【コロナノコトバ】PART.56


◼️【コロナ禍の基礎知識】

『日本はなぜPCR検査が増えないのか?』

結論から言えば、厚生労働省で医療政策を担う医系技官と周囲の専門家たちがPCR検査を増やす必要がないと考えているため。この姿勢は流行当初から一貫している。政府新型コロナウイルス感染症対策分科会のメンバーである押谷仁・東北大学大学院教授は、「コロナウイルスは、すべての感染者を見つけなければいけないというウイルスではないんですね。クラスターさえ見つけていれば、ある程度の制御ができる」「PCRの検査を抑えているということが、日本がこういう状態(他国に比べ感染者数が少ない状況)で踏みとどまっている」と述べている。今となっては、この発言は間違っていたことは明白なのだが、この姿勢は現在も変わらない。PCR検査が増えない理由を質問された田村憲久厚生労働大臣は、「医学雑誌『ランセット』に掲載されている論文だが、(感染の)蓋然性が高いところで定期的に検査をやると、当該集団から感染を2933%減らすことができるが、一般の集団に広く検査をした場合には、接触者調査とこれに基づく隔離以上に感染を減らす可能性は低い」と答弁している。さらに、そのことを支持する事実として、「アメリカは1800万回検査しているが、毎日十数万人が感染拡大している」ことを挙げている。この説明は適切でない。田村大臣が紹介したのは、2020616日に『ランセット感染症版』が掲載した「CMMID COVID-19ワーキンググループ」のモデル研究。確かに、この中で、彼らは、一般集団を広く検査しても感染は5%しか減らせないが、発症者を見つけ、家族とともに隔離し、さらに接触者をトレースすれば、感染を64%も減らすことができると推定している。ただ、その後の研究で、多くの無症状感染者がいることが判明し、彼らは態度を変えた。「CMMID COVID-19ワーキンググループ」は、20201110日に「コロナ感染を検出するためのさまざまな頻度での無症状感染者へのPCR検査の有効性の推定」という論文を発表し、無症状の人へのPCR検査が有効で、積極的に検査を活用すべきと結論している。この論文はイギリスでは大いに話題になったようだが、田村厚労大臣はこの話題に一切触れていない。では、PCR検査を「闇雲」にやっても流行が抑制できない欧米の現状はどう考えればいいのだろう。実は、欧米は検査数が足りていないのだ。表をご覧いただきたい。主要先進国と東アジアにおけるPCR検査と感染状況を示している。



