<恩師>吉田兼好児の速筆ライトノベル随筆集「音の履歴書」より 軽音楽部・大学側担当部長 駆け込み寺の住職

高額な買い物:ビンテージギター

 

◆昭和39年秋、我々も大学4年になり軽音楽幹部は卒論で多忙となった・卒論がダメなら卒業ができない、一大事である・・、そのため、誰もめったに部室には寄りつかなくなった、既に企業の青田刈りで幹部部員全員が大手企業に就職だけは内定していた・・。「先生、保証人になって頂けませんでしょうか?」、久しぶりに大学事務局を訪ねた、軽音楽部担当世話役の大学側先生に面談する、「突然やって来て、ヤブカラボウに何だね!、保証人になってくれって!?」、先生は電気工学科を卒業後大学に残り学生を指導していた、昭和4年創部の野球部の歴代部長を務め、“プロ野球の東映に入団した遊撃手岩下光一を擁して昭和36年に東都大学リーグ完全優勝を成し遂げ芝浦工業大学野球部の全盛時代を築いた陰の功労者であった、また軽音楽部に昇格したのも先生の尽力の御陰であった・・、「君、保証人より・なりより卒論は大丈夫だろう!?、4年になっても君は部室に入りびたりで、夜ともなれば、あちこちのダンスホールでジャズを唄っているそうじゃないか!」、やっぱり・な、もう耳に入っているよ、誰が先生に陰口したんだよ・まったく、これじゃ・先生には信用がないよ・・、はい、ま~あ、就職は内定していますが・・、「君!、就職の事じゃないよ、そんな事は心配してないよ!、部員皆な就職は決まってるよ、君の卒論と卒業単位の事だよ!」・・、そうか~・よく知ってるよ・先生は・・確かに、卒論と卒業単位が・な、ちょっと心配だけど・・・、先生! 問題はまったくありません!・大丈夫です!、心配はいりません!・・、この言葉で先生は少し安心した様子・・しめしめ・・、「処で、その保証人の事、聴こうじゃないか、云ってみろよ!」、僕・先生、親父が最近亡くなって・ね・・「それは、とっくに知っているよ、土佐の親父さんだろう?」、は・はい!・・、それで僕の保証人をしてくれる身内が東京都内に居ないんです・・、東京都内在住で身元が確かな連帯保証人が絶対に必要と云うものですから・・・、ボソボソと先生に切り出した・・、「君!ね、前口上はいいから・・結論を云いなさい!」・・、はい、先生、新しいギターを買いたいのです・・新宿のミドリ屋で3年間の月賦で買う事に決めたんです・・、「いくらなんだね?・君!、そのギターとやらは?」・・、かなり、高いんですが・・、(これ言ったら先生は腰ぬかすよ・・凄い額だから・・先生の月給が手取り1万円ちょっとだから・・多分・・先生の給料の一年分ぐらいだろう)・・、15万円ちょっと・ですが・・、一瞬・先生が固まったまま沈黙した・・、「そんな高いギターがあるの!?、なんと云うギターだね?・それは?」・・は・はい! ギブソンです・ジャズ用の・・、「君は・・プロになるのかね!?」、いや・・そこまでは・まだ、就職先も決まっていますから・・、先生!僕は働きながら給料から天引きで、3年間で返済する予定ですが・・、「何処の会社に就職が内定しているのかね?君!」、は・はい、三井系の大手技術専門商社ですが・・、(先生は、う~ん・う~んと呟きながら、腕組みしてしばらく考えて・・)、「 よっし!・いいよ!、君!・ちょっとその契約書を出しなさい!」・・、(やった!・やった!やったよ!)・・、先生は契約書に目を通しながら・・、何やら・ぶつぶつと・・「やっぱり・・それにしても、凄い額だな・このギターは、初めてだよ・こんなのは、それにしても・土佐のイゴッソーには、本当に敵わんよ・まったく、君が卒業した土佐高校は野球も強いが・・うちの大学にはまったく来ない・・、皆な・田町駅の向こう側の慶応大学野球部や東大野球部に行くんだから・嫌になるよ・・」・「処で・君!これ、印鑑証明が要るな!」・「明日・もう一度来いよ!、用意しとくからね!」・・、あーあ・良かったよ!、さすがに大物先生!、感謝・感謝・・ありがとうございます!先生・・、「おい君、ちょっと待てよ!、この事は僕の女房には絶対に内緒だよ!、もしバレたら離婚になるからな!、頼むよ!」、と、照れくさそうに笑った愛妻家の先生・・・先生は、ジャズより大学野球が大好きだった・・

 

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