アリス達は光を永遠亭に運び、永琳に緊急手術を要請した。
幸い、永琳も助手の兎も時間が空いていた為、すぐに手術に取りかかることができた。
手術室の扉の前で、アリスは祈るように両手を絡め、目を閉じていた。
アリス「光が助かりますように・・・光が助かりますように・・・」
この願いはきっと届く。
そう信じていた。
いや、信じようとしていた。
しばらくして、永琳が手術室から出た。
白衣は赤いエプロンとなっており、光の出血の量を表していた。
アリス「光は!?」
永琳「意識不明。脈拍も落ちててかなり危険な状態よ。」
助かる見込みはほとんど無い状態だった。
だが、ここで終わることは光にとっても、アリスにとってもできるわけが無かった。
アリス「永琳お願い!光を絶対に助けて!その為なら何でもする!」
光の為なら、自分の全てをかける。
そう誓ったのは、光に永遠亭に連れてきてもらった時だった。
ここで少しでも役に立てないと、一生後悔する。
そんな気がした。
永琳「あなたの血を輸血したいところだけど、血液型が一致してない。」
不幸なことに、今いる中で光と血液型が一致する者はいなかった。
永琳「薬を作ろうにも材料が無いし・・・」
月の頭脳を持っていても、材料が無ければどうにもならなかった。
アリス「じゃあ私が材料を集めるわ!何が必要なの?」
永琳「幻想郷には無い月の物よ。今から注文しても1ヶ月はかかるわ。」
薬も無し、輸血も不能。
ただ死を待てと言っているようなものだった。
どうすれば良いのか、アリスにはわからなかった。
永琳「1つ手があるわ。ほんの少しだけ、命を長らえることができる薬があるわ。でも・・・」
アリス「でも・・・何なのよ。」
永琳「服用すれば、心臓の鼓動を急加速させるから、血管が破裂する危険があるの。」
血が足りない状態で血管の破裂は確実な死を意味する。
選びたくは無い手段だった。
永琳「どうするかは、アリス。あなたが決めるのよ。」
重すぎた。
普通の人間、普通の魔法使いが、人の生死を決める決断をするのはあまりにも荷が重すぎた。
口を開こうとするも、頭の中でその決断が本当に正しいかを問う形になり、先に進まなかった。
沈黙が続き、時間だけが過ぎてゆく。
「光君を助けることだけを考えるのよ。」
沈黙の中、水を差すようにアリス達の後ろから声が聴こえた。
アリス「白蓮・・・」
白蓮「ごめんなさい。本当は光君に一番に謝らなければならないけど。」
左腕をかばいながら、白蓮はアリス達の輪の中に入る。
白蓮「なんとしても光君を助ける。それだけを考えたら、決断はできるはずよ。」
忘れていた。
死ぬ確率が高いと聞いて、混乱していた。
そう思い、説明を聞く前の自分をアリスは思い出した。
アリス「永琳、その薬を使って。光なら大丈夫なはずよ。」
永琳「わかったわ。こっちも最善を尽くす。」
そう言って、永琳は再び手術室に戻った。
アリスは再び、祈るように両手を絡めた。
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手術室は血の海と化していた。
白衣は、白より赤の割合の方が多いほどで、汗を拭くこともできなかった。
それでも、永琳は手を休めない。
人間には無い集中力と能力があるからこそであった。
手慣れた手付きで針に糸を通し、傷口を縫合する。
永琳「最後に、この薬を流し込む・・・!」
頼まれた薬を光の静脈に注射した。
あとは意識が戻るのを待つだけ。
心拍数と脈拍を表示されたサイトを見つめた。
しばらくすると、心拍数と脈拍が上がりはじめた。
永琳「きた!流石光君よ!」
意識が戻ることを確信し光を一時、血の海となった手術室から集中治療室に移動させた。
次はこのことをアリス達に伝える。
血だらけの白衣を脱ぎ捨て、永琳はアリス達のもとに向かった。
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手術室前。
アリス達の中に、光に重傷を負わせた白蓮が加わってからは重苦しい空気が漂っていた。
愛する人を酷い目に合わせた張本人。光を助ける意思があるとはいえ、どんな顔を見せれば良いのか。
そう思いながらアリスは白蓮を二度見する。
白蓮「私がいたら邪魔かしら・・・?」
アリスが顔を背けた瞬間、白蓮の口が開いた。
白蓮「そう思うのが普通よ。光君をあんな目に合わせてしまったのだから。だから、少しでも力になりたいと思ってここにいる。アリス、私のことが許せないなら、おとなしく出て行くわ。ここにいても良いか悪いか、それだけ聞きたい。」
アリスは考えた。
本心は、今すぐでも白蓮を八つ裂きにしたい。
大怪我じゃ生ぬるいと思っていた。
でも、それで光が喜んでくれるとも思わなかった。
悩んでいると、手術室の扉が開き、永琳がさっきとは違う表情で出てきた。
アリス「永琳!光は!?」
永琳「もうじき意識が戻るわ。部屋へ案内するわ。」
助かったと聞いて、アリスは心の中でガッツポーズをした。
永琳の後を追おうとしたが、一度白蓮の方を向いた。
アリス「光に復讐されても、知らないわよ!」
そう言うとすぐに永琳を追った。
白蓮も続いて2人の後を追った。
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光(何も見えない・・・目の前が真っ黒になって・・・見えない・・・俺は、地獄に落ちたのか・・・?)