注目すべきはPCR検査数を感染者で除した数字だ。1人の感染者を見つけるために、どの程度のPCR検査を実施したかを示している。中国が1808.7回と突出し、韓国66.6回、カナダ24.3回、イギリス22.2回、ドイツ21.0回、日本19.5回と続く。最下位はアメリカの12.7回だ。中国の142分の1である。実は、コロナ対策を考えるうえで、中国のように「闇雲」にPCR検査をやることは合理的だった。コロナの特徴は感染しても無症状の人が多いことだ。無症状の人が巷にあふれれば、偶然、症状が出た発症者と濃厚接触者をしらみつぶしに探すだけでは、大部分の無症状感染者を見過ごすことになる。無症状感染者は、どこにいるかわからないから、彼らを「隔離」(自宅を含む)しようとすれば、網羅的に検査するしかない。仮に住民の0.1%が無症状感染だとすると、1人の感染者を見つけるためには、1000人の検査が必要になる。まさに、中国が採った戦略だ。15日、北京近郊の石家荘で54人の感染者が確認されると、1100万人の検査を実施することを決めたのも、このような戦略に従っただけだ。コロナ対策が成功した国として、中国以外にはニュージーランド、台湾、ベトナムなどが存在する。このような国と中国は違う。それは、このような国は水際作戦が成功し、国内へのコロナの侵入を食い止めているのに対し、中国はいったん国内で感染が蔓延したのを抑制し、現在にいたるまで、その状態を保っているからだ。日本では武漢に対して、中国政府が命じた厳しい都市封鎖にばかり関心が集まっているが、注目すべきは再燃を許さなかったことだ。PCR検査を徹底して、感染が小規模なうちに封じ込んだのである。これぞ、合理的なコロナ対策といっていい。世界は、PCR検査数を増やすのに懸命だ。前述したように、欧米先進国は感染者数に比して、検査数が足りない。多くの無症状感染者を見落とし、彼らが市中で感染を拡大している。中国とは政治体制が異なる欧米先進国は、中国とは異なる方法で検査数を増やそうとしている。注目すべきはアメリカだ。産官学が協同で検査体制を急ピッチで整備している。例えば、カリフォルニア大学サンディエゴ校は1月に入り、11台のPCR検査自動販売機をセットした。今後、12週間でさらに9台を追加する。同大学の学生はIDカードをスワイプするだけで、無料で検査できる。これまでの2週間に1回から、毎週1回検査を受けるように推奨されるという。アメリカでは各地で無料あるいは定額で検査が受けられるが、多忙な現役世代はわざわざ検査を受けに行けない。このような人たちへの商品開発も進んでいる。2020年1117日に、自宅で利用できる検査キット(Lucira COVID-19 All-In-One Test Kit)に緊急使用許可が与えられた。30分程度で結果が出る。ただ、このキットを入手するには医師の処方箋が必要だ。2020年1215日には処方箋不要の抗原検査(Ellume COVID-19 Home Test)に対して緊急使用許可が与えられた。そして、2021年16日には、アマゾンがデクステリティ社の検査キットのオンライン販売を開始した。1パック約11300円だ。企業も検査体制強化に協力している。ネットフリックスやゴールドマンサックスなどの一部の企業は、無症状の感染者を判別するために、企業が費用を負担し、検査を提供しはじめている。グーグルは9万人の社員に対して、毎週検査を実施する。アメリカが本気になると、体制整備は一気に進む。このことを象徴するのが複数の検査をまとめられる「プール検査」の確立だ。2020年11月、デューク大学の医師たちが、プール検査の研究成果を発表した。この研究では、5つのサンプルをまとめて検査し、もし、陽性が出た場合に、個別に検査するという方法を用いても、感度は損なわれず、80%試薬を節約でき、さらに再検査の場合でも1830時間程度の遅れで済んだ。この研究成果は、アメリカの疾病対策センター(CDC)が発行する週報「MMWR」が掲載し、『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディスン』を発行するマサチューセッツ医師会も、この論文を『ジャーナル・ウォッチ』というニュース・レターの中で紹介した。そして、「プール検査の有効性は明白」と評している。一気にコンセンサスを確立したことになる。プール検査の有効性については、2020年10月にルワンダの研究者が『ネイチャー』に報告しており、遅きに失した感があるが、アメリカが巻き返しに必死なのがわかる。日本は対照的だ。2020年1120日の衆議院経済産業委員会で、佐藤康之・厚労省危機管理医療技術総括審議官は「現在、国立感染症研究所において、その検査性能および再検査を含む総コスト、時間等について研究を実施している」「非常に手間がかかるなど、実用化に向けても課題がある」と答弁し、いまだに臨床応用されていない。本気でPCR検査を増やすつもりがないことがわかる。厚労省は流行当初から、PCR検査を懸命に抑制してきた。シンクタンク「アジア・パシフィック・イニシアティブ」(船橋洋一理事長)の調査により、政府中枢に対して「PCR検査は誤判定がある。検査しすぎると陰性なのに入院する人が増え、医療が崩壊する」と説明に回っていたことがわかっているし、2020年716日には、コロナ感染症対策分科会は「無症状の人を公費で検査しない」と取りまとめている。これは翌日に、塩崎恭久・元厚労大臣などが主導して、「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」を閣議決定することへの対応だ。この中にPCRの拡大、感染症法の改正などが入っていた。結局、日本におけるPCR検査の増加は、民間の動きを待つしかなかった。その嚆矢は2020年124日に新橋駅前で操業を開始した「新型コロナPCR検査センター」だ。ウェブで予約すれば、検査センターを訪問して唾液を採取するだけで、翌日にはメールで結果が届く。1回の費用は3190円だ。同様の検査センターは続々と立ち上がっている。どこも希望者が殺到している。ところが、このような動きを厚労省は快く思っていない。2020年1216日、朝日新聞は『民間PCR施設、都心に続々 ばらつく精度、陽性なのに「陰性」も 厚労省が注意喚起』という見出しの記事を掲載している。この記事は、どのような根拠に基づき精度に問題があると主張しているのか不明である。根拠を示さなければ、単なる営業妨害だ。厚労省も、その意向をそのまま報じるメディアもいただけない。国家をあげて検査体制を強化しようとする世界とは対照的だ。最近、政府は不特定多数の無症状者を対象とした無料のPCR検査を、都市部の繁華街や空港など多くの人が集まるところではじめる方針を打ち出した。ただ、これは期待できないだろう。これは単なるアリバイ作りと考えられる。なぜなら、このような検査施設を立ち上げるのは2021年3月とされているからだ。政府が本気でPCR検査を増やしたければ、民間検査センターを支援すればいい。検査サービスは多様化し、アメリカのように大学などさまざまな場所で検査を提供するようになるだろう。薬局で検査キットを販売し、通信販売を認めれば、さらに検査数が増える。このような体制をとることは、厚労省が自らの過ちを認めることになる。これまでの彼らのやり方をみていると、そんなことは期待できない。現在、日本が適切な対応をとれない最大の障壁は厚労省医系技官と周辺の専門家の存在にあると考えられる。彼らが責任を認め、人事を一新しなければ、このまま迷走が続くのは避けられない。まさに菅首相のリーダーシップが問われている。

[掲載日:2021113日]


それ、しらんかっとってんちんとんしゃん。