「NATO,EUはなぜウクライナを拒むのか」~~歴史に学ぶウクライナの危機 | 紙風船

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中学校と高校で社会科を教えています(いました)。街探検や銭湯が大好き。ピクトグラムや珍しいものが好き。でも一番の生きがいは、子どもたちに「先生の授業、たのしい」と言ってもらえることです。

ロシア・ウクライナ戦争の話ですが,日本史から始まりますてへぺろ

 

「山中鹿之助(幸盛)」

山陰の大名尼子氏の家臣。毛利氏に敗れ,領地を失ったのちも,尼子の一族を奉じて「お家再興」に尽力。織田信長に接近。しかし,最後は毛利氏に囲まれ籠城するも捕虜となり殺害される。織田勢は助けに来たものの,勝機なしとみて撤退。見殺しにする。

 

「上杉謙信」

宿敵は甲斐の武田信玄。山国とあって生活必需品の塩が取れない。太平洋側の今川氏,北条氏が結託して塩の販売を停止。そのとき,謙信は武田に塩を提供。世にいう「敵に塩を送る」。

しかし,これは義侠の話ではない。

謙信は,塩を販売して利益を上げている。そして,塩の供給先の地位を確立すれば,以後の対武田外交で優位に立てる。さらに,塩の搬入に伴い,敵地の探索もできる。一石三鳥,四鳥のかまえ。

 

「山中鹿之助」は,軍事支援の実態という例。

「上杉謙信」は,経済援助の実態という例。

 

さて,ロシア・ウクライナ戦争。

開戦から2週間以上が経過。アメリカ,EU諸国はウクライナ支援を表明,実際にロシアへの経済制裁を次第に強化しています。

それも当初予想されていた以上の規模に発展している感じです。
 

しかし,ここで不思議なことがあります。

ウクライナが第一に希望していることにアメリカやEU諸国はまったく応えようとしていません。それは「NATO」加盟」です。NATO加盟国となれば,他の加盟国は自動的に対ロシア参戦の義務を負います。

そして「EU」加盟」です(日本ではあまり報道されないのが不思議)。

 

なぜNATO,EUはウクライナ加盟を拒むのか。

ウクライナの地政学的地位及び経済状況から考えてみます。

(考え進めると,さらにもう一つのファクターの存在が見えてきますが,そちらは後日)。

以前のブログで,旧ソ連,東欧諸国が続々とNATOに加盟してきたことを書きました。
実はこれらの国ぐにに共通していることがあります。

それは「NATO加盟後にEU加盟を果たしている」ということです。
つまりウクライナが「NATO加盟を望む」ということはイコール「EU加盟を望む」ということなのです。

なぜ,ウクライナは「NATO加盟」「EU加盟」を望むのか。

今さらかもしれませんが,まとめておきます。
(1)「NATO加盟」
これは「ロシアの脅威への対抗」でしょう。

ロシアによるチェチェン紛争(1994年)やグルジア(現ジョージア)紛争(2008年)が懸念を高め,2014年のクリミア侵攻・併合以来,特に強まったはずです。


(2)「EU加盟」
  実はウクライナは「ヨーロッパ最貧国の一つ」といわれます。
  ウクライナのGDPはどれくらいでしょうか。
2020年のウクライナのGDPは世界55位(約1550億ドル=日本の1/33)。

 

(世界の名目GDP 国別ランキング・推移(IMF):グローバルノート - 国際統計・国別統計専門サイト 統計データ配信)

同サイトによると,ウクライナのGDPは1992年(ソ連からの分離独立)~2020年まで,ほぼ50位~60位で推移しています。最大値は2008年約1800億ドル。最低値は2015年(ロシアによるクリミア侵攻と併合の翌年)約900億ドル。

ところが,ウクライナの人口は約4200万人(2020年)。

実はヨーロッパで7位の人口大国です。

そこでGDPを人口で割った「一人当たりのGDP」を見てみましょう。

こちらの数値の方が,国民一人ひとりの生活状況を反映しています。

 

