朝五時にバイクで乗り出した。

一時間ほどあたりを走るだけだけれど、東の空がどんどん明るんでやがてすっかり夜が明ける間の時間帯に冷たい風に中を走るのは、また格別の気分だ。

ルートは三つか四つ、概ね決まっていて、走り出した瞬間の気分で選ぶ。

今朝は駅前の繁華街を抜けて南に向かうコースを走った。

私はその繁華街に一角にある老舗のパン屋の前に差し掛かるといつも徐行する。


いつか気付いたのだけれど、この店は私が走り抜ける朝五時過ぎにはもう動いているのだ。

ある朝は、丁度出勤してきた女性従業員を見かけた。別の朝には、シャッターの閉まった店先を掃いている女性がいた。それでよく観察してみると、店の横の路地から見通せる奥の製パン工場ではもう明々と電気がついてなにやら人が立ち働いているのだ。


そういえばこの店は7時に開店して、出勤前の人に焼きたてのパンを売っている。


私が小学生の頃、歩いて七・八分のパン屋に朝食のパンを買いに行くのが私の仕事だったことを思い出した。我が家は父の好みで、当時の家庭では珍しく朝はトーストに紅茶というスタイルだった。


そのことに気付いてから、私はこの店の前のまだ人通りの少ない早朝の風景が好きになった。

夏にはすっかり夜が明けている五時という時間は、今頃になればまだ薄暗いままだ。それでも決まった時間にはちゃんとこの店は動き出す。


今朝はまだ店先を掃く人影はなかったが、それでも路地の奥の工場にはいつもどおりの明かりが煌々と灯っていた。

私はその景色を見てからぐっとアクセルを吹かして走り出した。