チェギョンの家・リビング
宮の女官たちが手際よくチェギョンに衣装を着せている。
時代劇に出てくるような仰々しい伝統衣装と髪型。
鏡に映る自分をしみじみと見つめるチェギョン。
チェ:「これが私?」
女官①:「はい、とてもお綺麗です」
女官②:「本当によくお似合いです」
女官も鏡の中のチェギョンに改めて目を見張る。
その言葉に温かみを感じチェギョンも少し口元が緩む。
そこに支度が済んだと知らされ両親と弟が入ってきた。
ママ:「まあ、なんて素敵」
パパ:「本当だ。本当のお姫様のようだ」
目を潤ますパパとママ。
チェジュン:「孫、いや豚にも衣装ってこのことだな」
チッと舌打ちしてパパがチェジュンの頭をたたく。
苦笑するチェギョン。
そんな家族のやり取りに胸が締め付けられる。
しかし、ぐっとお腹に力を込め背筋を伸ばすと
深呼吸をして3人を見る。
改まったチェギョンに3人も緊張する。
チェ:「今日までありがとう。
みんなも元気でね。
じゃ、行ってくる」
無理に明るく笑うチェギョン。
ママがチェギョンの手を取る。
気丈な娘の頬をそっと撫でて
ママ:「しっかり食べて、しっかり寝るのよ」
チェ:「ん」
パパも握っている二人の手に自分の手を重ねる。
パパ:「薬はもったか?
食べ過ぎたらあれが一番効くからな」
チェ:「もうぉ、高校生だよ。
心配しないで。
ちゃんともったわよ」
チェジュン:「姉ちゃん」
泣きそうになる弟に顔を向け
チェ:「パパとママを頼んだわよ」
チェジュン:「心配するな。
体も鍛えてるから、次に会うときはモムチャンだ」
頷くと名残を惜しむ両親の手を離し歩き出すチェギョン。
パパ:「チェギョン、うちの姫様…許してくれ。
パパが無能なばっかりに」
チェギョンは、クルッと体を翻す。
そして、家族に向いわざと明るく
チェ:「誰のせいでもないわ。
私が選んだの。
私の人生、私が責任持つわ。
じゃ、アジャアジャファイティン」
そういうとクルットと背を向ける。
閉じている門扉の前で大きく深呼吸。
女官たちがゆっくり門を開いていく。
門の前には野次馬や取材陣がたくさん押しかけていた。
抗議ののプラッカードを掲げる者。
声を揃え罵倒する者。
取材記者の質問の声、
そしてフラッシュが光る。
予想以上の喧騒に驚き、
戸惑うチェギョン。
しかし、覚悟を決めしっかりと前を向くと
力強く一歩外に踏み出した。
宮殿・皇帝の間
テレビの前に皇太后、皇帝、皇后、そしてシンが座り
生中継されているチェギョンの入宮のようす観ている。
画面にチェギョンの家の前のようすが映し出されている。
相当な数の人が集まり騒然としている。
皇帝:「凄い騒ぎになっている。
これではシン家も大変であろう。
何も起こらねばいいが…」
シンもあまりの騒がしい状況に眉を寄せる。
皇后:「暫くはあちらにも警護が必要かもしれません」
皇太后:「そうだな、これでは生活にも支障があるであろう」
皇帝:「コン内官、早急に手配せよ」
部屋の隅にコン内官とチェ尚宮。
コン内官:「承知いたしました」
その時、テレビからひときわ大きな歓声が上がった。
今一度、全員がテレビに視線を向けた。
シン家の門がゆっくり開かれチェギョンが姿を見せた。
萌黄色の宮の伝統衣装に身を包んだチェギョン。
トレードマークのお団子頭は、きちんと結われ
緊張からか強張った顔は、凛として気品に満ちている。
一歩、門外に踏み出したチェギョン。
その瞬間、水を打ったように静まる現場。
画面を観ていたシンも
雷に打たれたような衝撃を受けた。
心臓がトクンとはねた。
シン:「…(絶句)」
全員が画面に釘付けになる。
皇帝:「…ほぉ、写真とは随分異なるではないか」
皇后:「本当に…先日とは別人かと…」
