芸術高校・玄関  
先生が追いかけて来ないと解りホッとするチェギョン。
途端、目の前に二人の男性が立ちふさがった。
えっ、と立ち止まる。
見覚えある二人にシンのことばを思いだす。
嫌な予感。
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キム内官:「今日から入宮の予定です。
      お迎えに上がりました」
 
チェ:「まだ、授業もおわってませんし…
    ああ、荷物も!!
 
随行員②:「お持ちいたしました」
 
その手にはチェギョンの靴と鞄。
驚くチェギョン。
そして、あきらめのため息。
 
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 美術科・教室 アート 
相変わらずにぎやかな教室。
戻ってこないチェギョンが心配なガンヒョン。
新聞で知ったチェギョンと皇太子の婚約。
イメージ 2友達としてショックだったこともあり
ついつい冷たくしてしまったのだ。
休憩時間もたった一人で教室をでたままだった。
その時、教室の扉が開いた。
チェギョンかと思って振り返るガンヒョン。
しかし、入ってきたのは担任の先生。
しかも後ろから知らない男の子がついてきた。
その容姿にざわつく教室。
 
先生:「まったく、少しは静かにしなさい。
    注目!!!
    今日から私たちの星に新しい宇宙人が移住してきたわ」
 
生徒たち:「「「きゃぁ~」」」
 
拍手と歓声。
担任の紹介にも面食らうがクラスメイトにも戸惑う。
しかし、落ち着いた様子で担任をみる。
 
担任:「わかっているわよ。
    名前は、イ・ユル。イメージ 1
    どう、イケメンの宇宙人でしょ?」
 
相変わらずの調子の担任に苦笑するユル。
またもや、嬉しい歓声。
照れくさくなるユル。
 
担任:「みんな、よかったわね。
    彼はしかも5歳のときからイギリスで暮らしていたの。
    だからいろいろ知らないことも多いから
    仲良くしてあげるのよ」
 
学生:「はぁ~い」
 
担任:「じゃ、授業を始めるわよ。
    ユル君、あそこの席ね」
 
ユルはさされた席に向い座る。
ヒスンがすかさず席を寄せると教科書を見せる。
 
ユル:「あ、ありがとう」
 
綺麗な笑顔にヒスン、真っ赤な顔。
担任が呆れたように見るがそのまま授業を始める。
 
ガン:「先生、チェギョンが戻っていません」
 
担任:「ああ、チェギョンなら早退したわ。
    みんなも知っての通り、色々大変みたい。
    しばらく休むようだわ。
    ほらほら、そんなことより教科書を開いて」
 
ガンヒョンは黙ったまま空いているチェギョンの席を見る、
一人だけ沈んだ表情のガンヒョン。
 
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 宮殿・東宮  
学校から帰ったシン。
コン内官が待機している。
手帳を開きスケジュールを確認しようとする。
それを遮るように
 
シン:「コン内官、ユルが帰国ようだ。
    今日学校で会って驚いた」
 
コン:「編入の手続に参られたのでしょう」
 
シン:「芸術高校に?」
 
コン:「はい。
    実は、義誠大君のご希望もあって
    陛下も殿下がご一緒で心強いであろうと
    許可されたようです」
 
シン:「後でここに挨拶に来ると言っていた」
 
コン:「積お話もございましょう。
    今日のご予定を変更いたしましょうか?」
 
シン:「ああ、そうしてくれ。
    それから、急ぎの仕事がなければ
    探したいものがあるので時間を空けてほしい」
 
コン:「特に急ぎの執務はございません」
 
シン:「では、ユルが来たら連絡を頼む」
 
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コン内官が部屋を出ていくのを見届けると
シンは、急いで暗室に向かう。
学校でチェギョンに「シン君」と呼ばれ
浮かび上がった記憶。
まだ、ぼんやりしたものだった。
それを確かめたかったのだ。
 
シン:「確か…ここに」
 
暗室の机の前に座ると引き出しを開けた。
そこにはH・Rと書かれた箱がある。
手に取り蓋を開けようとして躊躇うシン。
しかし、小さくため息をつくとそのまま机の上に箱を除けた。
 
シンは更に引き出しの奥に手を伸ばすと小さな箱を取り出した。
先ほどの箱より小さく見るからに古びた箱。
シンはフッと微笑むと箱を大事そうに手に取った。
そして、暗室からでてソファに座る。
小さな箱を包むように両手で優しく撫でる。
そして、記憶の扉を開けるかのようにゆっくりと蓋を持ち上げた。
中には色あせた写真と小さな折り鶴がいくつも入っている。
そっと写真を取り出すシン。イメージ 6
 
