ともえ先生

 じゃあ、肢イにいくわね。

 

<肢イ>

 国民健康保険法では、国民健康保険事業の運営に関する重要事項を審議するため、都道府県に国民健康保険運営協議会を置くことを規定している。

 

ともえ先生

 復習よ。国保の保険者は2つ。いいわね?

 

さき

 市町村と国保組合です。

 

ともえ先生

 そのとおりよ。じゃあ、設問でいう「運営協議会」はどこに置かれているの。

 

まさ

 市町村かな。国保組合の方はよく分からないけど、少なくとも「都道府県」には置かれていない、、、と思う。

 

ともえ先生

 そう、その「…思う」って感覚が、あたしの言う「相場観」よ。それが大事なの。国保を運営しているのは市町村でしょ。だったら、「運営協議会も市町村に置かれている…はず」って推理できるわよね。そして、その推理は的中よ。

 

さき

 そうなんですね。そうやって推理できれば、この問題は「絶対×」とは言えなくても、「多分×」とは言えますね。

 

ともえ先生

 そう。それでいいの。じゃあ、肢ウにいくわ。

 

<肢ウ>

 高齢者医療確保法では、都道府県は、年度ごとに、保険者から、後期高齢者支援金及び後期高齢者関係事務費拠出金を徴収することを規定している。

 

ともえ先生

 まず、後期高齢者医療制度だけど、根拠法令は「後期高齢者医療法」ではないわ。「高齢者医療確保法」よ。これは大丈夫?

 

まさ

 大丈夫じゃなかった。まさに「後期高齢者医療法」だと思っていたよ。

 

ともえ先生

 そうでしょ。でも、これを知らないのは、社労士としてまずいわ。で、もうひとつ基本事項の確認よ。後期高齢者医療制度を運営しているのはどこ? 市町村? 都道府県? それとも国?

 

さき

 えっと、たしか、後期高齢者医療広域連合だったと思います。

 

ともえ先生

 そうよね。制度開始前に、「市町村が運営するか」「都道府県が運営するか」でかなり揉めたんだけど、折衷案として、都道府県内のすべての市町村が加入する「広域連合」が運営主体になる、と決まったわ。

 

まさ

 じゃあ、東京でいうと、東京23区を含め、都内の62市町村のすべてが加入する「東京都後期高齢者医療広域連合」が、東京都の後期高齢者医療を運営している、ってこと?

 

ともえ先生

 そういうことね。だから、保険料も、「国保は市町村ごとに異なる」けど、「後期高齢は都道府県ごとに異なる」わ。カラクリは運営主体の違いね。これも、社労士としては知っておいてほしいわ。

 

、、、

 さて、じゃあ、話しをすすめるわね。さきちゃん、後期高齢者医療制度で一番の問題はなに?

 

さき

 それは、財政です…よね。75歳以上の高齢者は仕事をしていない人がほとんどだから、保険料っていう「収入」は期待できません。逆に、現役世代に比べて病院に行くことは多いから、後期高齢者に対する医療費という「支出」は、相当な額になっているはずです。

 

ともえ先生

 そのとおりよ。後期高齢者が自分達で納める保険料で、自分達の医療費をまかなうことなんて、とてもじゃないけど、できないわ。だから、現役世代が納める保険料が、後期高齢者に対する医療費として使われているの。それはイメージが湧くかしら?

 

まさ

 うん。なんとなく分かる。要は、僕ら「現役世代が納めている保険料は、現役世代の医療費として支出するだけではなく、後期高齢者に対する医療費としても支出されている」ってことだよね。

 

ともえ先生

 そのとおりよ。社保だったり国保だったり、とにかくあたしたち現役世代が納める保険料の一部が、後期高齢者の医療費として使われているの。

 

さき

 わたしは、今は、国保に加入して、保険料を支払っています。その保険料の一部が、おじいちゃんおばあちゃんの医療費に使われているってことですね。

 

ともえ先生

 そういうこと。で、ちなみに、さきちゃんの納める国保の保険料は、どこに納めているの? さきちゃんの国保の保険者はどこ?

 

さき

 えっと、区役所です。東京都港区です。だから、港区に保険料を納めていることになります。

 

ともえ先生

 そうよね。で、その保険料の「一部」が、後期高齢者への医療費として使われるの。じゃあ、その「一部」ってのは、港区から、直接、東京都の後期高齢医療広域連合に流れているのかしら?

 

まさ

 ...なんとなく、そうじゃない気がする。

 

ともえ先生

 うん、違うわ。港区は、さきちゃんから徴収した保険料を社会保険診療報酬支払基金に納めているのよ。そして、その「支払基金」が、後期高齢者医療のそれぞれの「広域連合」に交付金を支給しているの。

 

さき

 うわぁ、ともえ先生、すいません。さすがに、よく分からなくなってきました。

 

ともえ先生

 そうよね。財政はかなり難しいから、もう一度、説明するわ。よく聞いてね。まず、社保なり国保なり、現役世代から保険料を徴収する。その徴収する主体は、社保であれば「協会けんぽ」または「組合けんぽ」、国保だったら「市町村国保」または「職域国保」よ。ここまではいい?

