ヘラクレスの姿を
目の前で見るトリコ

トリコ
(く・・・
 空気が重い・・・!!)

トリコ
「ハァ・・・
 ハァ・・・」

左腕のリドルチャプターを
ちらっと見るトリコ

トリコ
(データが入ってるかどうかなんて
 全く気にもならねえ・・・

 これは・・・
 こいつらの捕獲レベル・・・
 測れる気がしねえ・・・!!)

完全にビビル
トリコと小松

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小松
(ごく・・・)

トリコ
「こ、これが・・・
 八王の一角・・・!!」

マッピー
「他の【幻獣ヘラク】も
 混ざってるーよ

 覚えておくといーよ
 八王なのは【ヘラクレス】だけーよ」

ヘラクレスの周りにいる
たくさんの馬はヘラクらしい

ヘラクレスを前にしても
平然としているマッピー

トリコ
「マ、マッピー・・・

 いったいここは何なんだ・・・?

 この空気の重さは・・・
 どういうことだ・・・!?

 まるで・・・
 泥の中にいるような・・・

 息をするのもやっとだ・・・!!」

マッピー
「それは・・・
 【馬王の丘】の空気が
 厚いからだーね

 そこに成長した【エアツリー】が
 いるからーよ」

トリコ
「エアツリー・・・あっ!」

 あの木か・・・!!
 知ってるぜ・・・!!」

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トリコ
(初めてグルメ界に来た時・・・
 【アングラの森】で見た・・・

 空気を産生する木!!)

トリコ
「よくよく見渡してみると・・・

 あちこちにエアツリーが
 あるじゃねえか!」

マッピー
「馬王は空気を欲しがる―よ

 だから大きい木が
 ある方がいーのよ

 トリコ―に小松・・・
 私は今から死ぬ・・・

 エアツリーの栄養になるーよ」

トリコ
「は?」

マッピーがエアツリーに触れる

マッピー
「エアツリーは・・・

 強い生命力を持つ栄養を
 吸収すると・・・

 質のいい空気を
 吐き出-すよ」

マッピーの話を聞き
カーエルが泣く

カーエル
「ゲローン・・・」

マッピー
「元気だすーよ
 カーエル・・・」

マッピーも泣き始める

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トリコ
「ちょ・・・
 ちょっと待てよマッピー!
 栄養って・・・」

マッピーがヘラクレスに話しかける

マッピー
「ヘラクレス・・・
 私の命を捧げることで・・・

 【エア】を獲りに行くのを
 許してくれますか?

 お願-いです
 どうか私一人の命で・・・」

ヘラクレスがマッピーを
じぃーっと見る

トリコ
「マッピー!!
 やめろ!!」

トリコ
(ど・・・
 どうすりゃいい・・・!?

 戦うしかねえのか・・・?)
 こんな化け物を相手に・・・?)

その時
小松がエアツリーを見て
何かに気が付く

小松
(この木・・・
 もしかして・・・)

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ナレーション
「妖食界の東・・・
 村から少し離れた所にある
 
 【空気の庭】

 栄養に富んだ【肥沃雨】と
 日光に溢れ・・・

 多様な植物をはぐくむ
 肥沃な土地である

 光合成によって豊富な酸素が
 産みだされるこの土地は・・・

 妖食界にある数少ない
 癒しの場である・・・」

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メルク、アタシノ、
車椅子に乗ったダルマ仙人が
空気の庭に散歩に来る

ダルマ仙人
「悪いね・・・
 でもここに来ると・・・
 落ち着くんじゃ」

アタシノ
「あなたの症状は・・・

 高山病に似ている所が
 ありますよ、仙人

 酸素濃度の高いここなら
 症状は随分と和らぐはず」

ダルマ仙人
「空気の安定しない場所に
 長らくおったからのう・・・

 だがここの空気は・・・
 本当に美味しいわい」

3人のすぐ側を
3匹の子供のヘラク

ダルマ仙人
「彼らも散歩かのう?」

メルク
「あれは・・・
 幻獣ヘラクの子供・・・
 馬王の血を引く馬・・・」

アタシノ
「魔獣ダルマホースと
 ジャニスユニコーンの子供も
 いるわね・・・」

ダルマ仙人
「草食獣や肉食獣は
 たくさんいるが・・・

 馬王の丘の馬は全て・・・
 空気を食べる【空食獣】・・・

 もちろん肉や植物も
 食べはするが・・・

 最も好むのは【空気】
 
 彼らにとって
 【呼吸】と【食事】は
 等しい・・・

 馬王ヘラクレスは一呼吸で
 1か月は動き続けることができる

 飲まず食わずでも呼吸さえしてれば
 世界を100周できる・・・

 休息無し1か月も戦い続けられる
 ・・・とも言われておる

 それゆえ・・・

 安静にしていれば一呼吸で
 一年は生きられるとも」

アタシの
「普通の人間なら呼吸なしで
 全力で動けるのは8秒ほど・・・

 安静にしてても・・・
 無呼吸を保てるのは・・・
 せいぜい数分」

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メルク
「空気そのものを・・・
 エネルギーにするとは驚きだ