シン:「クスッ…、やっぱりあの時の…。
    お団子頭はそのままか?」
 
懐かしさと切なさがシンを襲う。
折鶴にたどたどしい文字が書いてある。
習ったばかりの文字だろうが
書道家の祖父譲りのしっかりした筆跡。
 
シン:「シン・チェギョン」
 
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つい口ずさんだ名前。
胸がキュンと締め付けられた。
 
すると…シンの脳裏に今度ははっきりと
あるシーンが浮かんできた。
 
 
 
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~シンの回想~
 
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イ・シン5歳。
聖祖皇帝に呼ばれ久しぶりに宮殿に来たシン。
おじいさまからユルと一緒に遊ぶように言われ
ユルの居る東宮に急ぐ。
途中、シンは廊下でユルを見かけ嬉しそうに走り寄る。 
 
シン:「ユル!ユル!!」
 
しかし、ユルはそんなシンを見て顔を顰めるとイメージ 13
近付いてきたシンの頭をいきなり叩いた。
 
ユル:「こいつ、ドンッ
    皇太孫殿下と呼べよ。
    言っただろ、皇太孫殿下だ!!」
 
ユルの剣幕に驚きで泣きそうな表情のシン。
傍にいる女官も驚くものの何も言えず黙ったままだ。
 
シン:「…」
 
ユル:「ほら、黙ってないで言ってみろ!!」
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更に威圧的なユル。
 
シン:「皇太…孫…殿下」
 
シンの声が震えている。
 
ユル:「今度ユルって言ったら許さないからな」
 
その時だった。
 
チェ:「ユル君でいいわよ。
    だって、シン君はユル君の家族なんでしょ。
    家族なのに皇太…孫???殿下?
    なんか知らないけど…
    そんな名前で呼ぶのおかしいわ」
 
まるでシンを庇うようにユルの前に仁王立ちした女の子。
 
ユル:「チェギョン?」
 
驚きで目を見開くユル。
女官も思わぬ展開にオロオロしている。
 
チェ:「いつもいつもそんな偉そうにするもんじゃないわ」
 
ユル:「ここは宮殿だ。
    そう呼ぶのが当たり前なんだ」
 
チェ:「ふ~ん、じゃ私もそう呼ばなきゃ」
 
ユル:「チェギョンはいいよ。
    でも、シンは違う、
    僕はシンより偉いんだ」
 
チェ:「だったら私もそんな偉い人と遊べないわ。
    行こう、シン君」
 
再び『シン君』と親しそうに呼ばれ驚きながらも
内心、言い負かされたユルを見てすっきりしたシン。
チェギョンは、突っ立っているシンの手を取ると歩き出した。
二人の背中から
 
ユル:「チェギョン?
    チェギョンは僕と遊ぶんだろう?」
 
チェ:「3人で遊びなさいって言われたのよ」
 
ユル:「…」
 
チェ:「じゃ、シン君に誤って
 
女官:「チェギョンさま…なんということを」
 
慌てて止めようとする女官。
するとユルがむっとして
 
ユル:「無礼者。
    僕は皇太孫だ。
    謝るなんてできない。
    それに、母上が言ってた。
    チェギョンはお行儀が悪いから困るって」
 
チェ:「ふう~ん、だったらいいわ。
    行こう、シン君」
 
そのまま二人はユルを残して庭にでた。
繋いだ手が温かく、柔らかく…意識がそこに集中する。
チェギョンのお団子頭が妙に可愛い。
楼閣の外れまでくるとチェギョンはシンの手を離した。
 
チェ:「シン君でしょ?」
 
シン:「うん」
 
チェ:「私、シン・チェギョンっていうの」
 
シン:「僕を知ってるの?」
 
チェ:「皇帝おじいちゃんがユル君の…いとこ?
    シン君が今日は来るから一緒に遊びなさいって」
 
シン:「僕は知らなかった。
    でも、ユル…じゃない皇太孫殿下はいいの?」
 
 
チェ:「家族にあんな意地悪いうなんて。
    謝るまで知らないわ」
 
シン:「でも、おじいさまに叱られない?」
 
チェ:「あのね…内緒よ」
 
チェギョンはそういうとシンに近寄ると
内緒話をするように耳に口元を寄せた。
それが妙にくすぐったくてドキドキする。
 
チェ:「ユル君はちょっとわがままで困ってるんだって。
    いつもチヤホヤされてるから
    だからね、ユル君が間違ったことをしたら
    私はユル君を叱ってもいいんだって」 
 
