民間賃貸住宅部会を分析する 最終章 国交省に意見を送ろう② | 借家人権利向上委員会

民間賃貸住宅部会を分析する 最終章 国交省に意見を送ろう②

数日前に書いた国交省にパブコメを送る記事 の続きです。

先の記事では、追い出し屋規制と追い出しの迅速化がセットになって主張されていることを批判しましたが、今回は、家賃保証会社の滞納者データベース作成についてです。「最終とりまとめ」には以下のような記載があります。両論併記になっていますが、その中からいくつかを抜粋します。

「家賃債務保証会社が弁済履歴情報を共有することによって、反復継続的な滞納を行う賃借人(入居希望者)に関するリスク管理能力の充実を図ることは、賃貸人が安心して民間賃貸住宅を市場に供給できる環境を整備するという観点から有効な方法であり、反復継続的な滞納を行う賃借人の滞納リスクに係る過剰な負担の解消及び信用補完の強化によって、賃借人全体の利益にもつながると考えられる。」(P.15)

「個人情報の利用は慎重でなければならないとの観点からは、弁済履歴情報を一律に収集・提供することによって、家賃債務保証会社に安易に保証が拒否されるおそれや、個人情報保護法上、情報の収集・提供は本人の事前同意が前提であるが、結果的には同意しない場合に保証が拒否されるおそれがあるとの指摘がある。」(P.16)

「個人情報保護法の遵守を前提とした上で、このような弁済履歴情報を共有するためのデータベースの整備に民間事業者が取り組むこと自体を禁止することはできないと考えられる。」(P.16)

「弁済履歴情報の共有については、信用リスクに係る客観的な事実を過不足なく収集・提供すれば足りるものであり、また、借家が多数存在する競争的な市場において、反復継続的な滞納を行う賃借人以外の賃借人が保証を拒否されることは想定しがたく、運用開始前であり具体的問題も生じていないデータベースに不必要な規制を行うべきではないとの考え方もある。」(P.16)

○福井秀夫の詐欺的論理

滞納者DBを作成することが賃借人全体の利益になるだとか、運用開始前で具体的な問題が生じていないから不必要な規制を行なうべきではないといった意見は、福井秀夫が部会で主張したものです。福井の意見がまるまる「とりまとめ」の中に採用されて、実際DB運用も始まろうとしているという意味では、この件についても福井の果たした役割はとても大きいものです。

これまでも批判してきましたが、 たとえ滞納リスクが解消されたからといって、他の賃借人の利益になるのかどうかなんて、なんの試算もあるわけでもなく、それこそ具体的な内容があるわけではありません。たんに福井が頭の体操で机上の空論を振りかざしているにすぎないのです。そういったことを主張するのなら、DBが運用されて1年後には平均して保証料が5000円下がります、とか計量的な予測があるのならまだしも、そういったものもあるわけではない。自分は12月の第10回民間賃貸住宅部会が終わった後、福井を追いかけて行って、「DBが運用されればいくら保証料や賃料が下がるのですか?」と質問してみたのですが、一切答えてもらえませんでした。

これは福井が定期借家制度の導入の際に、制度が導入されれば、貸し渋りが改善されて、住宅困窮者にもより借りやすい状況が生まれるなどと主張していた構造とまったく同様です。この主張は、現状の定借が追い出しや住宅弱者を対象とした貧困ビジネスに使われている事態から見れば、まさに噴飯ものであり、ペテン師の論理に他なりません。

こんなふざけた論理を言っていることを、きちんと自分たちは記憶しなければならないでしょう。その論理が間違っていることは数年後に明らかになるのだから。しかし、数年後に間違いを正そうとしても遅いし、その間に生活を崩されることになる方々にしてみれば取り返しのつかない過ちになるわけで、決して許されるものではありません。

自らの間違いが明らかとなったとき、福井はどのように責任を取るのでしょうか?

○DB運用ではなく、入居差別禁止の法的制度を

さらに、このブラックリストによる入居希望者の排除は、まさに不動産業界の入居差別が前提となっているものです。一見、滞納履歴は事実だから、事実に基づく排除は差別ではない、という論理が正当であるかのように思われがちですが、それは違っています。入居差別があるからこそ、DBによる支払履歴を参照することによって、より入居しやすい条件を作ってやる、という論理であることを見落としてはなりません。つまり、DB作成は不動産業界の入居差別を前提にしていて、より排除の条件を分かりやすい形に整えていることに他なりません。DB推進者はDB作成はまっとうに支払ってきた住宅困窮者にとっては利益になる(ホワイトリストとして機能する)と主張していますが、滞納履歴がないからといって間違いなく入居できる担保になるわけではないのだから、そのような論理は失当です。

また、ここでみたように、 DBを運用する保証業者が作成している「個人情報の取り扱いについての同意書」は、同意しなければ保証契約を拒否できるという内容になっており、実質的な強制となっています。強制された条件での「同意」がどれほどの意味を持つのか、検討が必要だし、まさに部屋に入りたければDB登録に同意しろという恫喝的手法が批判されねばなりません。それに、情報が登録されることを拒否した場合に、部屋に入居できないという事態は、果たして「健全な民間賃貸住宅市場」と言えるのかどうか。部屋を探すためにどうして自分の個人情報が第三者に提供され、弁済履歴を登録され参照されることに同意しなければならないのか。

そうではなく、まずは正当な理由なく入居を拒否することを許さないという法的な強制力を持った差別禁止制度を作り上げねばなりません。

現状では、たとえばシングルマザーである、といった事情や生活保護を受けているといったことで、多くの貸主が家を貸したがらず、当事者は住みたい部屋を探すこともままなりません。自分が以前、生活保護を受給している方と不動産屋巡りをした際は、まともに探そうとしない仲介業者がいたり、別の仲介業者は、ことごとく家主からNGを出され、本来であれば10件だせるはずの物件が1件しか紹介できないと言われたことを覚えています。貸主や仲介業者は、あくまでも契約を結ぶのが原則であり、入居を拒否するのは正当な理由がある場合のみの例外であると規定することができれば、多くの住宅困窮者は不動産屋の門前払いから救われるはずです。そのような状態になって、ようやくDBがホワイトリストであるといった論理がほんの少しの有効性を持つのではないでしょうか。

といったことで、今日はここまでで、また次回に。