2013年以降リリースされてきたハインツ・ホリガーによる「シューマン/管弦楽作品全集」の中からの1枚(2016年盤)。協奏曲アルバムであり、パトリシア・コパチンスカヤをソリストに迎えた当盤はシリーズ中、特に注目された。

 

 

 

古今のヴァイオリン協奏曲の中で、最も好きな「シューマン/ヴァイオリン協奏曲ニ短調」。名技性が削ぎ取られ、音楽を縁取るようにソロが展開する一種独特なコンチェルト(ヨアヒムによるベートーヴェン/ヴァイオリン協奏曲を聞いたのが作曲の動機とされるが、それをモデルとしつつさらに徹底した作風ゆえ、カデンツァすら取り除けられている)。演奏頻度が増した現代であっても人気の少ない作品ではあるが、聞くごとに味わいが深まる類の音楽である。

 

かつてはクレーメル盤(2種)やツェートマイヤー盤で親しんだが、当盤でのコパチンスカヤは自らの芸風を通し、個性的な音色で作品に対峙する―改めて聞いたが、見事の一言に尽きる。音楽が息づき、仄かに輝く。

 

(下記ブログでは触れなかったが、初演の「いわくつき」の理由が説明されている)

 

 

 

「シューマン/ピアノ協奏曲イ短調」はヴァイオリン協奏曲とは比較にならないくらい有名で、「ドイツ・ロマン派の代表的なピアノ協奏曲」と位置付けられている。

ルプー盤をはじめとして多くの演奏に接してきたが、当盤でのデーネシュ・ヴァーリョンによるピアノは洗練された持ち味(以前ナクソス盤でのシューマン演奏を聞いたことがある)。晩年のシューマン相手でもお構いなしにワイルドな個性を存分に発揮したコパチンスカヤほどインパクトが強くないためか、耳を素通りしてゆくスマートな演奏だが、その分ホリガーの指揮の方に注意がいく。彼は初稿版のフレージングを一部採用し(クラリネットの装飾句)、シューマン本来の意図をあぶりだす。

 

オリジナルのスコアから真実の響きを引き出す―各パートを絶妙なバランス感覚でクリアに音化する手腕は実に素晴らしい(その根底にはシューマンへの愛がある)。

他のシリーズでもそうだが、ホリガー盤を聞くとシューマンのオーケストレーションの不備についての指摘が、もはや時代遅れのように感じられるのが何よりも嬉しい。

 

アーノンクールから始まった「シューマン・ルネサンス」はここに極まるのである。

 

 

 

ヴァイオリン協奏曲ニ短調~第1楽章

 

 

初稿版による貴重な音源

 

(現行版の)ピアノ協奏曲イ短調~第1楽章