民間賃貸住宅部会を分析する 最終章 国交省に意見を送ろう⑤ | 借家人権利向上委員会

民間賃貸住宅部会を分析する 最終章 国交省に意見を送ろう⑤

以前から書いている国交省のパブコメに、意見を送ったので、こちらでも掲載しておきます。
断っておきますが、これはあくまでもsino個人の意見となります。

民間賃貸住宅部会の資料等については、↓のURLにあります。
http://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/s203_minkanchintai01.html
とっかかりから、すべて読むのは大変ですが、「最終とりまとめ」くらいは読んでおいて損はないです。
http://www.mlit.go.jp/common/000056477.pdf

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民間賃貸住宅政策に関する意見

【該当項目】
●紛争の円滑な解決について
□第三者による紛争の解決について
●滞納・明け渡しを巡る紛争について
□家賃債務保証業務等の適正化について
□滞納等が発生した場合の円滑な明渡しについて
●その他
□その他(管理業者、サブリース業者、賃貸業者への規制(任意の登録制)について)

【意見】
1.行き過ぎた督促行為に対する行為規制については、家賃保証会社だけではなく、賃貸人、賃貸業者、管理会社やサブリース業者についても対象とすべきである。

2.家賃債務保証会社による弁済履歴情報の共有は、借家人の民間市場からの排除を目的としており、住まい喪失者の固定化をもたらすものである。運用についても明らかではなく、早急に廃止し、禁止すべきである。

3.入居希望者に対し正当な理由なく契約の締結を拒否することを禁止する、入居差別の禁止を制度化するべきである。

4.紛争の円滑な解決策として、団結権、団体交渉権、争議権を保障した借家人組織を制度化するべきである。

5.期限が満了すると基本的には退出しなければならず、住まいの不安定化を強める定期借家制度は直ちに廃止されるべきである。

6.賃貸不動産管理業の適正化のための制度として、管理業者とサブリース業者を対象とした「任意の登録制」ではなく、賃貸業者も含めた「法律により義務づけられた登録制度」を用いるべきである。

【理由】(上記1~6に対応)
1.「最終とりまとめ」では、行き過ぎた督促行為に対する規制について、「現行の法制下における民事又は刑事の手続きによる対応のみでは十分でないことに鑑みれば、実態を踏まえた上で、貸金業法における取立て規制のような行為規制が必要」としているが、対象範囲について記載されていない。督促行為を行なうのは家賃保証業者だけではなく、賃貸人、賃貸業者、管理会社やサブリース業者においても同様であることから、賃貸人、賃貸業者、管理会社やサブリース業者についても対象として規制すべきである。

2.「最終とりまとめ」では、「賃借人の弁済履歴情報を共有するためのデータベースの構築の取組み」についても触れられている。家賃債務保証会社による弁済履歴情報の共有、いわゆる、滞納者ブラックリストは、入居者の追い出しコスト低減を目的として、あらかじめ不特定の入居希望者を市場から排除しようとするものである。業界側が排除するとしている「反復継続的な滞納者」についても、資料では「滞納家賃総額が概ね3ヶ月」としているが、滞納にはさまざまな理由があり一様に判断されるべきものではない。判例からも3ヶ月の滞納が一律に信頼関係の破壊とみなされるわけではなく、基準としてふさわしいものではない。いたずらに住宅市場から排除することは、住宅困窮者の固定化をもたらし、結果的に社会的なコストを増大させることになり、それを放置することは誤った政策である。
 また、「最終とりまとめ」では、「反復継続的な滞納を行う賃借人の滞納リスクに係る過剰な負担の解消及び信用補完の強化によって、賃借人全体の利益にもつながる」といった意見が出されているが、ブラックリスト作成によりどれほどの賃借人の利益になるのか計測的な予測があるわけではなく、このような主張は実証性に乏しく失当である。
 報道によると業界側は、10年2月からデータベースを運用開始するとしているが、いまだに具体的な運用体制について明らかにされていない。また、一部の加盟業者が作成している「個人情報の取り扱いに関する条項の同意書」(下記URL参照)では、「第8条(本条項不同意の場合の措置)」として、「お客様が、本契約において必要な記載事項(申込書及び契約書表面で記載すべき事項)の記載を希望されない場合、及び本条項の全部又は一部を承認できない場合には、当社は本契約の締結を拒否することができるものといたします。」と記載されていたり、「第11条(個人情報提供の任意性)」として、「当社は、申込者等から提供を受けた個人情報に基づき保証委託契約及び賃貸保証契約の締結可否の判断を行ないます。必要な個人情報を提供いただけない場合には、保証委託契約及び賃貸保証契約の締結をお断りさせていただきます。」などという条項が入れられている。これは、任意の同意を謳いながら、実質的には個人情報の提供への同意を強制するものであり、同意として意味がないものである。「最終とりまとめ」においても、「個人情報の利用は慎重でなければならないとの観点からは、弁済履歴情報を一律に収集・提供することによって、家賃債務保証会社に安易に保証が拒否されるおそれや、個人情報保護法上、情報の収集・提供は本人の事前同意が前提であるが、結果的には同意しない場合に保証が拒否されるおそれがあるとの指摘がある。」という意見が提出されているが、まさに現実においてその懸念の通りになっている。
 このようなただ住まいの不安定化をもたらすだけに機能する滞納者データベースは、早急に廃止し、禁止すべきである。そうではなく、より住まいの安定化を図る支援策を講ずるべきであり、たとえば、現在運用されている住宅手当を恒久化し、適用される対象者の範囲を拡大するべきである。

