくるケースのほか、強盗に遭った事件も東京、神奈川、千葉の3都県で11件起きた。全国の警察は特殊詐欺の取り締まりを強化しており、2020年、過去最多の7373件(前年比556件増)を摘発し、2658人を逮捕するなどした。注意喚起の広報活動とともに、NTT東日本など大手電話各社の協力を得て、特殊詐欺に使われた固定電話の番号を利用停止にする措置も進めている。
▼「闇バイト」や「裏仕事」も相次ぐ
「闇バイト」や「裏仕事」などと称し、詐欺グループが現金の受け取り役や引き出し役をツイッターで募るケースが相次いでいるため、警察当局は、こうした投稿に警告メッセージを送る取り組みをしている。愛知県警が2019年7月に始め、警視庁や宮城、神奈川、静岡、大阪、福岡など計12都道府県警に広がった。警視庁は2020年10月から、担当者4人が毎日、ツイッターを確認。詐欺への加担を誘う投稿を見つけると、「犯罪の実行犯を募集する不適切な書き込みのおそれがあります」と書き込んだり、多くの容疑者が逮捕されていることを示したりしている。2020年12月までに約400件を警告し、約85%(約340件)の投稿が削除された。警視庁幹部は「コロナ禍で職を失った若者が、ツイッターをきっかけに詐欺に手を染める事件もある。警告によって、何とか思いとどまらせたい」と語った[2021.2.4]
◼️️【ウィズコロナ時代のテクノロジー ①】
『テクノロジーが後押しするワクチン接種…AIによる接種優先順位決定は正しいのか?』
マスクの着用や手洗い、消毒など、▶︎ウイルスや細菌による感染症の予防にはさまざまな手段がある。その中で最も有効なものの一つが、ご存じの通り、ワクチンによる予防接種だ。▶︎マスクや消毒の場合には、病原体が体内に入るのを防ぐことで病気を回避するわけだが、ワクチン接種では体内に「免疫」つまり病原体を撃退するメカニズムをつくることで、病原体に触れても悪影響が出ないようにする。▶︎目には見えないほど小さい病原体を、100%防御することは非常に難しいため(だからといってマスクや消毒の重要性を否定するわけではない)、ワクチンの予防接種はパンデミックを収束させる上での強力な武器となる。▶︎しかし免疫は個々の病原体に合わせて獲得しなければならないため、それを身体に与えるためのワクチンも、個別に開発する必要がある。▶︎また、十分な免疫を獲得するためには複数回の予防接種を受けなければならない場合も多い。▶︎さらに免疫がどのくらいの期間持続するか、同じ病原体の変異種にどこまで有効かは、病原体の側が変化するスピードに依存している。▶︎こうした理由から、どのようなワクチンをどのようなタイミングで生産・供給し、接種を進めるかが極めて重要になる。▶︎このようなワクチン接種の課題は、当然ながらこれまでの感染症でも把握・対処されてきたわけだが、感染が爆発的なスピードで拡大した新型コロナウイルス感染症、COVID-19では、問題の難易度が跳ね上がっている。▶︎そこでテクノロジーの出番だ。既にワクチン自体の開発を加速させるために、AIやスーパーコンピュータなどの利用が進められているが、今回はそのワクチンの接種を大規模に実施するという点で、テクノロジーがどのように活用されようとしているかを見てみよう。
▼《ワクチン流通の管理》
COVID-19ワクチンの予防接種に関して、最大とも言える課題の一つが、大量のワクチンをどう流通させるかという問題だ。▶︎今回のパンデミックは世界中で一斉に発生しているため、特定の地域を優先させることなく、大規模なワクチン接種を各地で同時に進めなければならない(残念ながら現実は、有力な先進国が自国民向けにワクチンを押さえるという状況になっているが、その是非はここでは問わないでおこう)。▶︎しかも新しく開発されたワクチンの場合、その効果を維持するために、極めて低い温度での保管が必要になることが多い。▶︎これは効果のあるワクチンが実用化されても、それをある程度の温度でも安定させるにはさらなる開発期間がかかるためで、今回の新型コロナウイルス用ワクチンの場合も、現時点でマイナス70~80度という超低温での管理が求められている製品もある。