8月12日、テナックス・セラピューティクスが暴落した。
普通の投資家なら、ここで一度立ち止まる。
「なぜ下がったのか」
「まだ下がる可能性はないか」
「少し様子を見たほうがいいのではないか」
しかし翌日、チャートを開いた私の頭に浮かんだ言葉は、そのどれでもなかった。
――これ、最高の株じゃないか?
暴落した株を見て恐怖を感じるどころか、なぜか大安売りの札に見えてしまった。
昨日まで高かったものが、今日は安く買える。
しかも、私の中では将来性のある株。
それなら答えは一つ。
飛び乗るしかない。
冷静に考えれば、暴落した翌日の株は「押し目」ではなく、まだ落下中なのかもしれない。
投資格言には「落ちてくるナイフをつかむな」とある。
だが、その日の私にはナイフではなく、選ばれし者だけが引き抜ける聖剣に見えていた。
「この下落はチャンスだ」
「市場が間違えている」
「テナックスは、こんなところで終わる株じゃない」
気がつけば、私は買っていた。
株式市場に参入してから、何度も同じような場面を経験している。
暴落を見る。
将来性を感じる。
割安だと思う。
そして、買った瞬間から祈り始める。
もはや投資というより、毎回新しい宗教に入信している気分である。
それでも今回のテナックスには、本気で期待している。
暴落した事実だけを見て買ったわけではない。将来的な成長余地を考えれば、ここから評価が変わる可能性は十分にあると思った。
もちろん、暴落翌日に飛び乗った以上、さらに下へ連れていかれる覚悟も必要だ。
底だと思って入った場所が、地下帝国の入口だった――なんてことは株の世界では日常茶飯事である。
それでも私は、この株を「最高の株」だと思って買った。
果たして今回つかんだのは聖剣なのか。
それとも、ただの落下中のナイフなのか。
答えはこれから分かる。
テナックス・セラピューティクス。
私の資産を治療してくれるのか、それとも治療が必要な状態まで追い込んでくるのか。
新たな勝負の始まりである。