それぞれが信じらないというように呟く。
テレビのレポーターも中継を忘れ、映像だけが流れている。
すると突然、画面が切り替わりカメラは
マイクを持ったレポーターにズーム。
レポーター:「し、失礼しました。
あまりにも気品あるお姿にことばをなくしました。
集まった皆さんもシン・チェギョン嬢のお姿に
一瞬にして魅了されたようです。
民間からの輿入れ…まさに現在のシンデレラの誕生です。
韓国皇室はさらに国民に親しいものになりました」
レポーターの声も興奮で上ずっていた。
そして画面は集まった人々に切り替わる。
先ほどの野次も誹謗の看板もなくなり
人々の表情は世紀の婚礼を祝う喜びに変わっている。
画面を見つめていた皇太后。
フッと口元を緩める。
皇太后:「それにしても…なんと堂々として…立派なこと。
先帝が選んだ訳がこれでわかった。
彼女は、皇室と国民を結ぶ懸け橋になってくれるであろう。
きっと…先帝とシン先生もあの世で喜んでおられるであろう」
皇太后が感極まり目を潤ませる。
皇帝も皇后もホッとした表情で頷く。
皇太后:「シン、いよいよ婚礼の儀じゃ。
これから忙しくなる。
太子、そなたも心の準備をせねばならぬ」
しかし、テレビから目が離せないシン。
皇太后のことばにも上の空。
思わず微笑む皇太后。
皇后:「シン」
皇太后に返事をしないシンを皇后がシンを諌める。
シン:「…はい?」
ハッとして皇后を見るシン。
皇太后:「ホホホ…よいよい。
シンも見惚れておったのか?」
シン:「…」
反論もできないくらい図星だった。
昨日、学校で入宮のことを伝えたときのチェギョン。
あの時の驚きと困惑した表情が目に浮かぶ。
そのチェギョンに一晩で何があったというのだろう。
シンはテレビの映像から目が離せない。
チェギョンは、門から出ると
一度も家族を振り返ることはしなかった。
ただ、まっすぐ前を向き、
優雅な動きで車に乗り込んだ。
窓越しにカメラがチェギョンを捉える。
彼女は、車の中でもまっすぐ前だけを見ていた。
その横顔に強い決意を感じるシン。
そして、彼女が妻になる人だということが誇らしく思えてくる。
ゆっくりとリムジンが人波を抜い動き出す。
するとテレビから拍手とともに
「おめでとう」の歓声が響いた。
堂々としたチェギョンの態度は国民に感動を与え
そして、心をとらえた瞬間だった。
シンは画面から視線を皇帝に移すとゆっくり口を開いた。
シン:「父上。
車は半時間もすればこちらに到着すると思います。
迎えにでてもかまわないでしょうか?」
皇帝:「何?」
お妃教育のために入宮する妃を迎えるのは、
東宮夫妻付けとなる内官、尚宮と女官というしきたりだ。
また、婚礼の儀までチェギョンは、別宮・雲峴殿で生活をする。
宮殿の敷地内とはいえシンは出入りできないのだ。
シンもそのしきたりのことは当然認識している。
そして、昨日まではそのことになんの感慨もなかった。
しかし、彼女との幼いころの出会いを思い出し
奥深くに封印していた気持ちを自覚してから
自分のこれまでの言動を悔いていた。
そして、今…。
チェギョンの入宮の様子をみて
シンは昨夜考えていたことを実行しようと決意した。
しかし、シンのことばにすぐさま皇后が反論する。
皇后:「なにを言っているのです。
皇太子自ら出迎えるなど…前例がない」
シン:「承知しています。
しかし、今回の婚姻の話は私たちには青天の霹靂。
ですかからどうしてもすんなり受け入れられず…
投げやりで反抗的な態度をとってきました。
そればかりか自分の不満や苛立ちを
シン・チェギョンに八つ当たりし、
酷く傷つける言動ばかりを繰り返してきました。
それなのに…、
あんなふうに決断をしてくれた彼女に…
ひとこと謝りたいのです」
皇后:「謝る?