 

 

同サイトでみるとウクライナの順位は120位!(3700ドル。日本の約1/11)」!ヨーロッパ・旧ソ連圏でこれより低い順位の国は2つしかありません。ウクライナは確かに「ヨーロッパ最貧国」レベルだったのです。
失業率は9.2%!(世界36位。2020年)

そして移民が約500万人!(総人口の約11%!世界13位。2020年)

この移民の定義は「移民(国際移民)とは,移住の理由や法的地位に関係なく1年以上にわたり居住国を変更した人のこと」ですから,すべてが他国への人口流出ではありません。

https://ecodb.net/country/UA/person/

(「世界経済のネタ帳」HOME >世界の国・地域 > ウクライナ > 人口)

 

しかし,隣国ポーランドだけで,年間100万人が短期ビザを取得して就労しています。いわば「出稼ぎ」収入で自国の経済を支えている状態で,これはもう先進国の姿とは言えません。


ここまで,ウクライナ事情をおさえたところで,本題です。
それでは「NATOやEUはなぜウクライナ加盟を認めないのか」。


(1)「NATOはなぜウクライナ加盟を認めないのか」
「ロシアとの緊張を高めないため」と説明されています。
実際NATOに新規加盟した国で,ロシアと直接国境を接しているのはエストニア,ラトビアの2カ国だけ。

NATO側でにウクライナをロシアとの「緩衝地帯」としておきたいという思惑がありそうです。

しかし,今回調べていて,新しい事実を発見しました。

NATOと「平和のためのパートナーシップ」を結んでいる国々があるのです。地図で見ると

なんと全欧州の国ぐにが参加しています。

青はNATO加盟国。

緑は「平和のためのパートナーシップ」から「NATO」加盟を果たした国々。

オレンジは現在「平和のためのパートナーシップ」加盟国。

なんとロシアも入っている!

しかも,ロシアは一時期「NATO準加盟国」でした(2014年のクリミア侵攻後に資格取消)。

ウクライナのNATO加盟を拒む理由には,

どうも,もう少し深い意図がありそうですグラサン

(2)「EUはなぜウクライナ加盟を認めないのか」
ウクライナの経済状況が悪いことが一番ではないでしょうか。

現状EU加盟国にとって,ウクライナは「安価で大量の労働力の供給先」となっています。EUに加盟していない状態の方が,より低レベルの労働条件での受け入れが可能でしょう。

 

また,政権交代や政変の連続や,さらにはクリミア侵攻により,投資先としての魅力はほぼなくなっています。

経済(財政)状態が劣悪なウクライナが加盟しても「EUのお荷物」にしかならない。そうした冷徹な判断が行われている気がします。

(EUにとって,NATO軍が侵攻した旧ユーゴスラビア諸国の加盟問題が優先されているという事情もあるようです)

いやはや何とも。
ボクが昔社会科で教わったウクライナは「黒土地帯」にある恵まれた豊かな国でした。今でも小麦の生産量と輸出量は世界有数です。

それが今や「ヨーロッパ最貧国」に転落していたとはショボーン驚きます。

ウクライナはこのまま「ヨーロッパ最貧国」「出稼ぎ労働者の国」に甘んじていればよいのでしょうか。

もちろんウクライナ国民の答えはNO!
でも,経済成長をはかるには,外国資本の参入,経済援助が必要なことは明らかです。
 

しかし,ロシアにはウクライナ経済を支援する余力はない。

EUにも意志がみえない。
それではウクライナには第三の選択肢はないのでしょうか。

あります!

そして,それが最近のロシア・ウクライナ情勢を複雑化しているのかもしれません。

 

でも,もうこの回も長くなってしまっています。
それについては次回書きます。
最後までお読みくださった方,ありがとうございました。
よろしければ次回も読んでいただけると嬉しいです。