いや、いい舞台でした。
装飾の殆どない、板敷きの通路を挟んで、手前と奥に日本間を模した床と襖だけのシンプルなセット。
出ている役者は3人のみ。
音楽も最小限。
なんというか、それで十分なんだなぁと。
勿論、豪華な衣装やセットや鳴り響く音響、大勢の役者が出ている舞台も素晴らしいものはたくさんあるし、そういった舞台も好きです。
見てるだけで楽しいですしね、そういう舞台は。
それに、シンプルな舞台って役者の力量と脚本の出来が如実に表れるので、下んない脚本だったり、下手な役者だったりすると、あっという間に飽きて眠くなるわけで…
そう考えると、シンプルだから良いわけではないのですが、今回はシンプルであるゆえの味わいを思う存分味わえたなぁ、としみじみ。
それにしても、藤原竜也という役者、元々シリアスな、どこか悲劇的だったり悪魔的だったりする役は抜群に上手いと思っていましたが、最近、コメディというか本人は真剣なのにどこか滑稽さを感じさせる役もこなせるようになってきたなぁと感心。
このお話の啄木って、滑稽ですよね。
文学者の業って言えば深刻ですけど、こう、突き詰められない男って感じがします。
だから、悪い男になりきれない。
散々考えたはずの「殺してもらう」ための行動ですら、あっさり失敗して、挙句に逃げ出しちゃう…
そういう馬鹿で下らない、なのにどこか憎めない男。
こういう役を、過剰に悲劇的にも喜劇的にも演じなかったところに、感心しました。
って、まるで評論家きどりなことを書いてますね、私(笑)
けど、「身毒丸」以来、何度も彼を見てきて、素直に上手くなったなぁ、と思ったもので…
上手いと言えば、中村家のお兄ちゃん。
彼は本当に上手いよね。
学のない、馬鹿な男。だけどそれなりに修羅場を潜ってきた強かさを持ってる男。
それをまあ、いかにもというように演じられるもんだなぁ、と。
平成中村座で彼の舞というか鬼女を観ただけに、いっそ笑える。
吹石さんも思った以上だったし、いや、いい舞台でした。