美花です!

【蓮キョde都市伝説】第3弾です。

読書傾向がひっそり猟奇的な私、都市伝説も大好きです。

キョコたんが新人OLさん、敦賀さんが…な、お話の続編です。

蓮キョだからこそのお話つくりをしておりますが、ええええと思われる蓮キョスキーさんが多いと思いますので、立ち入りには十分お気をつけ下さいませね。

元ネタをご存知の方も、ご存知でない方も、この手のお話がお好きな方にお楽しみいただけたらなと思います。

ではでは、どうぞ~


***


「ねえ、キョーコ。そう言えばさっきの電話の人って、噂の『敦賀さん』?」

奏江にそう問われたのは、夕食の片付けの後のことだった。

暦上では既に秋だけど、夏の暑さを引き摺る蒸し暑い毎日がいまだ続いている。
そんな中、奏江とキョーコは帰宅早々交互にシャワーを浴び、今は互いに部屋着姿に着替えていた。

キョーコの部屋は6畳のワンルーム。

ベッドを置いて、低めのソファーとローテーブル、TVを置くラックを揃えただけでいっぱいになってしまう狭い部屋だけど、自室はキョーコお気に入りの空間だ。

淡い色味のベッドカバーも可愛らしいフォルムの家具達も、自分の好みに合わせて一から揃えたもの。

女性専用アパートと言うこともあり管理会社がマメに手入れをしているようで、アパート自体も築10年という古さを感じさせることもない、綺麗な内装の部屋だった。

その室内、ソファーに座る奏江に見上げられて、続きのキッチンからペットボトルとグラスを持ってきたキョーコはどきりとなる。

丁度、蓮のことを考えていたところだった。

今になって冷静さを取り戻し、『…そう言えば敦賀さん、何か私に御用だったのよね…?』と、先ほどの連絡について、漸く思い至るようになっていたのだ。

「えっ、う、噂のって?」

奏江の前に飲み物を注いだグラスを置きながら、暫く会っていない蓮の美貌を思い浮かべて、ちょっとどぎまぎしてしまう。

仕事で忙しい彼とはここ一週間、殆ど顔を合わせていなかった。
これほど会わない日々が続くのは、思えば知り合って以来、初めてのことかも知れない。

そんなキョーコの心の動きに気付かない様子で、

「噂の、でしょ。あんた、会えば毎回『敦賀さん』の話ばかりしてるじゃないの。毎度2人でどこか行ったってお土産持ってくるし」

ボディークリームを丁寧に足へと塗り込んでいる奏江は、少し呆れたようにこちらを見る。

そして、

「よかったの?週末だし、デートのお誘いだったんじゃないの。その『敦賀さん』とあんたって、付き合ってるんでしょう?」

当然のようにそう言うのに、目を瞠ったキョーコは頬を真っ赤にしてしまった。

「ななな、なんてこと言うのモー子さん!そんな、つ、付き合ってなんて、いないったら!!」
「え、違うの?」

けれど、奏江に不思議そうに返されて…

「…そ、それは、私は素敵だなって思っているけど…でも、それはその、私の勝手な片想いって言うか…」

もごもごと本音を口にしたキョーコは、ぺたんとローテーブルの傍の床に座ってますます頬を赤らめる。

相手が大好きな奏江とは言え、やっと形になり始めた、自分の心の内に秘めた想いを改めて口にするのは恥ずかしい。

1人で何かを決断することには慣れているけれど、個人の気持ちを誰かと共有するのは難しかった。
そう言うことに慣れていないからこそ、どうしていいのか分からなくなってしまうのだ。

(だいたい…こんな個人的な話をされても、モー子さんには迷惑な話じゃないかしら…)

…不安になってしまって、キョーコは落ち着かない思いで、ちらりと奏江を見たのだけれど…

「そうなの?でも、毎週会ってるって話じゃない。向こうは、その気なんじゃないかしら」

クリームを更に手にとる奏江から、あっさりとそんな意見が返って来た。
彼女特有のクールな様子の対応だったけれど、それを受けたキョーコは思わず瞳を瞬かせてしまう。

自分の部屋で、親友相手に好きな人の話をしている。

そんな今の状況に思い至って、

(こ、これって何だか、凄く女の子っぽい会話よね…?もしかして、これが女の子同士の恋バナってやつ?嘘、やだ、どうしよう!)

女の子同士のその手の遣り取りに強い憧れを持つキョーコは、一気にまた、舞い上がるような気持ちを抱えてしまう。

奏江の後押しも嬉しいし、この状況自体も凄く嬉しい。

ドキドキと高鳴る胸を押さえたキョーコは、妙にそわそわして来てしまって手近のクッションを抱え込み、目の前の奏江をぐっと見つめる。

「ほ、本当にそう思う?モー子さん」
「思うわよ。普通、何とも思ってない相手とそんな頻繁に会わないでしょ」

そ、そういうものなのかしら?