シン:「ふう~ん」
 
チェ:「それより、シン君。宮殿を探検しよう」
 
シン:「いいよ」
 
二人は手をつないで駆け出した。
時間も忘れ、二人で宮殿のあちこちを歩き回り
探しに来たコン内官に見つかったときには迷子になっていた。
チェギョンのおじいさまにも初めて会った。
そのおじいさまにユルを一人残して行ったことを叱られたが
聖祖皇帝が二人を庇ってくれた。
 
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しかし、シンはその後宮殿に呼ばれることはなかった。
たぶん、ユルのご機嫌をそこねたからだろう。
シンはもう一度、チェギョンに会いたくてたまらなかったが
当時のシンにはそのすべも解らなかった。
時々、ユルと遊んでいるチェギョンを想像し
胸が妬きつくような痛みを感じた。
それが辛くていつの間にか考えないようにした。
 
それから、暫くしてユルの父が交通事故で急死。
恵政宮とユルの突然のイギリス渡航。
シンの父の皇位継承。
シンたちは宮殿に移り住んだ。
シンは、帝王学と称し毎日厳しい教訓の日々を過ごす。
いつしか笑顔が消え、感情を表に出さなくなっていた。
相次ぐ不幸なできごとに聖祖帝の体調が悪化し床に伏した。
ある日、お見舞いにとチェギョンのおじいさまが宮殿に来た。
たまたま、秘密の部屋からその姿を見たシンは堪らず走りだした。
しかし、寸でのところで…その人はすでに門外であった。
 
いよいよ皇帝が最後の時を迎えた。
枕元に一人呼ばれたシンは、皇帝にそっと小箱を手渡された。
お菓子の箱のような小箱には綺麗な紙が貼ってある。
 
聖祖帝:「これを…お前にあげよう。
     寂しくなったら…これを見なさい」
 
シン:「なに?」
 
聖祖帝:「見ればわかる…。
     いつか…また…必ず…会える日がくる」
 
シン:「…?」
 
聖祖帝:「そして…そなたを…きっと…支えて…くれる。
     コン内官…この願い…必ず…叶…え…」
 
それが最後のことばだった。
意味の解らないままただ小箱を握りしめて悲しい別れを告げた。
しかし、慌ただしく執り行われる崩御の儀式。
そして、父の皇帝、シンの皇太子への継承式と
シンは手渡された小箱をみる余裕もなかった。
 
しばらくしてシンは家族と離れ東宮に移り住んだ。
広い屋敷にぽつんといるといっそう寂しくなった。
おじいさまからいただいたアルフレッド相手に寂しさを紛らわす。
葬儀の時、見かけたチェギョンのおじいさま。
悲しみに打ちひしがれた姿に声もかけることもできなかった。
 
シンは孤立しさらに寂しくなっていた。 
それから数年、シンは7歳になった。
自室の隣に誂えた暗室。
その暗室でおじいさまからもらった小箱を見つけた。
机の引き出しから取り出し、丁寧に風を開けた。
なかから出てきたのは一枚の写真と折鶴。
すっかり忘れていた。
 
シン:「あっ」
 
心臓が飛び跳ねた。
あれほど会いたかったチェギョンの写真。
折鶴には一文字ずつ文字が書いてある。
糸で繋いだ折鶴を辿っていくと「早く元気になって」と綴られていた。
きっと皇帝の治癒を祈ってチェギョンが書いたのであろう。
シンは写真を見ながら涙を流していた。
 
すぐにコン内官にチェギョンの消息を聞く。
チェギョンのおじいさまも先帝の崩御から
しばらくして亡くなったと言う。
チェギョンもきっと悲しんでいるだろう…と思ったが
先帝もシン先生も亡くなり、皇太子となったシンには…
もう手の届かない人になっていた。
思い出すと悲しくなる…。
人はそういうとき…無理にでもその追憶を封印するらしい。
シンも写真を小箱に入れると暗室の机の奥深くにしまい込んだ。
 
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漸くつながった記憶。
胸の閊えが取れた。
チェギョンに対して抱いた不思議な感情。
巡りあう運命の予感だったのかもしれない。
 
シン:「おじいさま…やっと会えたよ。
    あいつ…いまだにシン君だって」
 
シンは写真に語り掛けた。
 
シン:「おじいさま…ありがとう」
   
その時、ドアがノクされコン内官とともにユルが部屋に入ってきた。
シンは小箱を気づかれないように棚に戻した。
 
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 東宮・シンの部屋   
部屋にユルが入ってきた。
懐かしそうにシンの部屋を見回すユル。
なんとなく寂しそうだ。
ユルが席に座るのを待って、
 
