SMの話ではありません。

最近2度、妻を苛めた。

 一度は先週末。開店した量販店に二人行く約束をしていた。着替えを済ませた時点で「やっぱりやめる。ごめんなさい」と妻。体中がだるくて頭がくらくらするという。これで出かけると、週明けの仕事に差し支えそうだと心配しているのだ。その数日前から蓄積した疲労を愁訴していたから、事情は分かった。「いいよ一人で行くから。」そして彼女が欲しがりそうだった園芸用品まで買って帰った。夕食時、明後日からの仕事が心配だと妻が言った。私は医者に行けと言った。「何を見てもらうのよ、疲れがたまっているだけなのに。休めば直るのよ」「おかしいよ、そんなにいつも疲れて。素人判断で手遅れになったらどうするんだ。ちゃんと見てもらえよ。」

 思いやりがある振りして、「お前は弱くてだめな女だ」という。「病人で、医者にかからなければいけない女だ」という。

 彼女はそういって、「あなたは私を責めている。あなたにそういわれるたびに私は自信をなくしてきた」と泣いた。以前だと私はわざと感情を見せずに「あなたが自己変革をしようとしていないからいうのだ」「言ってもいないことでいいがかりをつけないで欲しい」といってお仕舞い。

 今回は、彼女に抗議されて、彼女が直前に予定を変えたことに私が実は腹を立てていたのが自分でも分かっていたので、「分かったよ、疲れたら休もう。お互いにもう年だからね。」それで妻がどう思ったかは知らないが、ほんの少しはテイストが違うかな。

 そうしたら、昨日のこと。実家へ母の介護に行く妻を駅まで送り帰宅する途中で、わき道から出てきた車が私の運転していた妻の車の横腹にドスン。相手と話し合い保険屋を呼び車屋に修理の約束をし、相手の若者が父親と菓子折りを持って謝りに来て、とにかく午前中は忙しかった。地震の後、妻の実家に電話をしたが混んでいて通じない。また後でと思っていたら、他人と会う約束にあわせて家を出る間際に妻から電話。 

 妻の実家が大丈夫だったということだけきいて、きろうとしたら、うちのようすを聞きたがった。「地震は大丈夫だけど、ちょっとあったからね。」「なにが?」「今いそがしいから後で」。妻が何かいっているのをがしゃんと切った。

 帰宅後妻の実家に電話。妻の車が壊れたことと修理にかなりかかることを言った。即座に「ええっ!来週私はどうするのよ、慣れてない代車はいやなの」「代車はすぐにはないそうだ」「じゃあ友達と会う約束はどうしよう。出勤はどうしよう」「俺のせいじゃないよ、もらい事故だよ」「友達との約束断るわ」「俺のせいじゃないよ、もらい事故だよ」

 こういうやり取りが数分続いて、電話は切れた。妻の名誉のために言うと、実は半年前に、私が起こした事故で妻の車が工場に1週間入院し、妻が大変不便した前科が私にはある。

 5分後再び妻から電話。「なに?」「いや、さっきのやり取りはちょっと問題が残ったかなと…」「保険屋はマニュアルどおりとしてもまず、お怪我はありませんでしたか、と訊いたぞ。あなたは来週の自分の予定の話だけだったね。」「いや、その前の電話で声が元気だったし、すぐ出かけるといってたし…」「あなたの反応は、全て予想したとおりだったからいいけど。」「だって前のこともあったし。」「あなたのそういう自分の側からしか考えられないところは、昔からだから」「本当に困るなと思ったから」「だからふだんから僕の車も運転できるように練習しておけばいいのに、いまできることだけしかやろうとしないから」

 妻が少し涙声になった。老母老父の世話に疲れた体を鞭打ってかけつけて、自分の使い慣れた車を壊されて(私が起こした事故ではないが)、また亭主のえらそうな説教を聞かされて。

 かわいそうで申し訳なくなったので、「代車が来るまでは僕がアっシーをするよ」「だって来週はじめは東京に出かけるって言ってたでしょう」

 実は友人の講演会に招かれていて、そのついでに一泊で買い物をしたり映画を見たりと考えていたのだ。

 「いや、事故の後ちょっとがっくり来て、その気もなくなっていたし、K君への言い訳も立つから。」

 「えー、いいよいいよ。友達に送迎頼をむから」

 

 書きながら、婚外恋愛の人々の喧嘩も夫婦のいさかいも、喧嘩はみな似たようなものだとなと思った。愛に変わりががないように。

 他愛もない話なのに長すぎ。