▶︎インフルエンザワクチンの予防接種ですら供給不足が懸念される年があるが、その何倍も難しい事態が起きているといえるだろう。▶︎そこでこうした課題を乗り越え、ワクチンを滞りなく流通させるために、AIやIoT、ブロックチェーン等の技術を活用しようという例が出てきている。▶︎例えば超低温での輸送を実現するために、「コールドチェーン(Cold Chain)」と呼ばれる低温物流網の高度化が進められている。▶︎「コールドチェーン」とは、文字通り何かを低温で輸送することを可能にした物流網で、対象物はワクチンだけでなく食料品など多岐にわたる。▶︎現在運用されているコールドチェーンのすべてが、マイナス70~80度という超低温を想定したものではなく、また急拡大したCOVID-19に対応できるほどのキャパシティを備えているわけではない。▶︎そこで新型コロナウイルス用ワクチンを取り扱い可能なコールドチェーンの整備が進められているわけだ。▶︎また取り扱われるモノの中には、低温なら低温であるほど良いというわけではなく、一定の範囲内の温度で輸送しなければならないものもある。▶︎ワクチンもその一種で、あまりに温度を低くしてしまうと、逆に効能が失われてしまいかねない。そのためIoTなどの技術を使い、輸送中に対象物の温度や状態をリアルタイムで把握することが取り組まれている。▶︎さらに前述の通り、免疫を確実に作るためには複数回のワクチン接種が必要となるため、取り扱わなければならないワクチンの量は膨大なものになる。▶︎各国が「確保」、つまり自国内で必要であるとして製薬各社に供給を約束させている分だけでも、世界全体の合計でおよそ70億回分に達しているとのデータもある。これを適切にさばくためには、Amazon並みの需要予測や在庫調整が必要になるだろう。▶︎そこで期待されているのが、新たなテクノロジーの活用だ。▶︎例えばドイツのソフトウェア会社で、流通システムの構築に強みを持つAEBは、AIとブロックチェーンを組み合わせたコールドチェーン管理の仕組みを模索している。▶︎彼らがAIに期待を寄せる理由は、複雑な条件の中から最適な計画を立案する予測力だ。▶︎AEBが公表している情報によれば、(あくまで現時点で)米Pfizerが開発したワクチンの場合、マイナス70度で保管する必要があり、病院で使われているような一般的な冷蔵庫に移してからは、5日以内に投薬しなければならない。▶︎つまり高頻度で個々の病院への配送を行わなければならず、正確な需要予測が求められる。▶︎こうしたワクチン保管・輸送の条件は、個々のワクチンによって異なり、必要な接種回数も異なる。それら全ての条件を加味した上で、人間の命がかかっているという状況の中で適切な答えを導き出すために、AIの力を借りようというわけである。▶︎またブロックチェーンは、ワクチンという人命にかかわる貴重な物品のデータを、安全かつ安価で管理することを可能にする。▶︎実際に現場でどのような種類・品質・保管状態のワクチンが在庫されているか、あるいは使用されているかというデータは、流通だけでなく接種後の患者の状況を追跡する上でも極めて重要になる。▶︎そうした貴重なデータをセキュアに管理する上で、ブロックチェーンに大きな期待が寄せられている。
▼《誰から先にワクチンを接種するか》
こうしたワクチン接種における流通の側面は極めて重要だが、その前に、もう一つ別の大きな課題を解決しなければならない。▶︎それは「誰にワクチンを接種するか」という問題だ。▶︎ワクチンを必要とされる人々全員に速やかに接種できる状態であれば、そのような問題は発生しない。▶︎しかし前述の通り、大規模なパンデミックが進行している状況では、短期間で十分なワクチンを世界の隅々まで届けるというのは不可能だ。▶︎そこで誰から接種すべきか、どの順番で接種すれば終息までの時間を最短にできるかという検討が必要になる。▶︎とはいえこの点も、簡単に答えが導き出せる問題ではない。