 それがヘラクレスが
 不老不死の獣と
 呼ばれる理由なのか?」

ダルマ仙人
「その鍵となるのが・・・

 驚くべき【肺容量】と
 呼気の【量】じゃ・・・」

 ヘラクレスが一回に吸い込む
 空気の量は・・・
 およそ3600億トン

 体積にして・・・
 30000万kmにも達する・・・」

ナレーション
「太平洋の海水量と同じぐらい」

ダルマ仙人
「だが吸い込んだ量の10%しか
 吐き出さないために

 第8エリアの空気圧は常に低い

 それに呼気に含まれた毒素が
 上昇気流によって空中に巻かれ

 様々な形の雨となって
 降り注ぐんじゃ・・・

 これが第8エリアが
 【雨の大陸】と
 呼ばれる所以じゃよ・・・

 通常ヘラクの呼吸は年に1回・・・

 それだけならグルメ界の
 植物や動物、微生物も

 まだ繁殖できるぐらいの空気が
 残るんじゃが・・・

 一つだけ・・・

 【出産】の時だけは通常の
 100倍ほども呼吸をするんじゃ・・・

 その結果残されるのは
 たった一つの【空気の実】

 巨大なエアツリーに実る
 その実こそが他でもない
 食の王様【エア】なんじゃ

 数百年に一度【エア】は実り・・・

 その実にはこの星全てに
 空気を送り込めるぐらい
 濃縮されていると言われておる

 そして成熟した実が落ち
 大地にぶつかった途端に・・・

 弾け飛んだ実は大陸の
 全ての雲を吹き飛ばし・・・
 100色の虹が照らしていく

 その瞬間だけ・・・

 光はあらゆる場所の
 水と空気を透過し

 信じられないほど分厚い雲が
 他の大陸との道をつなぐ

 馬王はその瞬間を狙って生まれ

 生まれた子供はその虹の橋を渡って
 他の大陸へと走る・・・

 古代から他の大陸に響き渡る
 その産声を【ヘラクの反響】
 と呼んだのじゃ・・・

 まだ子供に過ぎないが
 馬王のあまりの強大さに

 その力は大陸を超えて
 知られるようになった」

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メルク
「だがあのヘラクの子供は・・・
 ずいぶん未熟そうだが・・・?」

ダルマ仙人
「そうじゃ」

アタシノ
「あの馬は十分な空気がない状態で
 産まれてきたに違いないわ」

ダルマ仙人
「少なくともここ数千年・・・
 ヘラクが虹を渡った痕跡はない」

メルク
「【ニトロ】が・・・
 成熟した実が落ちる前に

 収穫する手段を・・・
 発見したからか・・・」

ダルマ仙人
「・・・そうじゃ

 エアが実るたびニトロに
 持ち去られていた

 我々もエアの調理法こそ
 知ってはいても・・・

 【ブルーニトロ】には勝てぬ

 もはや【エア】の収穫は・・・
 不可能なんじゃ・・・

 ・・・とはいえ

 ヘラクレス自身がそれを狙えば
 デリケートな【エアの実】は
 すぐに腐ってしまう・・・」
 
 八王の一員となれる馬王の数が
 減って来てるということは・・・

 この大陸の終わりを
 意味しているのかもしれん・・・

 我々が今できる事と言えば・・・

 エアツリーの実の栄養に
 なることだけかもしれんのお」

 ほんの少しの栄養にしかならんが・・・

 そうすれば空気となって
 馬王の栄養になれる・・・」

メルク
「仙人・・・

 トリコと小松なら
 必ずやってくれますよ」

その時
メルクの拡音石ネックレスが
ブチッっと外れる

ダルマ仙人
「ん?
 どういう意味じゃ?」

メルク
「・・・」

小声すぎて聞こえない

ダルマ仙人
「えっ?何?
 なんて言ってんの?」

アタシノ
(あ、石落ちてる・・・)

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【トリコサイド】

小松が包丁を手に前に出る

マッピー
「な・・・
 なにする気―よ!
 包丁なんか持ち出しーて!」

トリコ
「小松!?」

小松
「声が・・・
 声が聞こえるんです・・・
 【食材】の・・・!!」

マッピー
「・・・!!」

トリコ
(小松・・・!)