「誰でもよかった。」そんな言葉がお昼のワイドショーを騒がせていたが、生まれてきたのが誰でもいいなんてことは無い。あなたでなければダメなのだ。

20101225日、僕は20才の誕生日を迎えた。その時、一緒に居たのは誰でもいい人ではない、とても大切な人であった。そんな二人はクリスマスの話をしていた。僕はちょうど10年前のクリスマスの話を始めた。

20001224日、もうすぐ10才になる僕はクリスマスを楽しみにしていた。誕生日には期待していない。僕のうちは貧乏なので親からは誕生日プレゼントなんてもらえないのだ。しかし、クリスマスは別だ。なぜならサンタクロースがプレゼントを枕元に置きに来てくれるからだ。

誕生日に何をもらったと話す学校の友達をいつも羨ましく思っていたが、クリスマスは僕も話に参加できる。むしろ、冬休みなのに友達を教室に集めて、サンタクロースにもらったプレゼントをみんなで見せ合うという会を立ち上げた。去年はもらったラジコンを教室中に走らせて遊んだ。今年も1225日に教室に集まる約束をした。今年は流行りのカードゲームをもらってカードゲーム大会をする予定だ。

クリスマスはワクワクして眠れないという人もいるだろうが、僕は次の日のカードゲーム大会が楽しみすぎて、早く来てほしいので早く寝た。もちろん枕元には靴下を置いておいた。そして流行りのあのカードをくださいとメモ書きしておいた。みんなあのカードをお願いしたらサンタさんはそんなにたくさん持っていないかもしれないなという不安もあった。それでもサンタさんはすごい人だから絶対にもらえると信じていた。今までも希望通りのものを毎年もらっていたのだ。

運命の1225日の朝、僕はその目を疑った。

「ごめんなさい。あのカードは売り切れてしまいました。代わりにこのトランプで遊んでね。サンタクロース。」

広告の裏紙のようなものと、ティッシュに包まれた100円均一にでも売っていそうなトランプが、僕の枕元に置いてあった。ウソだろ。それでもみんな同じだから売り切れたのだと自分を納得させた。もらったトランプで遊べばいい。そう考えて学校に行ったが、友達はみんなあのカードをもらっていたのだ。僕は頭が真っ白になった。サンタさんは僕だけに希望のカードをくれなかった。それが悲しかった。こんな安っぽいトランプなんて破り捨ててやろうかと思った。その時、僕のうちにはサンタさんは来なかったと友達が言い出した。その彼は、サンタさんは来なかったけど、親にカードをもらったというのだ。それも希望していたよりも倍の量のカードをもらっていた。なぜサンタさんは僕と彼の期待を裏切ったのだ。すると思いもよらないことを彼が言い出した。

「サンタなんていないよ。サンタの正体はお父さんだった。昨日寝たふりしてサンタさんにお礼を言おうと思ったらお父さんが部屋に来て、カードを置いていった。」

「それはサンタさんがお父さんに頼んだんだよ。僕のお父さんはそう言って僕にくれたよ。」別の友達が反論している。

「おまえらガキだなぁ。まだサンタなんて信じてるのかよ。サンタなんていないんだよ。存在しないの。よく考えればわかるだろ。世界の子供全員の家にプレゼントを届けるなんて無理な話だ。それも1日でだぞ。」

僕は何も言い返せなかった。これが現実なのか。夢を与えるクリスマスの夜も現実は甘くないのか。サンタクロースでも売り切れという現実に敵わないのか。それでも僕はサンタクロースはいると信じていた。信じていたら夢は叶う。きっとどこかに居て誰かを幸せにしているはずだ。だってサンタさんが親だなんて知ったら僕はこれから何ももらえなくなる。うちは貧乏だから、そんな物分かりのいい大人にはなれない。サンタさんは来ると信じているよ。

次の年からサンタさんはうちに来なくなった。友達の間でもサンタクロースはいないという現実を受け止めているようだ。それでも友達は皆、クリスマスには親からプレゼントがもらえるから何も問題はないのだ。僕は誕生日もクリスマスもプレゼントがもらえない貧乏な家庭を恨んだ。