ワクチン接種の順番を決める際の要素には、さまざまな種類が考えられる。▶︎例えば問題となっている病原体に感染する、もしくはそれを他人に感染させるリスクの高い人物から接種すべきという考え方があるだろう。▶︎そうした人物を優先的に接種した方が、感染を早く終息させられると期待できるからだ。▶︎一方で、感染した場合に重体化するリスクの高い人物(COVID-19であれば高齢者など)や、医療従事者やその他のいわゆる「エッセンシャルワーカー」(社会や経済を動かすためにパンデミック下でも仕事を続けなければならない職業)たちを優先すべきという考え方もあり、こちらも理解できるものだ。▶︎これらの要素をすべて考慮に入れ、「次にワクチンをうつべき人々」を選び出すというのは容易ではない。▶︎ここでも期待されているのが、AIの力だ。▶︎既にAIは、企業の採用活動に応募してきた候補者の選別や、保育施設への入所を待つ待機児童の施設への割り当てなど、選別すべき対象や考慮すべき要素があまりに多い場面において、人間に代わってさまざまな判断を下すようになっている。▶︎同じことを、ワクチン接種の候補者選定にも活用できないかというわけである。▶︎例えば医療関係のAIプラットフォームを開発している米国企業のJvionは、「COVIDワクチン接種優先度インデックス」(COVID Vaccination Prioritization Index)と名付けられた指標を発表している。▶︎これは文字通り、COVID-19用ワクチンを優先して接種すべき人物を示す指標で、米CDC(疾病予防管理センター)が発表しているガイドラインに基づいて判断が行われている。▶︎Jvionは同指標を、さらに各種の社会的要因(高齢者や感染リスクの高い仕事に就く人々の割合等)と組み合わせ、地域単位でのワクチン接種の必要度を示した「COVIDコミュニティ脆弱性マップ」も作成・発表している。▶︎こうしたマップを活用して、ワクチン接種の緊急度の高い地域を把握し、優先的に供給を進めるべきというわけだ。▶︎ただこうしたアプローチには懸念も示されている。AIの判断は文字通り機械的に行われるが、さまざまな原因(AIを「教育」する際の手違い等)によって、質が低かったり、倫理に反する判断を下してしまったり場合がある。▶︎それがCOVID-19をめぐる判断でも発生しかねないというわけだ。▶︎残念ながら、こうした懸念が杞憂ではないことを示す事例も生まれている。▶︎米スタンフォード大学で、同医学部においてCOVID-19患者にも接触していた研修医(つまり感染リスクが高く、優先的にワクチン接種を進めるべきと考えられる人々)が、ワクチン接種対象者から外れるという事態が発生したのだ。▶︎米国の非営利報道機関であるProPublicaの報道によれば、米スタンフォード大学は独自に開発したアルゴリズムを使い、Pfizer製の新型コロナウイルス用ワクチンを最初に接種する5000人の医療従事者を選出した。そこにこの研修医たちは選ばれず、代わりに医師ではあるものの、最前線での業務には従事していない人々などが選ばれたのである。▶︎このアルゴリズムでは、対象者が所属している部署や勤務場所、さらには年齢などが判断材料として使われていた。▶︎ところが研修医は特定の勤務場所が割り振られないことが多く、さらには年齢も若い(重症化のリスクが低い)ため、アルゴリズムの網をすり抜けてしまったのである。▶︎さらに一連の判断はブラックボックス化されており、「なぜこのような判断に至ったか」は公開されていなかった。▶︎その結果、現場に立つ医療関係者の間でも不信感が広がり、事態の発覚後に大学関係者が謝罪するまでに至っている。▶︎こうしたケースの発生は、AIに対する信頼性を大きく損ないかねない。▶︎AIは使えば大きな力を発揮するテクノロジーであるだけに、その価値を正しく引き出すためにも、開かれた議論と検証が必要だろう。それは一時的にAI利用を後退させるかもしれないが、結果として、社会への浸透を着実に前進させるはずだ。