アコースティックギターの弦が古くなってきたので、楽器店に替えのを買いに行った。久しぶりなので、どの太さの弦を買っていたか分からない。真面目そうなリペアマンを捕まえて「一般的におすすめできる太さはどれですか」と聞いた。

 

「一般的にはこれです。普通に弾き語りをしたいならこの太さです」

「そうですか、ありがとうございます」

「でも長渕みたいにガシガシ弾きたいならこの太さです」

「はあ、そうですか」

「通常はこの太さで張り替えをします。多用途に合います」

「はい、ですからこれを…」

「長渕みたいにガシガシ弾きたいならこっちですけどね」

 

長渕みたいにガシガシって、二回も言った。どうもこのリペアマンは、僕に太い弦を買わせたいらしい。それか僕が、長渕剛のように自堕落な雰囲気を発しているのか(髪は長い)。彼自身が長渕である可能性だってある。真面目そうに見えても、家庭ではろくなもんじゃねえのかもしれない。

映画「スラムダンク」は本当に素晴らしかった。三回、映画館で観た。だがここでは、映画の感想や要約ではなく、僕自身のバスケに関する、さもしい思い出話を書く。

 

高校時代、バスケ部の補欠だった。僕は本当にヘタだったが、チーム全体の戦力も恐ろしく低かった。平均身長からして175センチもなかったように記憶している。そんな我がチームが、あるトーナメントの初戦で、地区で有数の強豪と当たってしまった。サッカーなどと違って、得点機会の多いバスケットでは、番狂わせが滅多にない。勝ち目は全くないのだ。そこで窮したコーチが、テイクチャージを画策した。ファウルをもらいにいく戦術だ。ボールを運んでいき、相手にプレスをかけられた瞬間、あたかも悪質な接触に遭ったかのように転ぶのである。

 

このコーチの演技がすごかった。まるで人身事故に遭ったかのような、壮烈な転倒を演じて見せ「こうやるんだよ」とサラリと言う。目を見張る僕ら。「そうか、こうやるんだ」。

 

こんな後ろ向きな戦術が功を奏すはずはなく、試合はトリプル・スコアで負けた。コーチは、やけくそになって二軍(僕とか)を投入し、敵も「それならば」と二軍を出してきた。僕はというと、地味に2得点1アシストを記録。ろくにマークに付いてもらえなかったからである。

 

そういった低俗なバスケットマンの僕だが、卒業後にチームを作って、市民バスケの大会に出たりした。20代半ばの頃だったと思うが、中年(おじさま)のチームと対戦した時、こちらのチームのエースが、とんでもないテイクチャージに遭った。それは接触とも呼べない、本当に軽微な接触だったのだが、相手のおじさまは迫真の演技で大転倒、わけの分からないうちに相手ボールのスローインになった。おじさまは倒れる時「うわああっ」とマンガのようなセリフを発した。これは本当に胸くその悪くなる出来事で、ついでに試合は残り1分で8点差を追いつかれるという、スラムダンクも真っ青な、低い次元の引き分けに終わった。

 

さて、おじさまから何を学ぶべきだろうか。僕は自転車を使うことがあるのだが、多くの四輪ドライバーのモラルが低く、何度も危ない目に遭っている。特に、いま住んでいるアパートの近くの、交差点が非常に危ない。これはテイクチャージを狙えるのではないか。

 

もちろん無茶はしない。スピードに乗った車は見送る。一時停止を無視して、インチキな徐行でせりだしてくる車。そういうのを狙う。思い切って飛び出していく。

 

コツン。

うわああっ。

ホイッスル。

オフェンス、チャージング!

 

いっぱいカネもらえるだろうし、と、知人(テイクチャージに遭った知人)に話したところ「それは要するに当たり屋である」と指摘され、そうか、そういえばそうだと(ようやく)気付いた。テイクチャージとは当たり屋のことであった。

憂うつな出勤の電車内、女の子同士のおしゃべりに、耳を傾けてみよう。

 

「ねえ知ってる、転校生が来るんだよ」

「知ってる、二人でしょ、B組とE組」

「そーなの? ねえ、どんな子?」

「ひとりは、超かわいい子で、もうひとりは、ポニーテールの子!」

 

じゃあ、なんだ、ポニーテールのほうは可愛くないってことか?