年が改まってから,銭湯はご近所さんばかり行っていた。
そこで一念発起(大げさ),
1月のどん詰まり,仕事帰りに直行したのは,鶴巻湯。
早稲田鶴巻町,最寄駅は東京メトロ東西線「早稲田駅」。
早稲田大学大隈講堂方面にある。
出口がやたらあるので,キョロキョロ。
広めの路地(変な表現だ)を行くと見えてきました。
スマホで写真を撮りながら暖簾をくぐると,後ろから「アラ」。
「ごめんなさいね。お邪魔じゃなかったかしら」
おっとお客さんをさえぎっていたかと会釈。
すると,「中では撮らないでくださいね」。
女将さんでしたか。
余計なご心配をかけて申し訳ない
時は夕方5時。おっといっぱいだ。
正方形に近い浴室にカランの数は18と小ぶり。
湯舟はジェットバスが2基。
それと泡が元気なジャグジー。こちらは4人用。
湯温はどちらも42~43℃の中温。
天井,壁,床,すべてが白いタイル。
湯舟の背だけ青タイルが混じる。
ペンキ絵もタイル絵もないシンプルさ。
「地方都市にあるビジネスホテルの大浴場」的感じかな・・・
ホケ~ッとしている内に,湯煙に懐かしい顔が浮かんできた。
ここは,高校時代の友人Tくんの家の近くだ。
彼とは,高校の入学式で知り合った。
偶々出席番号が前後だったせいで,言葉を交わし,
以来3年間,よくまぁ一緒にいた。
彼の自宅によく遊びに行ったし,泊まり込んで時もたびたび。
そして・・・大学受験。
ボクは現役合格に滑り込み,Tくんを含む四人組の2人の友人も合格。Tくんだけが浪人生となった。
大学入学後も電話でのやりとりは続いた。
当時は自宅の固定電話だけが通信手段。
そんなある時,Tくんがふと口にした。
「いいよなぁ〇〇(ボクの名字)は合格してさぁ」。
言葉に詰まった。
それだけは聞きたくなかった言葉だったと,気がついた。
Tくんも,それだけは言いたくなかった言葉なのかも。
それがオモテに出てしまったとき,ボクたちの間に壁ができた。
電話のやりとりはその日を境に終わった。
半年がたち,Tくんから電話。
第一志望ではないが,合格したとの報せ。
「おぉよかった。おめでとう」。
でも,それでお終いだった。
あれからもう45年が過ぎようとしている。
Tくんまだこの街に住んでいるのかな。
ひょっとして,今,この風呂にいたりして・・・。
湯煙の向こうに彼の笑顔が浮かぶ・・・
そんな回想が湧き出たのは,学生街にある銭湯だから,なのか・・・。
ボ~ッと見渡しているうちに,あることに気がついた。
あるモノが見当たらない。
これまで入湯した銭湯には必ずあったあるモノ。
時計。
浴室にも,浴室から見える範囲の脱衣所にも時計がない。
誰もが時の流れから身を解き放たれて湯舟に浸かる。
湯煙に思い出を見つける銭湯。
---それが鶴巻湯。
な~んて,まぁ,大げさですね
鶴巻湯さん,ありがとうございます。いいお湯でした