▶︎今回取り上げたのは、新型コロナウイルス用のワクチン接種という限られた範囲の事例だが、あらゆる技術がそうであるように、そこで新たに開発された技術やアプリケーションはこれからさまざまな形で活用されるだろう。▶︎例えば最初に紹介したコールドチェーンは、もちろんワクチン限定ではなく、食品などの輸送にも活用できる。▶︎ブロックチェーンによる物理的な物品の管理は、既にさまざまな分野で活用が模索されているが、今回のワクチン管理が成功してモデルケースとなれば、一気に実用化が進むことが予想される。▶︎こうした技術の進歩も、新型コロナウイルスがもたらす「望ましい」遺産として定着することを期待したい[*執筆:小林啓倫氏・ITmedia 2021年1月31日号掲載記事抜粋]
◼️【ウィズコロナ時代のテクノロジー ②】
『AIを活用する新型コロナウイルス対策』
日本国内版も既にリリースされているオリジナル版の「COVID-19 Public Forecasts は、Google Cloud AI と米Harvard Global Health Instituteが開発したもので、さまざまな公的組織や研究機関が公開しているデータを使用してAIを学習させ、予測を行っている。それに日本のローカルデータを与え、トレーニングして完成したのが今回の「COVID-19感染予測」である。
各方面で普及が進むAIだが、新型コロナウイルス対策も例外ではない。Googleのように感染予測に役立てたり、あるいは感染予防や治療に応用したりといったアイデアが登場している。
《AIによるCOVID-19感染予測》
FacebookもGoogleと同様、AIをCOVID-19の感染状況を予測するのに役立てようとしている。▶︎2020年10月20日発表によれば、Facebookは全米の郡(カウンティ)レベルの粒度で、今後14日間の感染の広がりを予測するアプリケーションを開発。▶︎そこではCOVID-19の症例データなど、各種の公開データに基づいてトレーニングされたAIを活用している。▶︎またこれもGoogleと同様だが、米国以外の地域にも同じアプリケーションを展開しようとしており、現在スペイン・カタルーニャ工科大学と提携して、同じ手法を欧州にも適用できないか検討しているそうである。
こうした予測がなぜ必要なのか。▶︎さまざまな理由があるが、大きなメリットの一つは、それによって今後の医療体制を計画しやすくなるという点だ。▶︎つまり患者の急増が予想される地域に、あらかじめ医療リソースを手厚く配分しておくことで、不幸にもその予測が当たってしまった場合(AIの活用という観点からは成功だが)でも医療崩壊を回避できる可能性が高まるわけである。▶︎実際にFacebookは、ニューヨークやニュージャージー、さらにオーストリアの地元の専門家と協力して、彼らにローカライズされた予測モデルを提供。AIが生み出した情報に基づいて、病院やICU、人工呼吸器、マスクなどの医療リソースの対応計画が改善されたそうだ。▶︎また、より直接的に、特定の医療リソースの需要を予測することに特化したAIの開発も進められている。▶︎米国のレンセラー工科大学が取り組んでいるのは、特定のCOVID-19患者がICUを使用することになるかどうかを予測するアルゴリズムだ。▶︎このアルゴリズムでは、対象となる患者の胸部のCT画像と、人口統計データなど症状以外の情報を組み合わせて患者の今後の様態を予測する。▶︎その結果、重症化のリスクが高いと判断されれば、それに基づいてICUの使用計画を立てるというわけだ。▶︎こうした研究が進むことで、より効率的な医療リソースの準備・活用が可能になるだろう。
《より正確にCOVID-19を診断する》