そなたは皇太子だ。
そのようなことばを軽々しくと使うものではない」
シン:「母上もご覧になったでしょう。
先ほどのテレビに映し出された堂々とした姿に
僕は、正直感動すら感じました。
しかし、あの表情の裏に
どれだけの不安を秘めているか…。
誰一人、知った者もいない、窮屈な宮に飛び込むのです。
慣れない宮殿での生活への不安を少しでも
拭ってあげられたら…と」
皇后:「その覚悟が必要なのだ。
それなのに…そのように甘やかすようなことを。
それではいつまでも皇太子妃としての自覚ができぬ」
シン:「…」
皇太后:「皇后、よいではないか」
二人のやり取りを聞いていた皇太后が皇后を諌める。
皇后:「しかし、母上…」
不服そうな皇后に今度は皇帝が口をはさむ。
皇帝:「まあ、皇后。
そなたの言うことは道理である。
ここではしきたりが何より大事にすべきこと。
そして、皇后であるそなたには…
立派な皇太子妃になるよう教育をする責任がある」
ホッとしたような皇后。
シン:「父上!!!」
皇帝:「まあ待て」
シン:「しかし」
皇帝はシンを目で制し、皇后を見る。
皇帝:「いくら先帝の遺言とはいえまだ高校生の二人。
マスコミに知られ、いささか早急に事を進めた経緯もあり
正直なこの婚姻には不安もあった。
しかし、これまで反発ばかりしていたシンが
そのような気持ちになったのは喜ばしいことだ。
時代は移り変わっていく。
特に妃は民間から嫁いでくる。
これからはここも少しずつ変わるだろう。
我々も少しずつ頭を柔らかくしてはどうだろう?」
皇帝は、優しい微笑みで皇后を見る。
皇太后も同じ気持ちのようで頷いている。
皇后は、ため息を漏らす。
皇后:「…両陛下がそのように申されるなら…。
しかし、何事も最初が肝心。
チェ尚宮…、くれぐれも情に流されてなりません」
しぶしぶ了承をしながらもチェ尚宮にはくぎを刺す皇后。
チェ尚宮:「はい」
シン:「ありがとうございます」
シンは嬉しくてたまらないというように頭を下げると
急いで席を立ち部屋から出て行った。
慌てて後に続くコン内官とチェ尚宮。
そんなシンを唖然と見送る皇后。
皇太后:「まあまあ…あのように嬉しそうに…。
あのような太子をみたのはずいぶん前のような気がする」
クスクスと笑う皇太后。
皇帝:「これで少し安堵しました」
皇后:「…」
困ったような複雑な表情の皇后。
それでも…ホッとしたように口元に笑みを浮かべた。
雲峴殿・正門
古い門が開き、
チェギョンを乗せたリムジンが入ってきた。
チェギョンが緊張の面持ちでが
ゆっくりと車から降りた。
珍しそうに周りを見渡しながら
不安そうにそっとため息をつく。
コン内官が中に導く。
シンはその様子を陰から見ていた。
胸が高鳴り、喜びが込み上げてくる。
飛び出したいのをかろうじて堪えた。
雲峴殿・ある部屋
チェ尚宮の前に神妙に座っているチェギョン。
畏まってチラチラとチェ尚宮を見ている。
無表情のチェ尚宮。
チェ尚:「ここ雲峴殿は、立派な御妃になられるための
宮中のしきたりに関する教育を受けられる由緒ある場所です。
私はチェギョン様のお世話をさせていただく
尚宮、チェでございます。
これらは、女官のパンとチョン。
どうか遠慮なく御申しつけください。
しばらくこちらでごゆっくりなさってください」
自己紹介を済ませると3人は、部屋を出て行った。
扉が閉まった途端、
チェ:「あ~~、疲れた」
チェギョンは、足を投げ出し大きく伸びをする。
チェ:「う~ん、気持ちいい」
シン:「フッ…やっぱり猫をかぶってたな」
いきなり部屋の外から声がした。
チェ:「わぁおおお…」
驚きの叫びとともに慌てて姿勢を正すチェギョン。
シン:「ククク…無理することはない。
最初からそれじゃ壊れるぞ」
チェ:「なんだ、シ、シン君?」
ホッとしたようにはあ~とため息。
チェ:「もう、脅かさないでよ」
そして、頬を膨らませてシンを睨む。
テレビで見せた凛とした姿を思い出しある意味ホッとするシン。
膨れっ面に思わずにやける。
チェ:「な、なにか用?
また、文句でも言いに来たんでしょ?」
ツンとするチェギョン。
ムキになるチェギョンの反応が可愛い。
シン:「挨拶に決まってるだろ。
もっとガチガチに緊張してるかと思ってたが
いつもと変わらなくて安心した。
それより…慣れない服で窮屈だろう?」
チェギョンを前にすると労わるつもりがつい口調が意地悪くなる。
チェ:「し、しょうがないでしょ。
無理やり着せ替えられたんだから。
ああ、そっか~ぁ。
ジャージの方がよかった?
フン!!
