レナード・バーンスタイン/VPOが1981年にライヴ収録した一連のブラームス作品集からの1枚。交響曲第3番ヘ長調Op.90に「ハイドンの主題による変奏曲」Op.56aがカップリングされている。ブラームス生誕150年であった1983年にリリースされ、その年のレコード・アカデミー大賞を受賞した名盤のようだ―。

 

 

 

 

 

全4曲あるブラームスの交響曲の中で、僕はこの第3番が最も好きである―全楽章が聞き所で溢れかえっているからだ。1秒たりとも気に入らないフレーズはない。全楽章がピアニッシモで終わるというのも極めて魅力的。アンチ・クライマックスを意識した作品なのかもしれない。最初に聞いたのはカラヤン/VPO盤―実はカップリングの「ドヴォルザーク/交響曲第8番」が目当てだった(この頃はブラームス第1番を圧倒的に好んでいたように思う。現在はサッパリだ。強いて言えば2つの中間楽章が良い。特に間奏曲風の第3楽章は独創的だと思う)。次にムーティ盤。彼の端正な容姿のイメージそのままの演奏だった(カップリングの「アルト・ラプソディ」も良かった)。そしてアーノンクール/BPO盤がかなりの間、僕にとっての決定盤となった。チェリビダッケ/MPO盤も所有したことがあったが、やや「場違い」の印象を受けた―SWRとの旧盤でも同様の印象だった。

そんなある時、YOUTUBEでバーンスタイン/VPOの演奏を観た。レニーによるコメンタリー付だった。それを観て彼の鋭い見識と「ブラームス愛」にすっかり心打たれてしまったのである。

ブラームスの第3交響曲はバーンスタイン/VPO盤でなければならない。

これが僕の「決定盤」なのである―。

 

 

 

 

第1楽章を聞き始めてすぐに気づくのは、そのテンポの遅さである。この曲にしては破格の15分超えである(提示部繰り返し含む)。このテンポが必然的である理由を、レニー自身がわかりやすく解説してくれている(詳しくは「動画」を御覧頂きたい。僕がここで語るより遥かに「学び」が多いから)。このテンポのおかげで異様なまでの迫力が伝わり(特に冒頭「F-As-F」の3つ目の音の「爆発」は凄まじい)、内声部が生きてくる。オケの重厚で奥行きのある響きも楽しめる。どういうわけか、クラリネットの響きが印象に残る―。この演奏に親しんでしまうと、他の演奏が受け付けなくなってしまう恐れがあるくらい魅力的。僕は、短調に転じて勇壮に突き進む展開部が好きだ。そして、ピアニッシモで静かに終結するコーダも―。

 

バーンスタイン/VPOによるシューマン/交響曲第3番「ライン」第1楽章。

「F-As-F」後のテーマと冒頭がよく似ている。交換しても違和感が無い程。

 

 

 

第2楽章「Andante」も10分に迫るタイムでじっくり奏でる。やはり、ここでもクラリネットが目立つ。ハ長調にも関わらず、どこか寂しさを感じさせるには何故なのだろうか―先行きの見えない恋愛に通じる気持ちかもしれない(この時期ブラームスは若いアルト歌手ヘルミーネ・シュピースと恋愛関係にあったと伝えられている)。曲の終わり頃に、突如サプライズが起こる―弦の滑らかで寄り添うようなロマンティックなフレーズが現れるのだ、まるで奇跡のように…。コーダは弦のハイポジションの響きでしっとりと閉じられる―。

 

 

第3楽章「Poco Allegretto」では、かの有名なメロディが聞かれる(ベートーヴェン第7番の「不滅のアレグレット」のように、この表記には名旋律が多い)。

第3楽章は灰色の真珠のようであり、涙に囲まれています」―クララ・シューマンの賛辞である。ハ短調の響きはある意味「宿命的」だが、ここでは切なさが勝る。枯葉舞い散る秋の風景に染まる。あのメロディが後半、熱がこもって切々と歌うのはレニーの真骨頂だ。名残惜しむようなコーダも実に良い―。

 

フランソワーズ・サガン(1935-2004)の小説「ブラームスはお好き」(1959)を

映画化した「さよならをもう一度」(1961)で様々なアレンジが施され、随所に

用いられる名旋律となっている。

 

最近発売されたノトス・クァルテットによるピアノ四重奏曲版の第3楽章。

シェーンベルクの逆をいったわけだが、見事にハマッている。

 

 

 

第4楽章が短調で始まるのは興味深い(メンデルスゾーンの「イタリア」交響曲のフィナーレを思わせる)。この闘争的な楽章はドライブミュージックに合う。

ところで、こうして全4楽章通して聞くと、アタッカで繋がれていないにも関わらず不思議とまとまりを感じるのは僕だけだろうか。一説によると「各楽章の終わりには、次の楽章の開始音が含まれている」のだそうだ。なるほど、実に面白い―。

やがて闘争が過ぎ去り、平穏が訪れる―長調にチェンジする音楽的効果は素晴らしいの一言に尽きる。この幸福感はたまらない。きっとこれからも―。

コーダの終わりに第1楽章のテーマが優しく変容し、全楽章ピアニッシモで閉じられる個性的な交響曲は、こうして最後のピアニッシモを迎えるのである―。

 

ガーディナー/VPOによるメンデルスゾーン/交響曲第4番イ長調「イタリア」

の珍しい初版の演奏。第2~4楽章。フィナーレは14分過ぎから。

 

ブラームスとケラーによるピアノ連弾版。各楽章で奏者たちが異なるが、

それぞれ個性が感じられて興味深い。特にフィナーレは力強い熱演だ。

 

 

 

 

カップリングの「ハイドンの主題による変奏曲」Op.56aは、ブラームスの管弦楽曲の中でも僕がかなり好きな作品である。テーマの鄙びた感じがホッとする。どうやらテーマはハイドン作ではないらしいが、どちらでも構わない。アーノンクール/BPO盤による工芸品を愛でるような精緻な演奏を未だに忘れられないが、バーンスタインの演奏は緩急のコントラストと表情の濃さで聞かせる。

Var.2「Piu Vivace」のアップ・テンポはスリリングだ。Var.4「Andante con moto」の短調による深く沈み込むような音楽は聴き応えがある。Var.6「Vivace」のいきり立つような激しさも、それを優しく受けるVar.7「Grazioso」の流れも、聞いてて心地良い。Var.8の神秘性を受けてのフィナーレの懐深い音楽はどうだろう―達成感あふれる見事なフィナーレだ。

 

ハイドン変奏曲~フィナーレ。BPOがアーノンクールの指揮の下、このオケ

らしからぬガラス細工のようなデリケートな演奏を聞かせる―。

 

2台ピアノ版Op.56b。スコア付き。アルゲリッチ&フレイレによる演奏。

やはり僕はオケ版の方が好みのようだ―。

 

 

前述のコメンタリー動画。レニーの解説の雄弁さに引き込まれる。その後に

全曲演奏がなされる。熱い指揮ぶりにも注目―。タイトルは「第4番」だが、

実際には「第3番」である。

 

タイトルは「第4番」だが、実際は管弦楽曲集である。「ハイドン変奏曲」

は34分辺りから。