このレンセラー工科大学のAIは、COVID-19の症状に関する予測を行うと同時に、より正確な診断を行うものであるといえるだろう。▶︎このように、診断自体の精度を上げるためにもAIの力が活用されるようになっている。▶︎「AIを病気の診断に利用する」というアイデアは、既にさまざまな実績が生まれている。▶︎例えば2020年1月には、Googleのヘルスケア部門Google Healthから、AIを乳がんの検出に活用するという論文が発表されている。▶︎これはマンモグラフィー(乳がんを早期発見するために乳房をX線撮影する手法)で得られた画像データを教師データとしてAIをトレーニングし、その診断を可能にするというもので、6人の人間の放射線科医と比較した研究では、AIは彼ら全員より正確に乳がんを特定したそうである。▶︎こうした手法を、COVID-19の診断にも応用することができるだろう。▶︎例えばGoogleの取り組みと同じように、X線写真の画像(この場合は肺を撮影したもの)をAIに与え、より精度が高く短時間でCOVID-19の症状が把握できるようにするという研究が行われている。▶︎また特にCOVID-19において期待されるのが、無症状感染者の把握だ。▶︎京都大学の山中伸弥教授が開設している、新型コロナウイルスに関する情報を発信するサイト( https://www.covid19-yamanaka.com/sp/cont7/main.html )によれば、このウイルスに感染しても症状が出ない人の割合は、現在は30~50%程度であると推定されている。▶︎そうした無症状の感染者は、自分が新型コロナウイルスに感染しているという意識がないため、無自覚のうちに他の人々も感染させてしまう可能性がある。▶︎そこで何らかの形で大規模な検査を行うことが望ましいが、PCR検査のように現在一般的な手法では、検査にかかる手間や時間、コストなどの面でハードルが高い。▶︎しかしAIを活用することで、人間では把握できないようなわずかな情報から、COVID-19の感染を効率的に把握できるかもしれないのだ。▶︎MITの研究者らが発表した論文によれば、被験者の咳の音声から、COVID-19感染の有無を判断できる可能性がある。▶︎この研究チームはこれまで、携帯電話で録音された咳の音声から、ぜんそくや肺炎の症状を把握するという研究を行ってきた。▶︎またアルツハイマー病についても、この病気が声帯の衰弱をもたらすことから、咳の音声で初期症状を把握するアルゴリズムを開発してきたそうである。▶︎そして今回のパンデミックに遭遇し、COVID-19感染者の特定に役立てられないかと考えたというわけだ。▶︎研究チームは、既にCOVID-19であると診断されている患者からのものを含め、できるだけ多くの咳の記録を収集。▶︎その結果、健康な人による咳(病気ではないため空咳になる)を含め、約20万回に相当する咳のデータが集められた。▶︎この中から4000件のデータを選んで教師データとし、AIをトレーニングしたところ、新型コロナウイルスへの感染が確認された人々からの咳の98.5%を特定でき、全ての無症状感染者の咳を正確に検出することに成功したそうである。▶︎つまり現在、COVID-19の判定に使われている症状が現れていない段階の感染者であっても、COVID-19が引き起こすわずかな音声への影響を拾って、正確な診断が行える可能性があるのだ。▶︎携帯電話で記録された音声でもOKであれば、検査のために物理的に移動したり、病室などの閉鎖空間に入ったりすることが回避できるようになる。▶︎もちろんまだその正確性は慎重に判断されなければならないとはいえ、こうしたAIが実用化されれば、より手軽に多くの人々が検査を行えるようになり、無自覚のまま新型コロナウイルスをまき散らしてしまうリスクを大幅に抑えられるようになるだろう。
《誤った判断を避けられるか》