ご期待に添えなくて悪かったわね」
さらに頬を膨らませ悪態をつくチェギョン。
困ったように頭をかくシン。
シン:「いや、そういわれるのも…
仕方がないが…
その…それ…凄く似合ってる。
っていうか…別人みたいだ」
視線を逸らし真っ赤になって嘯くシン。
チェ:「へっ?
今、なんて?」
信じられないというようにシンを見上げる。
チェ:「それって馬鹿にしてるの?」
シン:「はあ?
性格歪んでるのか?
褒めたに決まってるだろ」
チェ:「褒めた?
性格歪んでるのそっちでしょ。
大体一言多いのよ」
シン:「悪かったよ。
こんなことを言いに来たんじゃないんだ」
シンの神妙な態度に
チェ:「へっ
どうかしたの?」
シン:「なにが?」
チェ:「いつもと違うし…
なにか悪い物でも食べた」
シン:「はあ?
…ったっく
お前みたいに食意地はってない。
人が素直に言ってるのに…」
思いが伝わらずブツブツと一人呟く。
そして、チェギョンの傍に腰を下ろす。
シン:「おい、シン・チェギョン」
チェ:「なによ」
シン:「そう突っかかるなよ。
あの…その…これまでのこと悪かった。
だから…謝りに来た」
チェギョンに頭を下げる。
そして、真っ赤になって顔を背けるシン。
チェ:「はあ~~ぁ」
思いっきりのチェギョン。
シン:「だから、なんでいちいち疑うんだ?
素直に受け取れよ」
チェ:「…嘘」
シン:「嘘って…。
こんな恥ずかしいことで嘘言うはずないだろう?」
チェ:「で、でも…これまで…ってどこまで」
ガックリ肩を落とすシン。
シン:「そうくるか…」
チェ:「だっていっぱいありすぎじゃない。
あれも…これも…」
指で数えるチェギョン。
シン:「あれもこれも全部だ」
チェ:「全部?」
シン:「そう…下駄箱の出会いから…昨日まで」
チェ:「…」
シン:「できたらその頭の中の記憶から消してほしい」
チェ:「…」
固まっているチェギョンにシンが不安げに見つめる。
シン:「都合よすぎるか?」
チェ:「…(ううん)」
チェギョンが否定する。
シン:「許してくれるのか?」
チェ:「…(頷く)」
シンはホッとしたように息を吐くと
シン:「ありがとう」
心からの気持ちを込めて微笑んだ。
初めて見る蕩けるように優しい微笑み。
チェ:「…」
シン:「なにか?」
チェ:「そんな顔すると…
誤解っていうか錯覚してしまうんだけど」
シン:「誤解?
錯覚?」
チェ:「私に…気があるんじゃないかって…」
シン:「…」
チェ:「あ、ああそんなわけないか。
あははは…
今のは聞かなかったことにして」
シン:「誤解でも錯覚でもない」
チェ:「へっ?
でも…それって…
えええええっ」
チェギョンがのけ反る。
シン:「プッ」
チェ:「ど、どういう心境の変化?」
シン:「心境の変化…ね。
それを話し出すと長くなる。
これから二人の時間はタップリあるから徐々に話す」
チェ:「…」
納得いかず問い返そうとするチェギョンに
サッと紙袋を差し出す。
シン:「それより…これ」
チェ:「へっ?」
紙袋を受け取ると覗きこみ驚くチェギョン。
チェ:「わあ~ここのお菓子美味しいって有名なの」
チェギョンの顔がパッと輝く。
シン:「知ってるのか?」
チェ:「勿論。
でも、高くて食べたことはない。
雑誌で見たの。
よく知ってたね」
昨夜、ユルからリサーチし
コン内官に頼んで準備して貰ったものだ。
シン:「気にいってもらえてよかった」
ホッとしたように微笑むシン。
すぐに包みを解いて口に入れるチェギョン。
チェ:「うほ~ぃ(美味しい)」
シン:「誰も取らないからゆっくり食べろ」
笑い乍ら手を伸ばし
チェギョンの口もとについたお菓子を手で拭う。
チェ:「うっ」
親密なしぐさに驚いて目を剥くチェギョン。
シン:「まったく幼稚園児が?
