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チェ尚宮
皇太后:「皇帝の言うとおり。
ここは、皇室として一丸となるのも大事なことじゃな。
シン自身のためではなくこれからの皇室の姿勢を示すいい機会ではないか?」
シン:「…」
シンが神妙な表情で黙り込んだ。
心配そうにシンを見上げるチェギョンをみて皇帝が微笑んだ。
皇帝:「チェギョンさん、いろいろ大変なこともあると思うが
シンのお嫁さんに来ていただけるかな?」
その言葉にハッとするシン。
シン:「父上」
さらに横で皇后が
皇后:「イ・シンの力になってあげてほしいの。
私たちではできないこと…。
そうすれば皇太子妃としてのあなたをシンは全力で支えると思うわ」
チェギョンは、意外な言葉に胸が詰まってくる。
チェギョンがシンを見ると
意外にもシンは俯き何かに耐えているかのようにチェギョンの手をしっかり握っている。
チェギョンは、ぐっと唇を噛みしめ、シンの手をしっかり力を入れて握ると
チェ:「はい。よろしくお願いします」
チェギョンは、なんの迷いもなくしっかりと言い切った。
とたんにシンが顔をあげた。
皇太后:「ホホホ…シン。
なんという顔をしているのだ?」
シンは今にも泣きそうな表情でぐっと唇を噛みしめチェギョンを見つめる。
シン:「…」
ユル:「感動で言葉もない…って感じだな」
そういうユルも目が潤んでいる。
チェ:「シン君」
シン:「ありがとう。チェギョン」
そして、視線を皇太后、両陛下に向け
シン:「そして、お婆様、父上、母上ありがとうございます」
そう言って頭を下げた。
ユル:「シン、よかったな」
シン:「ああ、ヒョン。ヒョンも本当にありがとう」
皇太后:「では、お茶でもいただいてゆっくり話を聞かせてもらおうかな?」
シン:「…はい」
飲み物が運ばれてきた。
チェギョンは、ゆっくりと目の前にお茶を並べていく女性の仕草をみていた。
それはとても綺麗で上品な仕草…。
ふと顔をあげてその女性を見上げた。
女性は、チェギョンと視線があうと微かに口元を緩め目線を下げた。
チェギョンは、にっこり笑って同じように目線を下げて挨拶をする。
お茶を配り終えると女性は、手際良くサッと後ろに下がった。
その様子を見ていた皇后がにっこり微笑むと
皇后:「おおそうじゃ。チェ尚宮」
チェ尚:「はい、皇后さま」
お茶をチェギョンの前に置いた女性が皇后に向かって一礼をしている。
チェ:「…(チェ尚宮っていうんだ)」
背筋を伸ばして凛とした姿。
チェギョンは思わず「素敵」と見とれてしまった。
皇后:「チェギョンさん?」
チェ:「は・はい」
皇后:「これからあなたに宮のことを教えてくれるチェ尚宮よ」
チェ:「ヘッ?」
チェ尚:「どうかよろしくお願いいたします」
チェ:「アッ、は・はい。よろしくお願いいたします」
チェギョンは、嬉しそうに微笑むと頭を下げた。
チェ尚宮もやはりうっすら優しく微笑んで頭を下げた。
シン:「チェ尚宮、どうかおてやわらかに」
ユル:「プッ」
お茶を飲もうとしたユルが吹き出した。
皇太后:「おや、まあ」
皇帝:「…」(唖然)
皇后:「クスッ、どうやらシンの方が心配のようね」
チェ:「シン君、大丈夫よ」
シン:「ああ、そうだといいんだが…」
チェ:「…そんなに怖いの?」
声をひそめてシンに囁いた後、チラッとチェ尚宮をみる。
すると視線を感じたチェ尚宮が
困ったように口元を引き締めたと思うとさらに凛とした表情になった。
その落ち着いた様子に
チェ:「嘘…」
口元を手で覆い、表情が硬くなるチェギョン。
シン:「多分、チェギョンには…」
チェ:「・ ・ ・」
そんな二人に皇后は、
皇后:「これ、シン。そんなに脅かしては…」
シン:「はい」
クスクス笑いだしたシンをチラッと睨んでから
チェ尚宮に向かいもう一度改めて
チェ:「よろしくお願いします」
チェ尚:「はい、こちらこそよろしくお願いいたします」
チェギョンは、それでも姿勢も崩さないで
業務的な返事をするチェ尚宮にほっーとため息をついていた。
皇后:「チェ尚宮はとても優秀な女官ですから、
きっといろんな相談にものってくれるでしょう。
