今もなお、下町情緒が色濃く残る老舗店舗が連なる街、東京・人形町。

その中でも、180年の歴史を持つという老舗中の老舗が、甘味(あまみ)処『初音』だ。

 

 

 天保8年(1837年)創業という、老舗甘味(あまみ)。わざわざ甘味に〈あまみ〉とルビを振っているのは、この店が〈かんみ〉ではなく敢えて〈あまみ〉処とこだわりを持っているが故。

「人形町/甘味処」でGoogle検索してトップに出るぐらい。人形町を代表する甘味処と断言しても過言ではないだろう。

 

 まさに〈和モダン〉というハイカラでモダンな風情の店内には、女性客はもちろん、意外にも男性の1人客も目立つ。私のようなサラリーマンでも、ふらっと入りやすいのが嬉しい限りだ。

 

 

店名の「初音」は、歌舞伎「義経千本桜」に登場する源義経が静御前に託した由緒ある鼓、 〈初音の鼓〉から取られているそうで、店内の間仕切りやメニュー、包装紙にいたるまで鼓をイメージした意匠が凝らされているという徹底ぶり。いるだけで古き良き昭和にタイムスリップしたかのようだ。

 

 お汁粉、杏パフェ、氷宇治、白玉あんみつ…、注文するのも悩ましい魅力的なメニューが並んでいるが、初めての訪問なら、名物白玉あんみつで決まりだ

 

 この時点でベーシックな〈あんみつ〉より、白玉をのせて200円アップだが、さらに30円をプラスして〈小倉〉すなわち〈つぶあん〉にすることをお勧めしよう

もちろん、こしあんの小豆も北海道十勝産の最上級品だが、つぶの食感が肝となる〈つぶあん〉には、さらにふくよかな〈より小豆(しょうず)〉と呼ばれる極上ものが使われているのだ!

小豆をより分け、大きなつぶだけを集めたまさにエリート中のエリートを、熟練の職人がつきっきりでじっくり炊きあげた、官能的なまでの艶をまとった〈つぶあん〉。これを堪能できるのだから、30円など安いものだったと痛感できるはず!

 

 あんに続いて、もうひとつ究極の選択が。「白蜜」か、「黒蜜」か、それが問題だ。選べるのはどちらかひとつのみ! 端麗なキレの白か! コクのあるパンチの黒か!

これに関しては、それぞれにゆだねる他ない。この問題に正解はない。

2人以上で行って、シェアするのもいいだろう。いっそ1人で2杯いただくか…。

 

 さあ、ついに白玉あんみつのお目見えだ! 器に敷き詰められているのは、産地にこだわり伊豆⼤島産の天草から作った寒天。そんな寒天に彩りを添える、赤えんどう豆とカラフルなフルーツたち。そして、求肥! もち米に水あめを練りこんで作るこの求肥も、白玉とはまた違った食感で味わい深い。

 

 しかし、なんといっても、器の中で大きな存在感を出しているのが、一級品の白玉粉を茹で上げたもちもちつるつるの白玉だ!

これら全てを絡ませて口に運んだ時、その先にどんな世界が待っているかは…、ぜひ、自ら初音に足を運んで、その舌で確かめて欲しい。

 

 最近はカタカナのスウィーツの影に隠れがちの甘味だが、親子五代に渡り店に通う客がいるのも納得の完成された「あまみ」。

 2013年に「和食」がユネスコ無形文化遺産に登録された。この初音の甘味も未来に残したい、日本、そして東京が産んだ絶品の文化遺産なのだ

 

 人形町駅と水天宮駅の間にあるため、水天宮お参りのついでに多くの妊婦さんも訪れるという。この味を産まれる前から堪能した子どもたちは、きっと生まれながらに甘味に魅了された、違いのわかる素敵な人間になることだろう…。

 

【甘味処 初音】

住所/東京都中央区日本橋人形町1-15-6

電話/03-3666-3082

営業時間/11:00~20:00(L.O.19:30)、日曜・祝日11:00~18:00(L.O.17:30)

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