変わってないな」
チェ:「へっ
変わってないって」
シン:「いや…気に留めるな。
それより…」
チェ:「それより?」
シン:「…本当に…俺でいいのか?」
チェ:「うっ、ゴホッ」
むせるチェギョン。
シン:「ったく…一世一代のプロポーズにむせるか?」
チェ:「だ、だっていきなり…
へっ
プロポーズって言った?」
シンは、真剣な顔でチェギョンに向き合う。
シン:「そうだ。
大人の言いなりじゃなく、
俺が生涯をともにしたいと思って
シン・チェギョンにプロポーズをしてる」
チェ:「だって…あの時…」
シン:「だから、今までのことは忘れろって。
とにかく今は…
お前のこと心からそう思える相手なんだ。
これからの俺を信じてほしい」
チェギョンの目から涙が零れる。
チェ:「うっ」
ぽとりと手からお菓子が転がり落ちる。
服の袖で涙をぬぐいながら泣き出すチェギョン。
シン:「…チェギョン」
子供のように泣きじゃくるチェギョンに近づくと
そっと肩を引き寄せる。
シンの胸に顔を埋めさらに泣きじゃくるチェギョン。
トントンと肩を叩きながら泣き止むのを待つシン。
どれくらいたっただろうか…。
漸く泣き声がやんだ。
シン:「返事を貰えるか?」
チェ:「うんうんうん」
シンの腕の中で何度も頷くチェギョン。
シン:「ありがとう」
チェギョンの頭上にそっと唇を寄せる。
チェギョンの心も温かく満たされる。
チェ:「ありがとう」
チェギョンが真っ赤な顔でシンを見上げる。
シン:「ぷっ」
チェ:「なに?」
シン:「折角のお化粧が…剥げてる」
チェ:「なっ、もう。
シン君が泣かすからでしょ。
ほんと一言多いんだから」
シン:「クスッ…ごめん」
チェ:「素直だね」
シン:「これが本当の俺かも?」
チェ:「じゃ、本当のシン君。
あのね…。
正直言うと…本当はすごく怖かったの。
宮ってどんなところか解らないし
誰も頼る人がいないし…、
これからどうなるんだろうって考えていたら
昨夜は全然眠れなかった。
そしたら…おじいちゃんが現れたの。
おじいちゃんが大丈夫だって言ってくれて。
あれって夢だったのかな?
気づいたら朝になってたの。
これはもうやるっきゃない…って。
でも…本当は…凄く不安で足が諤々してた…」
シン:「よく頑張った。
立派だったよ。
品位もあったし…。
皇太子妃として誰も文句は言わないし
これからは俺が…言わせない」
チェ:「私も…もっと頑張る。
シン君の横に堂々と立ってられるように…」
シン:「けど…俺の前だけはそのままのチェギョンでいてほしい。
いや、東宮で居る間…でいい。
ほかの奴に見せるなよ」
シンの脳裏にふとユルの顔が過る。
チェ:「他の奴って?」
シン:「いずれ解る」
チェ:「また、後で?」
シン:「ああ、話したいことがいっぱいある。
それから…これは先に言っておく。
ここにはいろんなしきたりがあって…
本来ならお前の面倒を見てやらなきゃならないんだが
正直、それは保証できない。
チェ尚宮がいろいろ教えてくれる。
信頼して頼るといい。
勿論、解らないことや悩んだときは相談にはのる。
それでいいか?」
チェ:「了解、殿下」
シン:「クスッ、じゃ
改めて宜しく妃宮」
シンが手を差し出す。
チェ:「妃…宮…?
わぁ~良い響き。
じゃ、シン君。
改めて宜しくお願いします」
チェギョンがその手を握り返す。
互いを見つめ合い固く握手をする二人。
シン:「後で宮殿の庭でも散歩しよう」
チェ:「ほんと?」
シン:「ああ、そしたら…お前も…
(思い出すこともあるかもしれない)」
シンは期待に心が弾んでくる。
チェ:「そしたら…私が?何?」
シン:「フッ…それより
お妃教育…頑張れよ」
チェ:「えええええ、これから?
今日ぐらいは…」
シン:「甘い」
チェ:「意地悪、鬼シン」
シン:「っったく。
口の減らない奴。
精々教育してもらえ」
チェ:「う~ぅ、殿下~ヘルプミィ~」
シンは、すまし顔で立ちあがる。
シン:「愛してるよ」
チェ:「うっ」
唖然とするチェギョン。
シンは、そういい残すと背中を向けて歩き出す。
その顔は優しく穏やかな笑みが溢れていた。
【第2話:完】
第2話は、これで完結です。
この後の二人についてはみなさんで妄想してくださいね。
素材は、『kissme…』のAKKOさんに頂きました。