シン:「じゃ…今回、完全に帰国したってことか?」
 
ユル:「そういうことになるね」
 
シン:「それにしてもなんとなく雰囲気がかわったな」
 
髪を染め、流行のファッションで身を固めたユル。
その微笑みは柔らかだ。
 
ユル:「そういうシンだって」
 
シン:「最後にあったのは5歳のときだった」
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ユル:「そうだったな」
 
二人ともなんとなく気まずい。
しばしの沈黙。
 
ユル:「それはそうと…
    結婚するんだって?」
 
シン:「ああ。いきなりそういうことになった」
 
ユル:「今のお前の性格ならこんな強制的な結婚なら
    拒否すると思ってた。
    氷の皇太子…イギリスでも評判だった」
 
シン:「そうなのか?」
 
ユル:「ああ、本当だ。
    もしかして…余程美人だったとか?」
 
シンは黙って記事が載っている新聞を差し出す。
 
ユル:「この子?」
 
ジッと写真を見入るユル。
そんなユルの様子を見つめるシン。
 
シン:「ああ、そうだ」
 
もしかしたらユルも
チェギョンを思いだすかもしれない。イメージ 19
 
ユル:「可愛い」
 
にっこり微笑むユル。
予想外のことばに驚くシン。
 
シン:「はあ?
    可愛い?」
 
ユル:「ああ、そう思わない?」
 
シン:「いや、一目見て可愛いっていうタイプじゃないけど…」
 
改めて写真を見る二人。
 
シン:「…」
 
ユル:「…」
 
暫しの沈黙…。
 
シン:「ユルとは合わないと思う」イメージ 18
 
ぽつんと呟くシン。
 
ユル:「はあ?
    どうして僕がでてくるの?」
 
シン:「いや、なんでもない」
 
慌てて手を振る。
ユルは、思い出してないようだ。
 
ユル:「シンはどこが気にいったの?」
 
ユルのことばに小さい頃のチェギョンの笑顔が浮かぶ。
そして、不思議に今のチェギョンに重なった。
 
シン:「ああ…自分でも旨く言えないんだが…
    いつも素のままでまっすぐ、本音で言葉がでる。
    打算や駆け引きなどなく心のまま行動する。
    だから…つい、こっちも本気にさせられる」
 
