<超絶品本マグロの話>吉田兼好児の速筆ライトノベル随筆集「土佐日記」より とにかく美味しい研究課題

 

平成14年の夏。土佐高校の4年先輩で理化学研究所ベンチャーASTOM:小倉会長の命を受けて、高知工科大学連携センター・㈱環境先端プロジェクト研究所に机を設けた・・・・。

◆先輩との楽しかった仕事は、何と言っても「マグロと奄美の旅」だった・・・・。

“マグロ”と云えば、近畿大学研究所がマグロの孵化に成功しさらにその稚魚を市場に出せる成魚にまでに育て上げて事業化に成功した事である・・・。食卓に届く庶民高値の本マグロ(クロマグロ)は主に海外から冷凍で中央市場に運ばれてくるものが多いが味は、何といっても冷凍解凍しない“純生”クロマグロには到底かなわない・・しかし、大間海城などでの“天然ダイヤモンド”捕りと云われるクロマグロ一本釣りは、命賭けのギャンブルでもある・・・。それに比べてイケスで育てる人工ダイヤモンドのクロマグロは、リスクはあっても・それほどギャンブル性はない・・。イケス漁業は畜養・養殖に分かれる・本マグロの幼魚を30キロの成魚までイケスで育てるのが【畜養】、卵を孵化して稚魚から成魚にイケスで育てるのが【養殖】である・・・。この最も難しい養殖の事業化に成功したのが近畿大学である。大間海城のマグロ姫が天然大億ボケのダイヤモンドなら、華の浪花の箱入りマグロ娘はまだ世間知らずの夢見中の人工ダイヤモンドといった処である・・・。高知に帰って2年目、高知工科大学連携センター内の㈱環境先端プロジェクト研究所での地域水産業活性化創生プロジェクトに「豊後水道の“関サバ”に負けない・土佐ブランド“清水サバ”を冷凍しないで鮮度を落とさず、純生の状態で東京築地市場に持ち込む、一般家庭で出来れば刺身で味わってもらう」という命題があった。検討の結果、0度~(-)3度程度シャーベット状の海水氷を使うのがベストであるとの結論であった。ある朝、研究所のスポンサー企業の会長で土佐高校の先輩小倉氏から、『清岡君、奄美大島にクロマグロを食べに行こう、僕の身内がクロマグロをやってるから、』と電話である、“そうだ・クロマグロにもシャーベット状の海水氷を使える・間違いない”、「先輩・Okay,すぐ週末に奄美に行きましょう!」と即決。先輩の御身内は奄美大島でクロマグロの畜養事業をしている中谷水産㈱社長中谷拾氏であった。マグロの体温は人間の体温より2度程度高い38度、もがき苦しんだ状態で屠殺されると味は落ち市場価格も下落する。イケスから獲り上げると瞬時に屠殺し加工して氷詰めして市場に空輸するのがベストであるが、出荷するマグロの成魚は体重は30キロ以上もありブロック氷での冷却には大量の氷が必要とされ冷却適温に落とす迄には7、8時間以上はゆうにかかる。効率良く短時間に冷却するには、シャーベット海水氷はベストな方法であるはず。釣った魚などを殺すことを一般には〆るというが、30キロ以上ある本マグロを殺すことを、牛豚など動物を殺すことと同じ様に“屠殺”という。イケスでの作業では血飛沫で船上が真っ赤に染まるはず・きっと想像するだけでも恐ろしい光景だろう、この眼で確かめたい。クロマグロの畜養イケス作業の視察調査は1泊2日の旅だった。高知空港から大阪伊丹経由で奄美大島に着き、タクシーで現地に向かった。中谷拾社長にお会いして、小倉璋先輩と一緒にボートに乗り込みクロマグロの畜養イケスでの作業現場を見学した。長さ30M~・深さ15Mほどのイケス中を30キロ以上のクロマグロ成魚が超スピードで泳ぎまわる・マグロが海面にくると、ジェット機の様な“シュ―ン”と糸をひく機械音をたてる、ワイア針に餌カケして投げ込む、マグロが喰いつくと船上の作業員を海中に引きずり込む・猛烈な引きである、数秒の凄まじい格闘後・電気ショックで仮死させたマグロを3人掛かりで抜きあげる、船板に上ったマグロの延髄にすばやく番線を刺し込む、大量の血が噴水の様に舞いあがり飛び散ってマグロは絶える、そして屠殺は終る、この間・約2.3分、プロの早業である。しかし、マグロの屠殺は地獄の血潮の光景に一瞬目を覆う、“あ~あ、早くこの場を離れたい”・“直ぐに陸に上がりたい”そんな気分である。水揚げしたクロマグロは10分程かけて作業船で陸の加工場に運ばれる。加工場では手際よくマグロの内臓が取り除かれ大量の氷が詰め込まれ発砲スチロールにパックされた後・大型トラックに積み込まれて空港まで輸送される。収穫シーズンの売上は大きいが、餌・氷・維持管理・人件費・保険など直接経費も大きい、また台風などによるイケス破損やマグロ死滅損害などのリスクも大きい、やはり・クロマグロの人工ダイヤモンド製造販売は、かなりのギャンブル商内であった。旅の夜の酒宴ハイライトに、中谷拾社長が手塩にかけた超高価なダイヤモンド・純生クロマグロが大皿に山盛にされ振舞われた。小倉先輩と顔を見合わせ、酒を酌み交わしながら、「先輩、すごいね・これ、ちょっと土佐でも・これは喰えないね、」、『そうだろ~清岡君、旨いだろう・絶品とは、こんなマグロの味のことを云うんだよ、』、そうですね・先輩、うん・うん、と呟きながら、ただ夢中で・初めての純生クロマグロの旨味を楽しんだ。口直しのデザートにメロンシャーベットが出たが、あまりにもマグロが旨過ぎて・酔い過ぎて、“何の目的で奄美に出張してきた?”、そんな事はすっかり忘れていた。そんな懐かしい・超美味しい旅を今も想い出す・・・・・・。

故)小倉先輩の御身内である中谷拾社長が命賭けで育てた“超絶品”の純生ダイヤモンド、奄美の夜に輝く二人の笑顔を想い出しながら・年の暮れの先輩の命日には、土佐の地酒を呑んでいる・・・。