コレクション初のオルガン曲のみのアルバム―。ベルギー出身の作曲家セザール・フランク(1822-90)が残した主要なオルガン作品がマリー=クレール・アランの演奏で収録されている。作曲者自身オルガニストとして弾いていたのと同じタイプのオルガンで演奏されているそうである―リヨン、サン・フランソワ=ド・ザール教会のオルガン(1879)。3段鍵盤、45ストップ―。1976年録音。なおアランは後年に全集を完成させている(再録音含む)。

 

 

 

 

 

先日(先月?)UPした「ヴォーン・ウィリアムズ/田園交響曲」もそうだが、熱心に聞いてこなかった作曲家が最近になって僕の中で開拓されつつある―このフランクもそう。ビギナーの頃は名曲「ヴァイオリン・ソナタイ長調」を聞いて官能的ともいえる旋律美に酔いしれていたが、アンチの意見を見聞きしたせいか、フランクの作品自体をあまり聞かなくなった(確か小林秀雄だったと思う。その意見にも一理あり、気づかされた感があった)。そういった「刷り込み」はけっこう長く続くもの―。時折ラジオで受動的に聞く(かされる)程度だったのが、いつだか「前奏曲、フーガと変奏曲」を聞いて唖然とした。オリジナルはオルガン曲で、その時はピアノ版で演奏されていたのだが、冒頭の前奏曲の切実な音楽にすっかり魅せられてしまったのだ(もちろん「吐き気」は起こらなかった)。ツイッターで知り合った方から、オリジナル版の素晴らしさを聞いたので、BOOKOFFに長年(?)売れずに残っているこのアルバムのことを思い出して購入に踏み切ったのである―市内に2店舗あり、時々偵察に行くのでラインナップは店員並みに知っているつもりだ―。

 

「前奏曲、フーガと変奏曲」Op.18。そう、三浦氏の演奏で知ったのだった。

 

多くのヴァージョンが存在している「ヴァイオリン・ソナタイ長調」。

ここではコルトーが編曲したピアノ・ソロ版で―。

 

未だに「交響曲ニ短調」は苦手だが、フランクの弟子ショーソンの

「交響曲変ロ長調」はワーグナーを思わせ、こちらの方が好み。

でも「フランキスト」という言葉は好きではない。

 

フランク/ピアノ五重奏曲ヘ短調はブラームスを思わせる重厚さ。

最近とみに演奏される。これはそのダイジェスト版。

 

 

 

 

「オルガン」というと、小学校にあったリード・オルガン(足踏みオルガン)を懐かしく思い出す―休み時間に弾いて(鍵盤を押して)遊んだものだ。オルガンの曲であれば、すぐに思い浮かぶのはやはりバッハだろう。僕が最初に購入したのもバッハ/「オルガン名曲集」だった。オルガンの音は荘厳で、教会やステンドグラスのイメージを想起させる。クリスチャン人口が1%を満たない日本人でも、この音には一種の魅力を感じるのも事実。実際の教会で聞いたことはないが―僕が何年か通っていた教会(集会)はブレザレン系なのか、ア・カペラで讃美歌を歌っていた―、もしドイツやフランスの教会で聞いたら、きっと圧倒されてしまうことだろう。ただ、録音ではその大音量が耳にきつく感じることがあり、次第に聞かなくなった。聞いたとしてもグールドが「フーガの技法」をオルガンで弾いた録音くらいだろうか。ソロよりもオケに取り込まれた方がむしろ好ましく思われ、ヘンデルやプーランクのオルガン協奏曲などは結構愛聴したのを覚えている。

 

懐かしい音色―。「音」と「記憶」は密接に結びついている。

 

トロントのキングスウェイ教会での録音。拘りが伝わってくる。

 

特にアンダンテが好きだったヘンデル/オルガン協奏曲ヘ長調Op.4-4。

即興と合唱(!)を交えたプロムスでのライヴから―。

 

 

思えば、作曲家でオルガンの名手はそれなりにいそうである―キリスト教の歴史のある西欧であれば尚更だろう。教会の専属オルガニスト、というわけである。意外だったのはメンデルスゾーンがオルガンの名手だったこと。ブルックナーの場合は想像しやすい―そもそも交響曲の響きがオルガン的だからである―。ドイツ、フランス問わず大抵の作曲家はオルガンのための作品を書いているようにも思われる。

 

メンデルスゾーン/オルガン・ソナタ第6番ニ短調Op.65-6。

 

ブラームス最期の作品/11のコラール前奏曲Op.122。

 

ラインベルガー/ヴァイオリンとオルガンのための6つの作品Op.150。

オルガンとのアンサンブルは珍しいように感じる。

 

 

 

 