目を開けようにもなかなか開かない。
意識はあるが、目が見えず耳も聴こえない。
テレパシーで会話するような地獄にでも落ちたような感じだった。
すると、頭の中がだんだん暑くなる感じがしてきた。
光(・・・この感じは?)
なんとなくだが力が湧いてくるようだった。
ゆっくりと目を開けるが、少しずつしか開かない。
見えないことは無いものの、ぼやけていて目線の先は何があるのかわからない。
光(くそっ・・・俺の目はまだ生きているはずだ・・・)
目のぼやけが解消され、見える範囲は狭いが何かあることを確認した。
光(木の板・・・天井?)
天井が見えるということは、自分が生きていることを証明していた。
視界はだんだん広くなり、天井についている蛍光灯も確認した。
光(アリス姐・・・・・アリス姐はどこに・・・・・)
生きているのならば、愛する人に会わねばらならない。
絶対に生きて帰ると約束したのだから、守らなければならない。
すると、誰かの足音が耳に入ってきた。
ドアの開く音がし、自分の名前を呼ぶ人がいる気がした。
「光!」
聞き慣れた声の人は、自分の名前を呼んでいる。
声が出るかどうかはわからなかったが、愛する人の名前を呼んだ。
光「ア・・・アリス・・・・姐・・・」
自分の耳で聞き取れた。
この声が愛する人に届いていると信じた。
アリス「光!?今、喋った?・・・もし喋れたら、もう一度私の名前を呼んで!」
耳のすぐ側で、アリスの声が聴こえた。
今度は目を開けると同時に口を動かした。
光「アリス姐・・・」
目は開いた。
声も出せた。
これならわかってくれると確信した。
アリス「光!わかるのね!」
アリスは光に顔を近づけ、意識があることを確信した。
光も、アリスの顔がはっきりと見えるようになり、声も聴こえた。
光「アリス姐・・・生きて帰ってきたぜ・・・」
アリス「うん!よく頑張ったわ!」
光「だから言ったろ・・・約束は守るってな・・・」
白蓮「光君・・・」
2人に水を差すように、白蓮が輪の中に入った。
白蓮「ごめんなさい、こんな目に合わせてしまって。」
光「なに・・・のった俺も俺だ・・・謝ることは無い・・・」
白蓮「いえ、あなたは止めをさせる立場にも関わらず、あえて外した。私には情けが無かった。私は罪人よ。殺すなりなんだり好きにして。」
光「ならば・・・一つだけ頼みがある・・・いのちの玉を・・・貸してくれ・・・」
白蓮は『いのちの玉』を渡した。
光は、力の限りで手を動かし、もう1つの『いのちの玉を』取り出し、2つを結合させた。
結合した石からは、「蘇生」の文字が浮かび上がり、あやしげな光りを放っていた。
光はそれを真上に投げた。
そして、もう片方の手に持っていたハンドガンで、石を撃ち抜いた。
石は粉々に砕け、破片を全て集めたとしても、元に戻すのは不可能な状態だった。
アリス「光!なんで!?」
光「これで・・・誰も石を使うことはできない・・・俺は・・・この石で蘇させられたく無かった・・・俺の頼みは・・・俺が死んでも・・・蘇らせないで欲しい・・・これだけだ・・・」
これは、光が死を受け入れることを意味していた。
死を受け入れなかった白蓮は、自分の愚かさに気づいた。
白蓮「私は・・・私は馬鹿だったわ・・・光君の今の言葉を聞くまでわからなかった。光君、ありがとう。そして、本当にごめんなさい。」
そう言うと、顔を下に向けて部屋を後にした。
アリス「なんなのかしら、意味がわからない。」
光「気にしたら駄目だ・・・白蓮は・・・大事なことに気づくことができたんだ・・・ちゃんとわかってる・・・」
光の言葉に、アリスは気を取り直す。
光「アリス姐・・・一つ、お願いがあるのだが・・・良いか・・・?」
アリス「私のできる範囲なら、なんでも良いわよ。」
光「もう一度・・・俺を・・・・抱きしめてくれないか・・・もし俺が死んでも・・・アリス姐の心の中に・・・入れるように・・・」
信じたく無かった。
ここまできて、愛する人が死んでいくのをそれだけで見届けるのは、あまりに辛いものだった。
でも、光の為なら何でもする。そう決めたからには、お願いを聞く義務があった。
アリスはゆっくり光の頭の後ろに手を伸ばし、覆いかぶさるように優しく光を抱いた。
アリス「大好きよ。光。」
光「俺もだよ・・・愛してくれる人がいて・・・こう抱いてくれる人がいるんんだ・・・幸せ者だ・・・」
アリス「私も、とっても幸せよ。」
光「幸せ者同士が・・・こうして抱き合えることができるだけで・・・俺は・・・満足だ・・・とても・・・とて・・・・・も・・・・・満足だ・・・・・」
その言葉を最後に、2人きりの部屋を電子機器の甲高い音が鳴り響いた。