一行は原爆資料館に入った。約1時間かかったというから、長い方である。
チェは、館内のさまざまな原爆による被害の陳列品を見るうちに、見口氏にいった。
「きみたち日本人は、アメリカにこれほど残虐な目にあわされて、腹が立たないのか」
それまで、見口氏はもっぱら大使と話すだけで、チェやフェルナンデスとは、ほとんど口をきいていなかった。それまで無口だったチェがこのとき不意に語りかけ、原爆の惨禍の凄じさに同情と怒りをみせたのである。
見口氏はいう。
「眼がじつに澄んでいる人だったことが印象的です。そのことをいわれたときも、ぎくっとしたことを覚えています。のちに新聞でかれが工業相になったのを知ったとき、あの人物はなるべき人だったな、と思い、その後カストロと分かれてボリビアで死んだと聞いたときも、なるほどと思ったことがあります。わたしの気持としては、ゆっくり話せば、たとえば短歌などを話題にして話せる男ではないか、といったふうな感じでした」
『チェ・ゲバラ伝』三好徹