初めての自分の気持ちに手一杯のキョーコは、蓮の思惑を推し量ることが出来ないままだ。

嫌われてはいないと思う。

それでも、それ以上を望むのはやっぱりキョーコには難しい。

蓮はあの美貌なのだ。今は彼女はいないと言っているけれど、その状況がいつまで続くかは分からない。
彼女と言う特別な存在が出来たら、今までのように会う機会も自然となくなってしまうだろう。

そう思うと切なくなる。

そして、自分の周囲で起こる出来事を思い返し、膝を抱えたキョーコはそっと吐息を零す。

「でも、でもね…私これまで、変な事件にばかり巻き込まれているでしょう?だから、会ってくれているのは同情なのかな、とか思っちゃうの」

やっかいな自分の体質が、面倒見のいい蓮を心配に駆り立てているのではないかと、キョーコは未だに気に掛けて来ていたのだ。

けれど、

「ああ…それは、聞いてるけど。でも、だからって同情で毎週会うかしらね?それは、さすがにないんじゃないの」

細い肩を竦め、グラスを傾けた奏江はそれをさらりと否定してくれる。
これまでの不安を綺麗に切られて、キョーコの心の中に、ほんのりとした期待が浮かび上がってきた。

「そ、そう、かな?」
「私はそう思うけど。そんな心配してないで、どうなのか本人に聞いてみたら?簡単な話じゃない」
「! そ、そんなの、簡単じゃないわ、絶対に無理よう…!!」

それがキョーコの勘違いだった場合、恥ずかしくて、もう二度と蓮には会えなくなってしまうだろう。
そんなのは嫌だ。それならば、あやふやだけど、幸せな今の関係のままでいいと思う。

それでも…

不安に思う気持ちを、誰かにそうじゃないと言われるのは心強い。
言葉だけとは言え、その相手が信頼する奏江なら、尚更だ。

ほんの少しでも、蓮がキョーコと同じ気持ちを持ってくれていたら、とても嬉しい。

…けれど…

もうひとつの不安点を思い出したキョーコは、思わず眉尻を下げてしまう。

「…あのね、モー子さん。もしモー子さんの好きになった人が、凄いお金持ちだったら…モー子さんは、どうする?」

最近知った最大の問題を、奏江に絡めて問い掛けてみた。

身を乗り出すキョーコの真剣な面持ちに、奏江は切れ長の瞳を瞬かせる。

「何、その『敦賀さん』、そんなにお金持ちなの?」
「…う、うん…」
「男の人の甲斐性は、ないよりはあったほうがいいんじゃないかと私は思うけど。お金持ちって、どれくらいなのよ」
「ええと」

高級マンションを個人で何個も持っているくらい。

…とは、さすがに奏江相手でも口に出来ず、困ったキョーコは口篭ってしまう。

蓮の金銭面での事情を知って以降も、キョーコはこれまでと変わらない態度を続けて来ていた。

規模があまりにも大き過ぎて全体像が掴めないこともあったし、何より、お金持ちと聞いて態度を変えるのはどうかと思ったのだ。
お金に目を晦ませることと同じく、お金持ちだからとこれまでと見る目を変えてしまうことも、同列によくないことだとキョーコは思う。

でも、それでいいのかしらと、不安にも思う日々だ。

蓮本人は、そんな自分の金銭面に対して特に気にした様子でもなく、これまでの態度と何一つ変わりがない。
だからキョーコも、その点を見ないこととして対応することが出来ているのだけれど。

(…私って…本当は、敦賀さんの傍にいていい人間では、ないんじゃないかしら…)

高級マンションを保有できる金額を何でもないことのように言う彼と、庶民な自分の立場の違いは明らかだ。

好きでい続けることも、本当はよくないことなのかも知れない。

そう思うと悲しい気持ちになってくる。

膝を抱えたキョーコは、1人深い溜息を零してしまったのだけど…

「…キョーコ」

不意に名を呼ばれ、我に返ったキョーコは小首を傾げる。

ソファーの上で続いてお肌の手入れを始めていた奏江が、急にこちらに手を伸ばしてきたのだ。
腕をぎゅっと握られ、不思議に思ったキョーコは、ソファーから腰を浮かした奏江の整った顔を覗き込む。

「なあに、モー子さん?」

どうしたのかしら、虫でもいた?

やや強張っているようにも見える奏江の表情を見つめて、キョーコはそんな風に思ってしまう。
奏江の眼差しが、窓側に寄せて置いているベッド付近の床に、真っ直ぐ向けられていたのだ。

管理会社が定期的にアパート全体の駆除をしていても、季節柄、何かの拍子で窓から入って来てしまうこともある。

もしかすると、長く垂らしたベッドカバーの下に逃げ込んで行ったのかも知れない。

それなら早速やっつけなくてはと、キョーコは殺虫剤を持って来ようと、立ち上がろうとしたのだけど。

「…だったら、これからその『敦賀さん』のところに行かない?」

いきなり奏江がそんな予想外のことを言い出して、キョーコは目を丸くする。

「え!な、何を言ってるの、モー子さんたら!」
「気持ちが知りたいんでしょう?私が上手く、聞き出してあげるわよ」
「え、え、ええええ!?」

言うが早いか、奏江はそのままキョーコの腕を引いて、キッチンの先にある玄関へと向かおうとして、キョーコはそんな奏江を慌てて引き止める。

(どうしちゃったの、モー子さん!脈絡がなさ過ぎるわ!)