株式会社ネクストフィナンシャルサービス
「【個人情報の取扱に関する条項】の同意書および保障委託契約内容について」
http://www.az-stat.com/pdf/home_privacy.pdf
株式会社アルファー
「個人情報の取得・管理・利用に関する同意書」
http://www.alpha-k.jp/pdf/kojinjyouhou.pdf

3.入居希望者、特に不安定就労者や失業者、高齢者、障がい者、外国人、ひとり親家庭、セクシャルマイノリティといった住宅困窮者とされる方々は、現在に至るまで、必ずしも明らかにされない不明瞭な理由で、家主や仲介業者から入居を拒まれることが多い。家賃保証会社が運用するとしている弁済履歴情報の共有についても、業界側は、支払履歴を残すことにより実績が証明されればこれまで住宅困窮者とされていた人にとってもメリットがあるとしているが、入居差別を前提とした運用である以上、隠然として入居差別は残されることになる。そうではなく、原則として入居差別を禁止する法的な規制策を講ずるべきである。

4.「最終とりまとめ」では、紛争の円滑な解決について、「第三者による紛争の解決」として「裁判外紛争解決制度(ADR)の活用の促進」を出しているが、始まったばかりの制度でもあり実績も十分ではない。賃貸トラブルの原因は、賃貸人側と賃借人側の交渉力や情報力といった力関係の不均衡であることが多く、それを是正するための制度が求められている。たとえば2人以上の参加者がいれば、組合化でき、交渉権を行使できるといった制度があれば、紛争もより円滑な解決に至ることになる。よって、当事者による紛争解決手段として、借家人組織の制度化し、労働組合のように、団結権、団体交渉権、争議権を保障するべきである。

5.「最終とりまとめ」では、「滞納等が発生した場合の円滑な明渡し」として、契約解除事由の予測可能性の向上方策のために定期借家制度の普及・促進が意見として出されている。定期借家契約の実際の現場では、ゼロゼロ物件やゲストハウスといった、先に挙げた住宅困窮者をターゲットとしたサービスで運用されることが多い。しかも、契約期間中に家賃値上げを求められ、値上げを拒否すれば再契約しないと貸主から脅されることで、再契約を希望する入居者は値上げを受け入れることを強制される事例も起きている。このような住宅困窮者をターゲットとし、安定した住環境とは真逆に運用されている定期借家制度は直ちに廃止されるべきである。

6.不動産部会では、賃貸不動産管理業の適正化のための制度について検討されているが、そこで審議されている新設制度は、対象事業者を管理業者とサブリース業者とし、賃貸業者については、「一定規模以上の賃貸業では、管理業務を管理業者に委託しているケースが多いこと、それ以外の小規模の賃貸業の大部分は個人経営であり、所有する物件を自ら賃貸する自己管理が行われていること」を理由として、対象から外している。しかし、賃借人にとって、サブリース業者と賃貸業者を見極めることは登記簿を取ることでしかなしえず、実質的な運用では不可能である。現在の方針では実用性を伴わない制度設計となっており、問題がある。抜け穴をつくらないためにも対象業者に賃貸業者も含めるべきである。
 また、「法律により義務づけられた登録制度」では、営業の自由を制限し、実際に登録制度を運用する自治体の執行制度も大きな負担になるとして、「告示などによる任意の登録制度」が採用されているが、「任意の登録制」では違法業者、特に貧困ビジネス業者に対しては規制ができず、賃貸トラブル抑止にはならない。「告示による登録制度の具体的な効果」として、「登録事業者名は公表されることから、消費者は、登録事業者の情報を事業者選択(物件選択)の判断材料として活用できる。」ことが挙げられているが、低所得者層はそもそも選択肢がなく、結果的に低料金の業者を選ばざるを得ない。よって、登録業者の情報が選択の判断材料とされることにもならない。貧困ビジネス業者は、選択肢がなく他を選ぶことができないことにつけこんで、本来できない違法な契約を結ばせたり、鍵交換などを働くのであり、管理業者やサブリース業者に行為規制をかけるとしても、無登録業者である以上は、契約時や更新時のトラブルの抑止にはならない。選択肢のない借家人への被害を防止するためにも、一様にすべての業者への法的規制が不可欠である。業者にとっても無登録であることが営業に不利益にならないのであれば、しいて登録する機制は働かず、多くは無登録業者として継続されることが予想される。「任意の登録制」による登録業者への規制は、あくまで登録業者が原則で無登録業者が例外とならねば、有効とは言えないが、到底そのような事態は現状では望めない。
 よって、対象事業者に賃貸業者も含めたうえで、「任意の登録制」ではなく、「法律により義務づけられた登録制度」を用いるべきである。