「動」と「静」の接客【28】 | 車内販売でございます。

車内販売でございます。

車内販売を15年半で11000回を利用してきた「車内販売大好きな乗客」が書くブログです。 多数の観光列車に乗り鉄しています。

 私は車内販売に関して、このような持論を持っている。

『車内販売員は、乗客に「車内販売でございます」などと聞こえるようにして、車内を巡回すべき』

 これは当たり前のこととも言える。

 そもそも後ろから無言で通過されては、車内販売で品物を買おうとしても、買うことができない。

 また、無言で通り過ぎる時は、無表情の時が多いが、その一方でハッキリと「車内販売でございます」と言う時は、笑顔で良い表情をしている。ハッキリ発声すると、買わない時でも気分が良いのである。


 とはいえ、「無言イコール悪」と言い切って良いのか、疑問に思えてきた。 そう思える出来事に、近頃何度も遭遇したのだ。


【1】元気な新人

 ある日、新人の普通列車グリーンアテンダントが、車内販売を始めた。通勤帰りの混み合う夜の二階建て車両で、二階に上がってすぐ、こう案内した。

「本日はグリーン車をご利用いただきありがとうございます。これより車内販売、ならびにグリーン券の確認をさせていただきます。」

 最後部の席にも聞こえるような大きめの声だ。

 笑顔でハッキリ案内したのに、なぜか私には違和感があった。

 観光列車なら素晴らしい案内なのだが、乗客はほぼ全員、仕事帰りのサラリーマンだ。グリーン車を利用するのが「毎日」なのか「月2回くらい疲れた時」なのかは人によって違うが、利用に慣れた乗客に、このような案内は過剰だと感じた。実際、アテンダントさんに目を向けていた乗客は、私くらいだった。


【2】ベテランのアテンダント

 私が普通列車グリーン車を利用しはじめたのが2008年だから、ほぼ7年経つ。当時は新人だったアテンダントさんでも、今では勤続7年のベテランの域に入っている。

 ベテランといっても、経験年数が長いだけでさほど良い仕事をしない人も中にはいる。しかし、大多数のアテンダントさんは、経験年数に伴い、レベルアップしてきている。

 そのベテランアテンダントさんたちが、「車内販売でございます」と言う声が、小さくなっている人が多いのに気付いた。確実にレベルアップしてきているアテンダントさんなのに、車内販売を知らせる声が、昔より小さくなっているのである。実力が上がるにつれて、声が小さくなっているという、分かりにくい現象が起こっているのだ。

 実際問題として、力があるアテンダントさんだから、気づかなくて通り過ぎてしまったということは先ず無いようだ。後ろから巡回する場合でも、客の方を振り向く。スマホなどに集中している客の横を通り過ぎる時には、ゆっくり歩き、やや大きめの声を出す。

 だから、いつのまにか通り過ぎてしまったなんてことは、まず無いのだが。


【3】カリスマ販売員

 5/3の記事で、おにぎり3個の優先権を確認してくれたカリスマ販売員さんのことを書いた。(詳しくは、こちらの【2】 を参照)

 この方も、ほぼ無言でワゴンを押していた。

 乗車率20~30%と空席が目立つ特急でワゴン販売をしていたが、声は非常に小さかった。列車の走行音にかき消されるから、1mくらいに近づかないと聞こえないくらいだ。

 しかし、車内販売のワゴンが近づくと、不思議なことに多くの乗客が気づくのだ。何だ、この凄い技は?

 よく観ると、案外単純だった。

(1)ワゴンをゆっくり進める

(2)乗客の方を見てアイコンタクトをとる

(3)目が合わない客がいたら、横を通る時に、「車内販売でございます」

 大きなワゴンが通るのだから、通路側はもちろん、窓際の人でも大抵は気づくものだ。特に乗車率20~30%と空いている列車なら、「車内販売でございます」と言わなくても、気づく。


 販売員は、乗客の方を見て、3種類の客に分類しているように感じた。

(1)車内販売が来たと気づいて、買いたいと思っている客

(2)車内販売が来たと気づいたが、買うつもりがない客

(3)車内販売が来たと気づいていない客


 この3種類に区別するために、客をしっかり見て「アイコンタクト」をとろうとするのだ。

 もし、(1)の買いたい客なら、分かりやすい。気づいても、通過してしまわないように、「ゆっくり進む」、そして少し通り過ぎた後でも「斜め後ろ」の席の客も見て、客から声をかけてもらいやすくすれば良い。

 気づいても買うつもりがない(2)の客なら、ワゴンの方をチラッと見てくれる。特に、アイコンタクトをとろうと個々の客をしっかり見ると、視線を感じてそれなりの反応をしてくれることが案外多いようだ。

 スマホなどに集中していると(3)の気づかない客になる。この場合は、「車内販売でございます」などと客のすぐ横で言う。客との距離が1mほどだから、声は小さくてよい。

 気づいて買わない(2)なのか、気づいてない(3)なのか、区別するのは経験が必要だが、区別できるようになると、声を出す回数が減り、その分、車内の静けさを維持できる。


★ ★ ★ ★ ★ ★ ★

 今まで「カリスマアテンダント」「凄腕販売員」というと、茂木久美子さんのような積極性の固まりのような人をイメージしていた。(私は茂木久美子さんから買ったことはないが)

 しかし、声をあまり出さない静かな車内販売の仕方があり、乗客それぞれの時間を邪魔しない立派な車内販売の方法だと思うようになった。

 今まで私は、積極的にどんどん客に入り込んで旅の良い思い出を作ってもらうような「動」の接客・販売が良いと思っていた。しかし、あくまでも旅のサポートに徹する「静」の接客・販売も、素敵だなと思えるようになった。


 謎が解けた!

 普通列車のグリーンアテンダントさんの声が、小さくなったのは、「動」より「静」の販売が求められていると判断したからなのだ。