 

まさ

 うん。いわゆる「保険者」に保険料を納めているんだよね。

 

ともえ先生

 そうよ。そして、その協会けんぽとか市町村とかの「保険者」は、さらに「支払基金」に保険料を納めるの。だから、たとえば港区は、さきちゃんから保険料を「徴収する」んだけど、その徴収した保険料の一部は、支払基金から「徴収される」の。ここが難しいわね。

 

さき

 でも、なんとなく分かりました。私が保険料として6万円を納めたとしたら、そのうちの、たとえば4万円は港区のもの、その他の2万円は支払基金のものになる、ってことですね?

 

ともえ先生

 そうよ。私たちは保険料を「納付」する。そして、その納付した保険料は、後期高齢者のために、さらにその一部が支払基金へ「再納付」されるの。その「再納付」の名目が、「後期高齢者支援金」なの。

 

まさ

 そうして「支払基金」によって集められた「後期高齢者支援金」が、それぞれの「広域連合」に交付される、ってこと?

 

ともえ先生

 そのとおりよ。その交付金のことを「後期高齢者交付金」って言うの。そして、その交付の段階で、もう「ひとひねり」が来る。いい?

 

さき

 本当ですか? すでに限界ですけど、覚悟して聞きます。

 

ともえ先生

 「広域連合」は全国に47あるわ。都道府県単位なんだから当然よね。そして、その「広域連合」ごとに財政力に格差があるのも当然よね。だって、北海道の財政状況と、東京都の財政状況は違ってくるでしょ。だから、東京都民から吸い上げた保険料の一部は、都内の後期高齢者への医療費として支出されるだけではなく、北海道の後期高齢者への医療費としても支出されるのよ。わかる?

 

さき

 う〜ん、何となく分かります。東京都の方が地方よりは平均給与も高いし、地方に比べれば高齢者率も低いです。要するに、東京都は、財政的には地方よりは潤っています。だから、都民から回収した保険料は、都民のためだけに使われるのではなく、その一部は北海道民や秋田県民のためにも使われる、ってことですね?

 

ともえ先生

 そういうこと。とにかく複雑な制度だけど、目指しているところはとてもシンプルなのよ。「所得が多いグループから集めた保険料を、所得が低いグループの医療費に回す」ってこと。単純な「所得の再分配」ね。

 

、、、

 ただ、その再分配が、「現役世代の保険料を高齢者世代に再分配する」「都市の保険料を地方に再分配する」という二段階で行われている点が、表面上の理解を難しくしているの。仕組みとしては、単純な「所得の再分配」よ。これがいわゆる「財政調整」ね。

 

まさ

 うん。キツい。キツいけど。意外とシンプル。お金の流れとしては、さきちゃんの場合だと、まず港区に保険料を払う、港区が「支払基金」に「後期高齢者支援金」として保険料の一部を渡す、「支払基金」がその集めた支援金を、「後期高齢者交付金」としてそれぞれの「広域連合」に再分配する、ってことだね。

 

ともえ先生

 そうよ。「保険者」→「支払基金」→「広域連合」。意外とシンプルでしょ。で、その際の名目が、「支援金」と「交付金」。

 

、、、

 これ選択式で出そうじゃない?

 

まさ

 たしかに。そうか、択一試験の問題で選択式の対策をするってこういうことなんだね。

 

ともえ先生

 そういうことよ。選択肢一つからでも学べることがたくさんあるでしょ。

 

、、、

 最後にまとめるわね。私たちは「保険者」に保険料を払う。「保険者」は、「支払基金」に「後期高齢者支援金」を払う。「支払基金」は、「広域連合」に「後期高齢者交付金」を払う。そして、「広域連合」が、高齢者の医療費を払う。こうやって、保険者間で「財政調整」がされているのよ。

 

さき

 キツいです。でも、何度も復習します。いま、日本の財政が深刻な局面にあるから、これは来年の選択式で出題されてもおかしくないですよね。しっかり勉強しておきます。


ともえ先生

 うん、キツいのはわかる。でも、ここまで学習すれば、選択肢自体は楽勝でしょ?
 

<肢ウ>

 高齢者医療確保法では、都道府県は、年度ごとに、保険者から、後期高齢者支援金及び後期高齢者関係事務費拠出金を徴収することを規定している。

 

さき

 たしかに、、、。支援金を徴収するのは「支払基金」です。少なくとも「都道府県」が財政調整をしていないことは明らかです。肢ウの正誤は「×」です。

 

ともえ先生

 その意気よ。ちなみに、今年の選択式で最難関だった健康保険法も、財政論だったでしょ。空欄Bと空欄Cは、この財政調整の知識があれば、推理しやすかったはずよ。

 

、、、

 財政を制する者は、社会保障法を制する。財政もしっかり勉強してちょうだいね。まずは、択一の過去問を、一緒に精読していきましょう。そうすれば、選択対策としてもおつりが来るわ。