それから、こちらに控えているのがパン女官とチョン女官です」
二人はチェ尚宮より少し若く感じ、雰囲気もチェギョンと似た庶民的な感じがする。
二人を見てホッとしたような表情になったチェギョン。
チェ:「どうかよろしくお願いします」
ニッコリほほ笑んで挨拶をすると
二人も嬉しさを隠しきれないと言った感じで
パン、チョン:「「はい。よろしくお願いいたします」」
と挨拶すると勢いよく頭を下げた。
チェ:「ウフッ、お姉さんたちとても元気」
そういってサイン。
二人もちょっと驚きながらも遠慮がちに小さくサインを返す。
チェ尚:「オホン」
すると二人は急いで手をひっこめると首をすくめた。
チェギョンは叱られた二人が気の毒でしょんぼり。
チェ:「ごめんなさい。私がしたからなの」
ユル:「クックックッ…」
シン:「チェ尚宮、最初からそれじゃチェギョンが委縮します。
慣れるまでは細かなところはおおめに…」
チェ尚宮に言いかけたところを皇后がシンの言葉を止めた。
皇后:「シン。こういうことは最初が肝心なのよ。
チェ尚宮も意地悪をしているのではないのですから。
チェギョンさんもいいわね。
年が近いとはいってもあなたと女官は立場が違うの。
けじめが必要なのは彼女たちの為でもあるの。
これから彼女たちも尚宮となっていけばその態度を身につけなければならないの。
慣れれば何でもなくなるのですから…」
チェ:「はい。わかりました。
お姉さんたちごめんなさい」
二人も申し訳なさそうに頭を下げる。
皇帝:「やれやれ、これじゃ『もう嫌だ』と逃げられそうだな」
皇后:「まあ、陛下まで」
陛下:「シンの気持ちもわからんでもないが…。
チェギョンさん、宮とはこんなところでもある」
チェ:「はい、はやく慣れるようにしっかり勉強します」
ホッとした表情のシン。
皇太后:「ホホホ…チェギョンさん、私たちだって一朝一夕でこうなったわけではない。
焦ることはないし、これからそなたたちが変えていくしきたりもあろう。
焦ることも重荷に感じることもない。
なにより、シンがしっかり支えるであろう」
チェ:「はい」
皇太后:「ところで、チェギョンさんは美術が専攻ときいたが…?」
シン:「お婆様。チェギョンでいいですよ」
チェ:「はい、そうしてください」
皇太后:「そうね。じゃ、チェギョン」
チェ:「はい、美術科に在籍しています」
皇太后:「おじい様は書を教えていらっしゃたが…
チェギョンは書の方は?」
チェ:「はい、少し」
皇太后:「そうか…あの書、おじい様の作品なのじゃ」
皇太后さまが壁にかかっている書を指差した。
じっと見ているチェギョン。
チェ:「エッ?あの書?どこかで???」
シン:「似たようなのが…チェギョンの家になかったかな?」
チェ:「ああ、そうです。やっぱりそうです。
あれと同じものが家にもあります。
でも、どこか少し感じが違う…かな?」
皇太后:「ウフフフ…そなたの家にあるのは先帝が書かれたものじゃよ」
チェ:「エッ?」
皇太后:「交換されたのじゃ。
そなたのおじい様は友達だからと一切宮からの金品をうけとってくれなくて…。
それで先帝が自分の習った書を無理やり交換して。
よく見れば聖祖帝の署名と印があるはず」
チェ:「え〰、確かにおじいちゃんがとても大切にしていたんですが…。
凄いお宝だったんですね」
皇太后:「ホホホ…それはそうじゃ。
しかし、なんとも欲のないお方だったのだな」
それからしばらくおじい様の話やチェギョンの家の話をして
皇帝:「では、チェギョン。今日はそろそろ。
ご両親も心配されているであろう。
所でご両親には私たちからもお願にあがるのが筋なのだが
今はかえって迷惑になるであろう。
いずれ、こちらがきちんとかたがついたらお目にかかりたいと伝えてほしい」
チェ:「はい。ありがとうございます」
皇后:「シンもそれでいいですね」
シン:「はい、ありがとうございます」
帰りは夜も遅いと言うことで目立たないようにキム内官がチェギョンを送っていった。
チェギョンを見送ったシンは、嬉しさで一杯であったがヒシヒシと責任を感じていた。
そして、いよいよ誕生会に向けてシンの頭はフル回転し始めた。
素材は、『kissme…』のAKKOさんに頂きました。