「も、モー子さん、そんな、こんな夜遅くにいけないわ!き、きっと敦賀さん、もう寝てるし!」

いつになく強引で即決な奏江に、キョーコは顔色を青くさせてしまう。

いきなり押しかけて蓮に迷惑を掛けるのも嫌だし、そこできっぱりと気持ちに決着がついてしまうことも恐ろしい。
白黒はっきりつけたい奏江らしい考えかも知れないけれど、曖昧なままにしておくと言うのも日本人の持つ美徳だと思う。

蓮の気持ちなんて、正直まだ、知りたくはない。
不安はあっても、今は知らないまま、幸せな夢を見ていたいと思うのだ。

けれど、

「まだ9時前でしょ、こんな時間に寝る男なんていないわよ。ほら、いいから」
「モモモモ、モー子さん!!?」

意に留めない奏江は、思うよりずっと強い力でキョーコを引っ張り、あっという間に、2人して玄関の外にまで出て来てしまった。

玄関先の棚に置いていた鍵で、奏江がドアの鍵を音を立てて閉める。

そしてアパートの階段を下りる段になって、漸くそのことに気付いたキョーコは大きく慌ててしまう。

「モ、モー子さん、服!せ、せめて、行くならちゃんとした服に着替えて行きましょうよ!こんな格好じゃ、外も歩けないわ!」

お風呂上りだった奏江もキョーコも、キャミソールにショートパンツと言う軽装に着替えていたのだ。

まだまだ暑い夜、2人だけで部屋にいるには何の問題もない姿だけど、これで外を歩いて、ましてや蓮に会うだなんて、キョーコの中では有り得ないことだった。

それは奏江だって同じことだろう。

いつもきっちり綺麗めな服装をしている奏江のことだ、その点は聞き入れてくれるはず。

それなのに…

「バカ!そんなこと、今は気にしている場合じゃないわよ…!」

何故か逆に怒られてしまって、訳が分からないキョーコは呆気にとられてしまう。

いきなりのことで、お財布も携帯も部屋の中に置いたままだ。
こんな状態で蓮のところに行くだなんて、いくら奏江のすることとは言え、どうかしてしまったのかと思えてくる。

そして、何が何だか分からないままに、階段を降りきったところで…

「え、最上さん…!?」

背後から声を掛けられて、聞き覚えのありすぎるその声に驚いたキョーコは、飛び上がってしまった。

慌てて振り返った先には、何故か、唖然とした顔の蓮が立っていた。
その背後の道路には、待たせたタクシーが停まっている。

その長身と美貌を見つめて、一気にキョーコの顔から血の気が引いていく。

どうして彼がここにいるのか分からない。
会えたことは嬉しいけれど、今の状況でこれは、最悪の出来事だと思う。

「つ、敦賀さん、やだ、みみみ、見ないで下さい…!!!あ、ダメ、モー子さんたら!!」

自分の、決してグラマラスではない身体が蓮の目に晒されるのが耐えられなくてしゃがみこんだキョーコは、奏江がそのまま彼に歩み寄るのを見つけて、更に取り乱してしまう。

今、奏江の口から蓮に気持ちを問われてしまったら、きっと今の関係が崩れてしまう。
自分の気持ちが彼にとって迷惑なものだったらと思うと、考えただけで眩暈がしそうだった。

「嫌よ、モー子さん、お願い、何も言わないで…!!」

…だから、悲鳴のような声でそう叫んだのだけど…

「あなたが敦賀さん!?丁度いいわ、何でここにいるのか知らないけど、今すぐ警察を呼んで!!」

大きく響いた奏江の緊迫した声に、え、と思う。

見上げれば、蓮に詰め寄る奏江の顔は鬼気迫っていた。

警察?

敦賀さんに気持ちを聞くのに、警察まで呼ぶの??

「え、警察って…何故?」

蓮もその意味を把握出来ていないのだろう、しゃがみこんだキョーコと傍に立つ奏江を、驚いた顔で交互に見つめてきていた。

彼と目線が重なって、お互いがきょとんとした顔になってしまう。

「モー子さん…どうして…?」

呆気にとられて見上げるキョーコに、奏江は強張った表情で振り返って。

「…あんたの言う引き寄せ体質の意味が、やっと分かったわよ…」

溜息混じりに長い黒髪をかきあげた彼女は、自分を落ち着かせるように大きく息を吐くと…

「ベッドの下にいたのよ!何でか知らないけど、あんたのベッドの下に、包丁を持った男が隠れてたの!」



よく通る声で、そう、蓮とキョーコに告げたのだった。




≪SIDE.Rに続きます≫

皆様の大方の予想の通り、今回の敦賀さんはヒーローではありませんでした…
続きをUPするまでコメントのお返事が出来ずにすみません;後ほど、お返事をさせて頂きたいと思います^^