今回こうやってオルガンに向き合えるとは思ってもみなかったので、実に嬉しい―。

それと共に(当然だが)そちら方面の知識の疎さに気づき、学びの機会となったのも喜びだ。幸い、このアルバムの解説では非常に詳細に「フランクのオルガン」について説明されていて助けになった(フランク自身が演奏した2種類のオルガンと今回の演奏者アランが使用したオルガンのストップ表も記載)。この「フランクのオルガン」というのは、彼をして「私がどんなにこの楽器を愛していることか」と言わしめたカヴァイエ=コル制作のオルガンのことである。ライナーノーツによれば、彼はオルガンを当時の管弦楽法に適合させ、「オーケストラの響きのするオルガン」を制作したといわれている。実際「シンフォニック・オルガン」という形容が相応しいほど、多彩な音色が駆使される―フルート、オーボエ、クラリネット、トランペット、ファゴット、ヴィオラ・ダ・ガンバなど、多様な「ストップ」が用意されている。3段にわたる鍵盤(ペダルを含めると4段)はそれぞれ「レシ・エクスプレシフ」(Recit Expressif)、「ポジティフ」(Positif)、「グラン・トルグ」(Grand-Orgue)と呼ばれ、音の強弱や表情の変化を担う。1859年、サント・クロチルド教会に設置されたそのオルガン―3段鍵盤、46ストップ、14のペダル―をフランクは終生愛し、その存在は作曲の原動力となり、結果オルガンのための作品が12曲生まれることとなった(ジャケット写真がそのオルガンである)。それらは3つの曲集に分けられる―「6つの作品」(1862)、「3つの作品」(1878)、「3つのコラール」(1890)―。

なお、フランク自身によって各曲にはレジストレーションの指示がなされている(ライナーノーツの最後にはその指示が小節ごとに解説されている)。

 

 

 

2012年に公開されたドキュメンタリー映画「The Genius of Cavaillé-Coll」。

 

「6つの作品」~交響的大曲Op.17。後のヴィドールの「オルガン交響曲」

の原型ともなった作品。アルカンに献呈されている。モスクワ音楽院に

設置されたカヴァイエ=コル作のオルガンによる演奏。

 

アルカン/ピアノ独奏による交響曲Op.39-4~7。共通するネーミング。

鍵盤楽器のみでシンフォニックな楽想を追求―。

 

 

 

このアルバムでは最初に「3つのコラール」(1890)が曲順を変えて収録されている(第3番イ短調,第1番ホ長調,第2番ロ短調の順)。フランク最晩年の作品で、実質最後の曲だという―前述したブラームスが最後に書いた曲もコラールだったことを思い出す―。「死ぬ前にバッハのようなコラールを!」という熱烈な意思がこの作品に込められている。特に第2番ロ短調は「バッハ/パッサカリアとフーガ」に似たフレーズが聞こえてきて興味深い。但し他は「バッハとは別の構想で」書きたいとも願ったとおり、後期ベートーヴェンの作風に通じる抽象的なフレーズを感じるし、クロマティックな書法はワーグナーを思い出す。まさにあらゆる音楽的要素が集約・統合された作品といえよう―「コラール」に纏わる宗教的問題など、この作品の前では取るに足りないことである。フランクの弟子ダンディは「彼が音楽に託した遺言であり、生涯の反映であり、魂の代弁者である」と激賞している。フランクの作風に影響を受けた日本の現代作曲家・矢代昭雄も「3つのコラール」がフランクの最高傑作、オルガン音楽史に輝く金字塔の1つに数えられると高く評価している。

 

マリー=クレール・アランによる1995年の再録音盤より。サン・

エティエンヌ教会のカヴァイエ=コル・オルガンを使用。

 

 

 

続いての「パストラール」ホ長調Op.19は「6つの作品」(1862)に収められている1曲。オルガン製作者カヴァイエ=コルに献呈されたという。タイトル通りの楽想が中間部のやや荒々しいフガートを挟み込む3部形式となっている。

 

 

次の「英雄的小品」ロ短調は、「3つの作品」(1878)の最後を飾る曲。パリ万博の際に建てられたトロカデロ宮殿に設置されたコンサート用のカヴァイエ=コル新作オルガン―4段鍵盤、63ストップ―のために作曲されたのが「3つの作品」であった。この「英雄的小品」は勇壮ながら暗い雰囲気のマーチで始まる。何やら「ダースベーダー」のイメージを抱いた(聞いていただければ分かるかも)。中間部のコラールはモーツァルト/「アヴェ・ヴェルム・コルプス」のフレーズに少し似ている。僕としては結構気に入った曲である。

 

こちらも再録音盤より。当盤(旧録音)よりテンポが速く、聞き応えがある。

 

 

 

最後は(お待ちかね)「前奏曲、フーガと変奏曲」ロ短調Op.18。アルバム購入の目的の作品である。「6つの作品」(1862)に含められている曲で、サン=サーンスに献呈されている。まるでバッハ作品のようなネーミング…。他にも「前奏曲、コラールとフーガ」(1884)、「前奏曲、アリアと終曲」(1887)というピアノ曲があるが、これらも同様。そういえば、かなり昔にボレット盤を所有していたのを思い出した―「交響的変奏曲」がカップリング。でも確かOp.18が含まれていなかったように思う―。前述のように、最初聞いたのはバウアー編曲によるピアノ版だったが、今回初めてオリジナルのオルガン版を聞いて、その雰囲気や音色の多彩さ、各声部が異なるストップで鮮やかに示される点など、オリジナル版の雄弁さに改めて驚かされ魅了された。優しいオルガンの調べは、ちょうど雪の降るクリスマスの時期に似合う―。最近車の中でよく聞いているが、道路の渋滞も苦にならなくなる素敵な作品である。

 

アファナシエフ&コルトーのピアノで、各2曲を―。

 

ルキノ・ヴィスコンティの映画「熊座の淡き星影」(1965)では

「前奏曲、コラールとフーガ」が用いられている。

 

当音源より―。再録音盤はテンポが僅かに速く、アンダンティーノが

十二分に歌われていない。よってこの旧録音盤を選んだ次第。

 

 

ブログの〆は「6つの作品」~「祈り」Op.20。祈りを込めて―。