そういいながらフッと思い出し笑いをするシン。
 
シン:「感情がコントロールできず言葉がでるなんて初めてだ。
    彼女といると皇太子であることを忘れてしまう。
    そこが…どうも琴線に触れた」
    
ユル:「なんだよ、それ。
    でも…確かに…彼女なら解る気がする」
 
ユルのつぶやきにシンの神経が尖った。
 
シン:「彼女ならってどういう意味?」
 
ユル:「写真を見て思い出した。
    今日、学校で先生に追いかけられてた」
 
シン:「先生に?」
 
ユル:「服装を注意されてたようだ」
 
シン:「あのバカ…。
            あれ程ジャージを脱げっていったのに」
 
ユル:「個性的でいいんあじゃない」
 
シン:「個性的?
            どこが?
    品位がない」
 
ユル:「そう?
    可愛いと思うけどな。
    でも、僕の前で慌てて脱いだよ」
 
シン:「なっドンッむかっ(あのバカ…俺以外の前で、ったくむかっ)」
 
ユル:「クックックッ」
 
面白そうに笑うユルにムカッとくるシン。
 
シン:「おい、彼女は俺の許嫁だからな。
    間違っても好きになるなよ」
 
シンのことばに驚くユル。
 
ユル:「シン?
    もしかして、嫉妬してるの?」
 
シン:「嫉妬?
    そうか…こういう感情を嫉妬っていうのか」
 
ひとりブツブツ言うシンに怪訝な表情のユル。
 
ユル:「おかしなやつだな。
    っと…皇太子に奴はないな」
 
シン:「俺たち家族だろう?
    呼び方なんか気にするな」
 
ユル:「…ああ、ありがとう」
 
そのことばも意外というようにシンを見るユル。
 
ユル:「家族…?」
 
なんか考え込むユルに深く追求されるのを避けるように
 
シン:「そ、それより、お前美術科に編入だって?」
 
ユル:「う?ああ」
 
シン:「彼女もそうなんだ」
 
と写真を指差すシン。
 
ユル:「そうなの?
    教室で見なかったけど…?」
 
シン:「入宮の準備のため早退した」
 
ユル:「そうか…これから色々教えて貰えそうだな」
 
楽しそうなユルの表情に胸騒ぎを覚えるシン。
自然と眉根を寄せる。
 
ユル:「どうした?」
 
シン:「いや、いい」
 
頭から不安を振り払うようにはあ~と息を吸い込むと
いつもの皇太子スマイルを浮かべる。
 
シン:「それより…
    普通の女の子の好きなものってなんだ?」
 
ユル:「はあ?なんだよ。
    さあ~チョコとかキャンディーとか甘いものじゃない?
    でも、イギリスの子とは違うからな?」
 
シン:「だよな」
 
ユル:「いきなりなんだ?」
 
シン:「彼女が明日からここに来る。
    家族と離れるから…寂しいと思うから…その…
    表敬訪問っていうか…」
 
ユル:「クスッ、なんだ、すっかり気にいってるんじゃないか」
 
シン:「…」
 
図星のユルの指摘に憮然とするシン。
 
ユル:「おめでとう」
 
しかし、ユルのことばに相好を崩すシン。
 
シン:「ありがとう」
 
素直にでたことばだった。 
 
 
 東宮・執務室  
コン内:「殿下?」
 
シン:「はっ?」
 
先ほどか手に取っている書類がめくられない。
何かを考えているようだ。
 
シン:「ああ、すまない」
 
コン:「本日は…集中できないようですが?」
 
シンは書類を机に戻す。
そんなシンに頬を緩め乍ら…
     
コン:「殿下、もしや何か思い出されたのですか?」
 
シン:「宮殿で小さな女の子と遊んだ記憶がある。
    それがシン・チェギョンだったという確信はないんだが…」
 
コン:「殿下…、それはチェギョン様でございます」
 
感慨深げに今度ははっきり肯定するコン内官。
 
シン:「やはり…そうだったか」
 
コン:「初めてこられたのは、
    まだ、お父上が皇位継承される前でございます」
 
シン:「…」
 
コン:「先日、宮殿に来られたチェギョン様には、
    昔の面影が残っていました。
    あの時。お二人は言葉では反発されておられましたが
    殿下は楽しんでおられるように感じました」
 
シン:「あの時はまだ…解らなかった。
    でも、今日学校でチェギョンから『シン君』と呼ばれた。
    その時、心の扉を開かれたような衝撃を受けた」
 
コン:「もしかして、チェギョン様は殿下のことを
    思い出されたのでございますか?」
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シン:「そうではなかった。
    無意識にでたようだ」
 
シンはそういいながら苦笑する。
 
コン:「そうですか。
    当時もそのように無邪気にお呼びになって
    シン先生が窘めておられました」
 
そういいながらコン内官は、懐かしそうに目を細めた。
シンの脳裏にもぼんやりと小さな女の子が浮かんだ。
コン内官は、決意をしたように真剣な目でシンを見ると
 
コン:「殿下…聖祖皇帝陛下は始めから
    殿下の許嫁にチェギョン様を…と
    シン先生にお願いされたのでございます」
 
シン:「えっ?」
 
コン:「当時…義誠大君はご両親の方針もあり
    帝王学を受けられ早くから皇位継承者としての自覚を
    持っておられました。
    しかし時には、目に余る行動も見受けられ
    そのことを聖祖皇帝陛下は
    好ましく思っておられなかったのです。
    それで、シン先生にお願いして
    同年代のチェギョン様と接する機会を設けられました。
    チェギョン様は子供らしい素直な澄んだ心で人を判断し
    誰にでも対等に接することができたからです」
 
シン:「…」
 
コン:「しかし、恵政宮妃はそのことを心よく思われなかったようです。
    それで、聖祖皇帝はある時、
    シン殿下も一緒に宮殿にお呼びになりました」
 
シン:「そうだったのか。
    その時のこと…思い出した。
    あの後も…チェギョンは宮殿に?」
 
内心気になっていた。
 
コン:「いえ、あれからは…。
    皇室もいろいろ大変な事情もありましたし…」
 
シン:「そうか」
 
ホッとするシン。
 
シン:「僕は、とんでもない勘違いをしていた」
 
コン:「…」
 
シン:「明日、チェギョンが入宮してくるんですね」
 
コン:「はい、そのご予定です」
 
シン:「明日の予定を変更してほしい。   
    それと準備してほしいものがある」
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コン:「はい?」
  
シン:「いや、まずい」
 
コン:「…?」
 
シン:「とんでもないとこ見られたし…
    その上にかなり酷いこと言ったし…、
    今更…なんて説明したらいいんだ?」
 
青くなるシン。
そして、頭を抱え込む。
コン内官は優しく微笑むとそっと部屋を出て行った。
 
                               つづく
 

 
            \?\᡼\? 3素材は、『kissme…』のakkoさんに頂きました。
                             http://blogs.yahoo.co.jp/kissme_0516