#関節夫の手のひら小説361
#東日本大震災15年忌特別書き下ろし
タイトル:瓦礫の中の春
「見るがいい天地の怒りの瓦礫から
小さな『いのち』産まるる希望を」
圭介がその短歌を詠んだのは、あの震災から二日後のことだった。
テレビの画面には、押し流された町と、積み重なる瓦礫の山。
言葉を失うほどの光景のなかで、ひとつのニュースが流れた。
瓦礫の中から、泣き声が聞こえた。
まだ生まれて間もない、小さな赤ん坊だった。
「……生きてる」
圭介は思わず呟いた。
隣でニュースを見ていた真理子は、静かに涙をぬぐった。
「こんな世界でも、命は生まれるのね」
怒り狂う大地のあとにも、
それでも命は芽吹く。
圭介は震える指でメモ帳を開き、
その瞬間の思いを短歌に書き留めた。
——それから十五年。
春の風が、町の新しい街路樹を揺らしていた。
かつて瓦礫の映像を見つめていた二人も、歳を重ねている。
「覚えてる?あのニュース」
真理子がふと尋ねた。
「瓦礫の中から赤ちゃんが見つかった話」
圭介は頷いた。
「ああ……あの子、今は十五歳だ」
「中学三年生ね」
少しの沈黙のあと、真理子が微笑んだ。
「きっと背も伸びて、友達と笑って、未来のことを考えてるわ」
瓦礫の町から生まれた命は、
今、未来の入口に立っている。
圭介は空を見上げた。
あの日、絶望の中に見えた
小さな光。
その光は、十五年の歳月を越えて
確かに、この世界を照らし続けているのだった。





