フォローしている音楽ブログで知り、音源を聞いてハマって即購入したCD 。ナイトハルト・フォン・ロイエンタール (c.1190-c.1240)による「ミンネザング」(愛の歌)など全13曲がアンサンブル・レオーネスによって素朴に奏でられ、歌われる。ここのところ、聴く機会が少なかった声楽作品に触れることが多くなり、その魅力に気づけたのもこれら音楽ブロガーの方々のおかげである―。
永続的な人気を誇った、とされるロイエンタールの歌の数々―。
ただ、当の本人の情報は驚くほど少ないようだ。中世の宮廷歌人だったらしいが、民衆の中で絶大な人気となり、一人歩きして「ヴィジョン」を生み、憶測や期待のこめられた「作曲家像」が作られていったのではないか―と、今回調査して感じたところである(「彼」の人気ぶりは、その歌う姿が木版画やフレスコ画に残されていることからも伺える。このジャケットはまさにそれだ)。本当に彼の作品かどうかすら確認できなくとも(「作者不詳」「読人知らず」のような曲は世界中に存在する。一体どれくらいあるのだろう。「伝承歌」なども含めると星の数ほどになりそうだ)、しっかりと「歌」は生き残る、というのは不思議な嬉しさがある―。
彼の名前が「銀河英雄伝説」を思わせるのは上記のブロガーの方のご指摘通り、だ。
矜持にかけて自ら「叛逆者」となったロイエンタール。その名前には旧約聖書
詩編84:7に由来する「嘆きの谷」という意味があるといわれる。CDタイトル
の「涙のベール」はそのことを指しているのだろう―。
志村けん&谷啓&小柳ルミ子の素晴らしい掛け合いをどうぞ―。
ヴァレンティーナ・リシッツァによるショパン/エチュードOp.10-4。
ヴォーカル担当のエルス・ヤンセンス=ファンミュンスターが前半でその美しい
歌声を披露する。後半はライティス・グリガリスがヴォーカルを担当。
マルク・レヴォン&バティスト・ロマンがゲスト参加している2020年ライヴ。
ジョスカンやオブレヒトの作品に加え、バッハのコラールへの引用で有名な
イザーク/「インスブルックよ、さらば」も演奏されている。
一聴してすぐに気づくのは、録音の良さとバグパイプなど古楽器の心地よい持続音である。前者に関してはこのNAXOSレーベルのポリシーの1つである。基本的に「廃盤」にせず、手軽なコストパフォーマンスで「音楽の百科事典」的な存在を目指すレーベルだ。メジャーではないが、確かな実力を持つアーティストたち(最近はメジャーな演奏家も起用されている)によって演奏され、高品質な録音でまとめているのだ。企画モノにも強く、「日本の作曲家シリーズ」や「古楽」「ヒストリカル録音」「新進演奏家シリーズ」など、種類も豊富。膨大な音源のネット配信も実施されている(こちらのほうがなじみ深い方々もおられることだろう)。
今回のCDもそうだが、特に最近は内容の充実が著しく、当初の「廉価盤」のイメージはジャケットデザインに仄かに感じられるのみだ。
ナクソスが誇る「日本作曲家」シリーズ。その第1弾となったCD。
後者に関しては、現在市場に出回っているナイトハルト全てのアルバムを確認したわけではないが、楽器編成のほとんどは特定されているわけではないようで、ほぼ全ての曲に編曲の手が加えられている可能性が高い。打楽器などが含まれている録音もあるようだが、この盤では含まれておらず、ドローンを土台として、弦楽器が弾いたり爪弾いたりする中で、ヴォーカルが絡んでくる―というシンプルなサウンドが基調となっている。プログラムのコントラストとしてであろうか、器楽のみの演奏も何曲か含まれている。
アルバムは全13曲構成。最後の曲目がボーナストラックと明記されている。
印象的なのはまず1曲目。カンティレーナ「おんどり」(Der han)。バグパイプのみの演奏。そのいにしえの響きで、中世ヨーロッパへ「タイムスリップ」する思いがする―。
ほぼアタッカで入る2曲目は「私は全ての尺度を超えて悲しむ」(Mir ist ummaten leyde)。タイトルが示すほど悲壮感はなく、淡々とした音楽が続く―。
2011年のライヴ。最初バティスト・ロマンがバグパイプを演奏しながら登場。
後にマルク・レヴォンが登場し、明瞭な歌声を聞かせる―。
6曲目が「来たれ、甘い夏の天候よ」(Willekome eyn sommerweter)。アンティーク・ギターの響きとソプラノ歌唱、ヴィエールによるドローンが心地良い―。
まさにこんな「夏」であってほしいものだ―。梅雨に悩まされるのではなく。
9曲目は「私は花を悼む」(Ich claghe de blomen。当初ボードが誤変換し、「私は鼻を痛む」になった)。9分半という最長の演奏時間。優しく穏やかな「追悼」―。ソプラノによるア・カペラ歌唱だ。
同盤音源より。なんとも美しい音楽―ナイトハルトも驚く美声だろう。花は大切に愛でたい。
12曲目(実質的に最後の曲)は「神よ、高く賛美します」(Vil wol gelopter got)。宗教色がほぼ皆無だったこのアルバムがこの曲で閉められる。不思議とドローンが神聖な響きを帯びるように聞こえるのは刷り込みだろうか。ソプラノがしめやかに、崇高に歌う。
そしてボーナストラック13曲目。タイトルが「死ぬ、死ぬ」(Je muir, je muir)。歌詞対訳が添付されていないので確認の仕様がないが、どういう歌詞なのか少し気になる。3人によるア・カペラで歌われる。今までとは異なり、ポリフォニックに歌われるのが興味深い上、フランス語歌唱による楽曲である。不思議と印象に残る音楽ではある―。
そのボーナストラック。少し憂鬱な響きも感じられる。アルバム全体を俯瞰
すると「人生」そのものをデザインした選曲なのか、とも思えてくる―。
CDに付属している「帯」にはこのようなキャッチコピーが載せられていた―。
「今も昔も、人の世の出来事はさほど変わりなく、
季節は巡り、花は咲き、人は恋に身悶える 」