速筆ライトノベル随筆集「海外旅日記」より シンガポール旅情 

「おしん」のデパート 雪と音楽と昼の仕事 

◆ヒットドラマ・NHK連続テレビ小説「おしん」の主人公モデルとして知られる和田カツ(明治39年生〉は、ニューヨークなど世界15ケ国の主要都市に大型百貨店を展開した国際流通グループ“ヤオハン”の創業者である・・・。1929年に静岡県熱海の八百屋としてスタートしたヤオハンは、(長男)和田一夫社長の代になって、世界的規模へと急速な事業拡大を図ったが・結局、1997年に経営破綻した・・・・・。ヤオハンがインターナショナルビシネスで隆盛中の1974年、シンガポールのオーチャードロードに第1号店をオープンした・・。

◆丁度・この年、イギリスの企業研究所に渡る途中、僕はシンガポールに仕事で滞在していた。シンガポールは、中東からの石油を運ぶタンカー船の中継基地でありメジャーの石油取引や船の補給需要、修繕工事・造船業など活況があった・・。この頃、日本の造船業界は第一次オイルショックで不況に見舞われていた・・そんな中、僕が勤務していた技術貿易会社(極東貿易㈱)のグループ企業・石川島播磨重工業(IHI)はいち早く、シンガポールでの造船事業に着目しIHIジュロン造船所をスタートさせていた・・。僕の仕事は、シンガポールの英国企業の代理店と協働して、ドック入りしている修繕船タンカーの船体電気防蝕システムの修理調整だった・・・。この頃のシンガポールは、まだ国際都市とは言い難い・ヤシ葉茂る南の国だった・・夜に、大賑わいの公園の大屋台群、たむろする船員相手の男娼たち・・そんな常夏の港街風情だった・・。その後、イギリス企業の関係で事あるごとにシンガポールに立ち寄った・その都度、毎年毎年、シンガポールは大都市へと変貌していった・・。

◆1984年、シンガポールのヤオハン・デパートは10周年を迎えた・・。当時、僕は本業の海外での仕事が少ないときは家族の生活を支えるため、音楽制作会社TTC UNIONを設立しフリーランスで、音楽やイベントのプロデュ-サーをやっていた・・・大手の音楽事務所や広告代理店などに出向きデパートの催事やホテルのイベント情報を得ていた・・。そんなある日、付き合いのある広告代理店のPDから「この処、シンガポールで雪を降らしている・・常夏のシンガポールでは、これが大当たりでね!」、SNOW?、どこで・・、「ヤオハン・シンガポールですよ!、キヨオカさん」、どんな方法で雪をつくる?、「小型のSNOW GUNを使ってね!」・・、それは素晴らしい企画だね~!、それは南国の子供たちには・絶対に、喜ばれるね~!・・・、「処で、今年はシンガポール・ヤオハンが10周年でね・現地のヤオハンのトップから、昼夜の特別企画を頼まれているけど・・キヨオカさんはシンガポール事情には明るいし、何か好いアイデアはありますか?」・・・、ヤオハンの祭事予算は?・・「3日間の総予算見積に対する先方の採否ですが・ヤオハンデパートの景気も最高だし・・あまり心配もありませんが・・,キヨオカさん!、やってみますか?・・」、それでは…昼間の“雪降らし”はそちらで・・僕の方は夜の音楽イベントを企画させて頂きますね!、ありがとう!・・・。その後、広告代理店に企画書と見積予算を提示し採用された・・・。その4ケ月後に、シンガポール現地で「ヤオハン10周年・音楽祭」が開かれ、成功裏に終わった。場所:シンガポール・ナショナルシアター、夜の部(3夜)、入場者総数:3日延べ約2万7千人「ステージは日本の音楽事務所2社と提携」:◇一部)日本の歌謡ショー、日本人バンド(ハニーサウンズ)、女性歌手1名バンド演奏者4名◇二部)ポップスとジャズショー、日本人歌手(弘田三枝子)、バンド演奏者5名。日本からの招聘者・計15名。出演者のギャラや監督・マネジャー・PDの人件費、日本とシンガポール間の総航空運賃、パフォーマンスビザ取得の諸費用・各種保険・諸経費他管理費など含め、(主催者側の負担分:現地でのアゴ・アシ・ホテルチャージは除く)、総予算額は約2千万円相当だった・・・。出演者は、ヤオハン・シンガポールの和田社長他スタッフから毎夜、格別なおもてなしを受けた・・・・。僕は、このヤオハン・シンガポール10周年音楽イベントの最中も・昼は、メジャーオイルからの依頼でジュロン造船所の修繕ドックで、ヘルメットと作業服姿でタンカーの船体防蝕補修技術者として工事に携わっていた・・夜は、ビシネススーツに着替えてナショナルシアターの音楽祭の責任プロデュ―サーとして舞台の袖でステージを楽しんだ。

◆高知に帰郷してか地元企業からの依頼でコロンボに出張する機会があり、その途中にシンガポールに滞在した・・。かなり年配のタクシー運転手の車に乗り合わせた・・僕が、「昔、このあたりは毎晩、沢山の飲食屋台が出ていましたね~・それに、船員相手の大勢の男娼なども出て大賑わいでしたね~!」、と、言うと、「ミスター!、そうそう懐かしいですね!この辺りは・・・、それにしても・よく古いシンガポールを知っていますね~!」、と、その年配ドライバーは、“今は、古き好き時代がなくなり高層ビルが立ち並ぶ近代都市にすっかり変わってしまったシンガポールの街”を、車の窓越しに眺めながら・寂しそうに、応えてくれた・・・・。

◆僕にとって、シンガポールは・・・昼夜、色々な仕事をさせて頂いた想い出深い、本当に「御縁」のある常夏の港国である。

 

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