いとうづ動物園の看板

そこには可愛い動物の絵が

描かれていた。



その瞬間、「あ」と指さし

ピタリと泣き止んだ。

まだ、犬を「わんわん」と言う

それくらい幼い子なのだ。


よかった

このまま帰る、という

選択はなくなった。


氣を取り直して

ニコニコ笑顔で入園した。


だけど私はまだ知らなかった。


11月で、冷たい霧雨が降る

午後3時に近い遊園地の寂しさを。


人影まばら・・・いや

ほとんどいなくて

遊具ももう動いていない

晩秋の、陽が傾き始めた道を

小さな手を取って歩く・・・


動物たちももう、

静かに閉園時間を待っている。


それでも興味のありそうな

獣舎の前で立ち止まっては

「〇〇がいるねー」

「ほら、可愛いねー」などと

あやしながら歩いていく。


どんよりと垂れ込めた雲の暗さより

私達の明日は暗く、絶望的で、

永遠の別れがすぐそこに

迫ってきていることを

確かに感じていた。



動いていない遊具の代わりに

小さな身体を抱き上げて

クルクルと回して遊んだ。

小さい子が喜ぶアレだ。


園の広さが余計せつなくて

広い世界にお互い

一人ぼっちでいるみたい。


まだ3歳の

彼にとっての母親

私にとっての親友


その命の灯は

もうすぐ尽きようとしている。


小さな手の温もり

抱き上げると、

すがりついてくるように

その小さな腕を絡めてきた。


・・・何も出来ない。


「帰ろうか、ママの所に」



あれから20年以上経つ。

きっと彼は覚えてはいないだろう。

けれど何年経っても

11月の、寒い雨の日には

いつもあの光景が浮かんでくる。


そしてその翌年

いとうづゆうえんは閉園が決まった。


その3へ続く・・・