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 さんま、さんま

 そが上に青き蜜柑の酸(す)をしたたらせて

 秋刀魚を食ふはその男がふる里のならひなり。

 そのならひをあやしみなつかしみて 女は

 いくたびか青き蜜柑をもぎ来て夕餉にむかひけむ。

 あはれ、人に棄てられんとする人妻と

 妻にそむかれたる男と食卓にむかえば、

 愛うすき父を持ちし女の児は

 小さき箸をあやつりなやみつつ

 父ならぬ男にさんまの腸(はら)をくれむと言ふにあらずや。

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ここまで書いて、この連の最後の三行から、不意に以前ここ で取り上げた俵万智の歌を思い出した。


 焼き肉とグラタンが好きという少女よ 私はあなたのお父さんが好き(『チョコレート革命』)


男女が入れ替わっているが、少女がそこにいる風景は同じと思えた。



           sakuraさんの記事へのコメント からのつながりでこの記事を書きました。