もう、随分昔のこと。

いとうづの森が、まだ遊園地だった頃


私の親友の病氣は

いよいよ悪く、

今日何かあってもおかしくない状況で


本人も、周りももはや疲れ果て


そんな空気を、

彼女の幼い息子は感じ取って

ずっと一緒にいる自身の祖母の

側から片時も離れなくなっていた。


1年を超える闘病生活、

母親と一緒にいられないその子を

それまでも度々

うちにお泊まりさせたり

公園に連れて行ったりして

私によく懐いていたので


重苦しい病室から連れ出そう、と

動物園に行こう、と誘った。


年末に向かって忙しくなる

仕事を必死で片付けて

やっと病院迎えに行ったのは

もう午後2時を過ぎていたと思う。


ところが、だ。


祖母に抱かれて出てきた彼は

もうギャン泣きで

祖母から離れようとしない。


それでも無理やり車に乗せて

祖母の姿が見えなくなっても

それは一向に収まらず

「行かない〜!」

「ばーばぁ〜!」

と泣くばかり・・・


この後仕事は徹夜覚悟で

やっと取れた時間なのに。

喜んでくれると思ったのに。

何やってるんだろう、私。

悲しいやら腹立たしいやら


泣きたいのは、私だ・・・


などという思いが

3歳になったばかりの子に

分かれという方が無理に決まってる。


辛い思いをしてるのは

この子の方なんだから・・・



車を停めた。

「行かない?帰る?」

「行かない〜、かえゆ〜」

拙い言葉が返ってくる。


仕方ない、帰るか


でももう近くまで来てたので

Uターンも兼ねて

正門の前まで車を走らせた。

いとうづ動物園の

看板が目の前に現れた・・・


その2に続く・・・