こうした新型コロナウイルスや、COVID-19という病気自体をAIで分析するという手法は、さまざまな治療法やワクチンの開発にも役立てられるようになっており、パンデミック克服への期待を支えている。▶︎一方、医療分野におけるAIの活用により、まったく別の問題が生まれる恐れも指摘されている。▶︎2020年8月、医療情報学の学術誌『Journal of the American Medical Informatics Association』に、“Bias at Warp Speed: How AI may Contribute to the Disparities Gap in the Time of COVID-19”(ワープスピードのバイアス:COVID-19の時代における格差にAIがどう寄与するか)というタイトルの論文が掲載された。▶︎これはスイス連邦工科大学ローザンヌ校の研究者らがまとめたもので、タイトルの通り、AIによって「バイアス」(偏見)が発生する可能性が論じられている。▶︎AIとバイアスの問題については、既に多くの専門家によって指摘され、具体的な事例も発生している。▶︎例えば2020年8月には、英国がAIを活用したビザ申請審査システムの使用を中止すると発表している。▶︎これは外国から英国を訪れようとする人々が行ったビザ申請について、どれを迅速に審査すべきかを判断するというシステムだったが、国籍を判断材料の一つとすることで、先進国の住民が多い白人が優遇され、途上国の住民が多い有色人種が不利益を被るのではないかという可能性が指摘されていたためだ。▶︎英国政府はこのAIに人種的なバイアスが含まれている可能性を否定しているが、「無意識のバイアス」が発生していないかを調査した上で新たなバージョンを開発するとしている。▶︎このように、先進国の政府や大手IT企業であっても、AIから偏見を100%排除することは容易ではない。▶︎ましてや個々の医療機関が、COVID-19対策を急ごうと焦ってAI開発に取り組んでいる状況では、質の低い判断をするアプリケーションが生まれてしまう可能性はさらに高くなる。▶︎前述の論文を執筆した研究者らは、人工呼吸器やICUといった貴重な医療リソースの割り当てを最適化するAIなど、COVID-19に関して各種の予測や判断を行うシステムを実際に検証した。▶︎すると学習に使用されたデータサンプルが適切でなかったり、完成したモデルに問題が含まれていたりといった例が確認されたそうだ。▶︎これまで、純粋に症状に基づいた判断ではなく、(あってはならないことだが)人種的な偏見から特定の人種や国籍の人々への医療リソースが控えられる傾向があった場合、それを追認するようなAIが生まれてしまうのである。▶︎こうした事態を回避するためには、AIをトレーニングする際のデータを適切なものに整えたり、いわゆる「説明可能なAI」(何らかの判断を下した際に、その理由を人間が把握できるAI)を実現するようにしたりといった取り組みが求められる。▶︎また先進技術を活用した高度なCOVID-19対策へのアクセスが、特定の社会集団のみに与えられるといった事態も避けられなければならない。▶︎そうした対策が並行して行われることで、初めてAIの真価が発揮されるだろう。▶︎AIを活用したCOVID-19対策(それには前述の通り、医療や治療の面だけでなく社会的な面も含まれる)については、ここで取り上げたもの以外にも新たなアイデアが続々と登場しており、具体的な効果が出始めているものも少なくない。▶︎その意味で新型コロナウイルスの流行は、人間とAIが協力して立ち向かった、史上初めてのパンデミックとなるだろう。▶︎実際に、米ペンシルベニア大学バイオメディカル・インフォマティクス研究所のジェイソン・ムーア博士は、ワシントンポスト紙の取材に対し、20年前であればこのウイルスによって世界は危機に瀕(ひん)していただろうが、AIと機械学習によって「私たちの努力次第で切り抜けられるかもしれない」と述べている。▶︎そして今回の経験は、これから現れる未知のウイルスとの戦いにおいても活用されるに違いない[*執筆:小林啓倫氏・ITmedia 2020年11月27日号掲載記事抜粋]
◎『新型コロナワクチンについて』
[首相官邸公式ホームページ]
https://www.kantei.go.jp/jp/headline/kansensho/vaccine.html
◎Google COVID-19 感染予測 (日本版)のURL
[掲載日時:2021年2月4日(木)14:00]
それ、しらんかっとってんちんとんしゃん。

