雪割草静かなブーム

早春の花

 

厳しい山の冬は長い。

金北山を主峰とする大佐渡の山並みは

すざまじい吹雪と

厚い積雪にじっと耐えている。

しかし、

冬も終わり三月半ばには、

だんだんおだやかな山に戻ってくる。

 

オニシバリや嫁泣かせ(アラゲヒョウタンボク)の黄色い花が咲き、

道端や畑には小さな青紫のオオイヌノフグリの花が咲く。

山でもマルバマンサクやキブシ、

ハンノキの花が見られ、

長い眠りから覚めたカタクリが待ちきれないように、

雪の中から顔をのぞかせているたくましい姿も見られる。

(カタクリ)

 

四月ともなれば、

いよいよ若者たちの春山が始まる。

谷あいのしまって固くなった雪を踏み、

心地よい足音を聞きながら一歩一歩登ると、

陽当たりの良い雪消えの中腹には、

まさに黄金色のフクジュソウ(福寿草)の花が陽光を浴びて咲いている。

 

この花は九州から北海道まで広い地域に分布している。

正月の花として古く江戸時代より栽培されており、

別名で元日草、福神草、長寿草、

満作草などとおめでたい名前も付けられている。

 

また純白のニリンソウ(二輪草)の群落が咲き、

淡紫のキクザキイチリンソウなども咲いている。

山道沿いの灌木かげには白、

紅、紫と色とりどりの鮮やかな花をつけた雪割草(ミスミソウ)の群落にも出会う。

白い雪、緑の葉と濃い花色はまことに美しい。

(ニリンソウ)

 

雪割草は佐渡では低い所にもあるが、

私は高いところに咲いているものほど花色が鮮明であるように思える。

この花もまた正月花として古くから採集して売られている。

光沢のある三角形の厚い葉が印象的でもある。

 

この仲間は、

葉の形からスハマソウ(州浜草)と

ミスミソウ(三角草)に分類しているようである。

厳密には学会でも異論があるが、

長島先生(青陵短大)によれば、

スハマソウは関東中部以北、

ミスミソウは関東以西、

葉の表面に毛の生ずるケスハマソウは長野県より四国、

葉や花の大きなオオミスミソウは中部日本海側に分布すると言われる。

変異性の多い佐渡産のものはオオミスミソウということになる。

特に、

この佐渡産雪割草は古く江戸でも一級品として扱われていたことは

文献でも明らかである。

近頃、

島内愛好者によって一品が次々と発見され静かな雪割草ブームを起こしている。

 

覆輪八重咲き、

丁子花、千重咲きなどは一品中の逸品である。

ただしこのような個体は草弱く

種子繁殖が絶無であり慎重に種の保存につくしてもらいたい。

老婆心ながら本種の栽培は簡単ではないから

その専門家の指導を受け貴重な逸品を絶滅より

ぜひとも守りたいものである。

 

さて、

このころの参道は、

標高4~500㍍も登れば、

カタクリの花も辺り一帯、

足の踏み場もないくらいに咲き乱れる。

ピンクの花が風にゆれているさまはなんともいいようがない。

それ故に万葉人が昔から「堅香子ノ花」と称して愛したのであろう。

白い小さなアマナの花、

(キバナノアマナ)

 

キケマンやかれんなエゾエンゴサクの花も咲く。

山の雪解け、

細流の音、

お花畑、

神々しいばかりの春山の魅力がわいている。

(エゾエンゴサク)

 

文:村川経一郎

 

 

「佐渡自然と草木と人間と」(2003)

著:伊藤邦男

引用させていただきました