2024年1月14日からTBSで放送された日曜劇場「さよならマエストロ~父と私のアパッシオナート~」が全10楽章を終え、無事ドラマとして幕を閉じた。僕はリアタイではなく、TVerで全楽章を観ることができた。

 

 

 

 

 

 

当初は某ドラマの二番煎じだとか、アンチな意見が目立っていたが、楽章が進むにつれ、感銘度が上回った印象。 所々涙を誘う場面もあり、ユーモアで笑わせてくれるところもあり (この要素が一番多かったかな) 、とても楽しめたドラマだった。音楽を志していたり、アマチュアやプロで活躍中の演奏家たちにとっては、元気や勇気をもらえるフレーズもふんだんに散りばめられていたように感じる。

 

ドラマの最初の辺りから言われていた「音楽は人の心を救うことができる」という言葉が最終楽章でも語られる―救われたのは「自分」だと―。感動的なフレーズであるが、僕にはやや理想論に聞こえた。真に生死を分ける頻拍した状況に置かれるなら、それどころではあるまい。「平和」で、ある程度の「自由」や「健康」「ゆとり」があるからこそ、音楽に満ちた生活ができるのだと思う。それでも、音楽に心を癒された、励まされた、慰められたという経験は音楽を愛している方々には共通した体験といえる―僕もその1人である―。現在、音楽を楽しめる環境にいられることを感謝したいと思う。心の中に収められた音楽たちは、生涯にわたって僕を支えることになるだろう。

 

メシアン/トゥーランガリラ交響曲~第10楽章フィナーレ。10楽章もある

のはこの曲くらいだろう。チョン・ミョンフンの指揮はコーダが聞きもの。

(ドラマとは関係ありません。あしからず)

 

 

 

 

ドラマ冒頭でシューマン/交響曲第3番「ライン」が扱われていたのが、僕がこのドラマを観る気になった大きな理由であった。首尾一貫するように最終楽章でも再び「ライン」が演奏されていたのが嬉しかった。この曲と作曲家シューマンについて、ドラマの中ではこのようにナレーションされていた (語りは芦田愛菜)―。

 

ドイツ・ロマン派を代表する作曲家

ロベルト・シューマンは情熱と苦悩の人生を送った

出版業を営む家に生まれ、幼い頃から文学と音楽を愛した

10代で姉と父を、20代で兄と母を亡くした

愛する人との別れがいつも隣にあった

ピアニストになる夢が指のまひで絶たれても

音楽への情熱は失わず、美しい曲を作り続けた

不安は常に心を襲った

それでも

揺れる気持ちも愛する人への思いも

詩をつづるように音楽にした

それは子供の心を失わなかった音楽家の

澄みきった情熱のシンフォニー

悩める私達に降り注ぐ確かな希望

 

 

このナレーションのおかげで、僕がシューマンを好む理由が少しわかったような気がしている (「ライン」は僕がシューマンの交響曲の中で一番好きな交響曲でもある) ―。

 

希望」「朝の光」という、シューマン/交響曲第3番変ホ長調Op.97「ライン」

ロビン・ティチアーティ/スコットランド室内管弦楽団の素晴らしい演奏で―。

 

 

 

 

「和解」に音楽が一役買ったのも印象深い。かつてブラームスも「ドッペルコンチェルト」で成し遂げたことである。オケの面々に生じた不協和音を協和音にすべく、トランペットとチェロのデュオに編曲した「田園」第2楽章は聞き物だった―。

 

ブラームス/ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲~第2楽章。

親密さの点で、このアーノンクール盤は最も成功しているように思う。

 

ベートーヴェン/交響曲第6番「田園」~第2楽章。ピアノ・トリオ版で―。

 

 

 

ドラマのメインともいえる、父と娘の和解の場にも音楽があった。それは、2人にとっての思い出の曲、メンデルスゾーン/ヴァイオリン協奏曲~第2楽章だった (第1楽章が「アレグロ・モルト・アパッシオナート」であるのは偶然ではあるまい) 。当初はトラウマ級の苦い思い出だったのが、5年の時を経てようやく美しい思い出へと昇華したのだった―。

 

アリーナ・イブラギモヴァのソロでメンデルスゾーン/ヴァイオリン協奏曲を。

ヴィブラートの抑制された音色が美しい。終楽章は圧巻。

 

シャンソン「ラ・メール」。すべての関係が万事元通りになるわけではない―。

 

 

 

 

ドラマに登場するキャラクターそれぞれに「さよなら」のカタチがあった。最後の最後、タイトルを回収するように「さよならマエストロ!」と (コンミスになった娘とJKの指揮者を含む) オケ全員が叫ぶが、ちゃんとドラマくささを残して終わってくれた。少々あっけらかんとしたフィニッシュで拍子抜けしたが、スペシャル版なり、シーズン2なりに繋がりそうにも思える終わり方だった。

 

次作があるなら期待したい―と思う。