今日、職場に就職の面接に来た学生さんがいた。
7時半に出勤した桜子が、玄関前の掃除をしようと電源の入っていない重い自動ドアを手でこじ開けようとしていると、ガラス越しにが合ったのは、制服姿の女子高生。
「ボランティアの学生にしては、来るの早いな~」と思いつつ、応対。
「あの。ワタシ、倉敷○×高校の小早川美幸(仮名)といいます。就職の面接に参りました」
。。。ですって。。。ちょっと時間的に早くないかい
念のため、「何時で約束されてますか」と聞いてみると。。。
「9時です」。。。ってオイ今、7時45分なんだけどちょっとイタいコなのかい
このコの高校、桜子の学生時代には知る人ぞ知る、ちょっとアレなで有名だったし
今はどうだか知らないけど、伝統的に陸上部が強いんで、そっち方面でのイメージアップのおかげで、今は昔ほどアレじゃないみたいだけど。。。
「ちょっと早すぎませんかそれに事務所、まだ誰も来ていないし」と言うと、そのコ途端に泣きそうな顔になってしまった
「面接の前に、見学とかさせて頂けたらと、早目に来たんですけど。。。」
改めて、そのコをしげしげと見てみると。。。
ショートカットが似合ってて、なかなかカワいい
身長も165センチの桜子と変らないくらいか、むしろ高いかも。
それに若いお肌なんかツルツルのスベスベで。。。こっちはどんだけ時間かけてスキンケアしてると思ってんのよ
多分、岡山ご当地アイドルのハニーブランチの中にいたとしても全然違和感ないぞ
思わず嫉妬しそうになってしまった桜子
そして、ちょっぴり可哀想に思えてきた。
そう言う桜子も、この職場に勤務し始めてまだ3ヶ月。
前に勤務していた○×内科(仮名)は、人事異動の嵐で職場内がガタガタになって「もぅココはダメだ」と見切りをつけて退職
取得した介護福祉士資格にモノ言わせて次に行った施設は、人間関係が最悪で「ハガネの無神経」を自称する桜子でさえもストレスで不眠と拒食になり、続けていけなくなった
そして逃げるようにして転職したのが、今のブラックハウス(仮名)デイサービス。。。
このコは、間違いなく3か月前の桜子。
そこで「ちょっと上司に連絡とってみます」と事務所に向かいかけたトコロに出勤してきたのは、ウチの所長。
ハッキリ言ってこの人、ガラは悪いし、顔は怖いしで苦手なんだけど、そんなコトは言ってられない。
駆け寄って「就職の面接に学生さんが来られています。いかがしましょうか」と直立不動で報告。
「はぁ時間早いんじゃねぇのか。まぁいい、応接に通しな」とのお言葉。
「アンタ、9時の約束だろう。早すぎやしねぇか」と学生さんに投げかけられる所長の声と、消え入りそうな学生さんの声を背中で聞きながら、応接室へ走り、照明と空調をセット。
「準備出来ました」と戻った桜子に、「案内してやりな」。
アンタ、ホントにガラ悪いな
可哀想に、学生さん。所長の物腰にビビったのか、かなりブルってるし
顔なんか、もぅ半泣き
思わず、応接に通して「ココでお待ちください」と退室する間際、サムアップしながら、「そんなに緊張しないで。大丈夫だから、頑張って」と声かけしてあげた
「はい」と答えた学生さん、緊張がほぐれたのか、ちょっとカタいけど笑顔を取り戻した。
その後、桜子は本来の業務であるデイサービスの利用者の送迎に出かけたんだけど、クルマの中で色々考えてた。
福祉や介護って、ハタから思われてるほど立派な職業じゃない。
桜子たちは、天使でも人格者でも、マザーテレサやダライ・ラマ14世じゃないんです。
利用者と家族、そして施設側の思惑が絡み合って、内情はドロドロ
実際の現場は、キツいし汚いし。。。ハッキリ言って、仕事の内容と、与えられる対価が思いっ切り釣り合ってないし
「この仕事は、バカでなれず、利口でなれず。体力や口先だけでもなおなれず、の『肉体系インテリ総合職』だぜ」と、自分の仕事に誇りは持ってはいるけど、「普通の神経ならこんな仕事、やってられないよな」とも思ってる。
それに、よりによってこのブラックハウス(仮名)ですからね
給料は、都合4年勤めた○×内科(仮名)より少ない。
休みはローテーションだから、日曜以外の定休日はなし。
祝日の休みがないなんて、聞いてないぞ
♂の職員は元ヤンみたいなガラ悪いのやキモいオタクばかりだし、♀の職員の若いのも元ヤンやケバいお水みたいなヤツばっかだし。
所長はあの通り、ヤー公みたいなガラ悪さだし
「ちょっと就職先失敗したかな」と思ってただけに、「あのコ、何を考えてこの業界にしかも、このブラックハウス(仮名)に」と思ってしまう。
若いんだから、もっと他にやりたいコトってないのかしら
桜子は、ホントは歴史の知識を活かして、博物館の学芸員になりたかった。
遺跡の発掘や、歴史的な資料を調査をしながら歴史の研究をしたかった。
あ、もちろんオトコだったら航空自衛隊のパイロット目指しましたわよ
でも、このご時世にそんな求人はなくて、ナゼか証券会社の営業に。
桜子みたいに、ココロとカラダを病むまで仕事して、体調を崩した挙句に「もう来なくていいから」と、リストラされて、行くトコがなかったワケじゃないんだからさぁ。。。
「このコ、この若さで人生に絶望でもしたのかしら」と思ってしまった
絶望したら、ファントムが生まれちゃうぜっ
大昔の戦争映画風に言うなら、「人生に絶望でもしたのか」と言ってみたいトコロ
2時間ほどして送迎から戻ると、ちょうど面接と見学が終わったのか、玄関でまた学生さんと会ってしまった。
面接が好感触だったのか、朝とはうって変わった様子でいい笑顔をしていた。
「ありがとうございました。就職出来たら、来年4月からお世話になりますね」とお礼まで言われてしまった桜子
あのコ、どうやら絶望せずに済んだようです
「アタシが『最後の希望』だったのかな」とガラにもなくイイことをした気分で、「アタシって、結構いい人かも」と思った桜子でした
今日の桜子です
ケアマネージャーの試験まで、あともう何ヶ月かです。頑張らなくちゃ