そして20年後、僕は30才の誕生日を迎えようとしていた。隣には10年以上付き合ってきた彼女がいる。そして今年もクリスマスにサンタクロースの話をしていた。

僕は今でもサンタクロースはいると信じている。サンタクロースは『サンタ苦労す』だったんだ。今になってようやくわかった。プレゼントをもらえなくなってから僕が独り暮らしを始めた18才まで、毎年のクリスマスには家族で夕飯を食べていた。トランプをして遊ぶこともあった。それだけで十分幸せだった。サンタさんのプレゼントは目に見えなくなったけど、クリスマスには家族の愛というものをもらっていたんだ。今でもクリスマスにはメールや電話で連絡を取るようにしている。普段は苦労して、聖なる夜に幸せを与える。それがサンタクロースの仕事だ。だからサンタクロースは親だということも言えるし、世界中にたくさんいるといえる。世界中の幸せな家庭にサンタさんは存在するんだ。

僕もそんな暖かい家庭を作りたいと思う。誰でもよくない、君と一緒に。僕は彼女にプロポーズをした。

次の年のクリスマス、僕らの子供が生まれた。

そして出た言葉は、

「わかった。あそこに行こう。僕がおごる。だから僕のために曲を作って。」

「は?」

彼女は驚いた表情で僕を見た。

「僕が詩織ちゃんの分も払う代わりに、僕の書いたこの歌詞に曲をつけてよ。」

僕はカバンの中から紙を取り出す。

彼女にプレゼントしようと用意していた歌詞を書いた紙だ。

「なに?これ?歌詞…なの?」

「そう、ダメかな?」

彼女はゆっくりとかみしめるように読んでくれた。

「いい、いいじゃん。作りたい。曲つけさせて。」

「よかった。じゃあランチ行こう。」

「うん。嬉しい。なんかいい曲できそう。」

彼女がまた笑う。

ほんとにかわいい笑顔だ。

「あのさ、」

「なぁに?」

「さっき、怒ってたとき、もう一緒にお昼行かないって言ったでしょ。」

「それが?」

「これから行くのはランチだから。」

「ハ、ハハ、そうですかぁ。」

「うん、そこだけははっきりさせたくて。」

「奏くんだって意外と譲れないものあるんじゃん。流されてばっかって言ってたけど。」

「詩織ちゃんに出逢ったからだよ。」

「そっか。」

また笑った。

彼女の笑顔は素敵だ。

これからもずっとこの笑顔を見ていたいと思った。

これから先何があっても、どんなことも乗り越えてやる、乗り越えないといけないと思った。

そんな人に出逢えた僕は幸せ者なのかもしれない。

些細なものでも、壮大な夢でも、目標を持った人間は強くなれる。

自分なりの幸せを日々探して生きている僕らは素晴らしいと思う。

僕らは1分、1秒先の未来に向かって歩き出した。

「ごめんね。なんかしんみりさせちゃって。」

「いやぁ…」

「そういえば名前聞いてもいい?私は北川詩織(しおり)。17歳。」

「僕は西田奏(そう)。同じく17歳。てか同い年なんだ。」

「タメなんだね。学校は?」

「湖町。頭悪いから。」

「湖町高校ってそんな悪くないでしょ。むしろ海の星と同じぐらいじゃない。」

「海の星のがはるか上だよ。だって僕落ちたし。」

彼女が笑った。

この笑顔をみると高校に落ちた悔しい気持ちなんか一瞬にして吹っ飛ぶ。

「ねえ、奏くん。なんか食べにいかない?私もお昼まだなの。」

「え、いいの。行く。行きたいです。詩織ちゃんと一緒にランチしたいです。」

「ランチって。フフ。」

また彼女が笑った。

彼女にとって僕はそんなに面白いのか。

まあ笑ってくれているので前向きに考えよう。

「ランチって社会人のお姉さんみたい。OLさんだ。フフフ。」

「そんなイメージなの。僕の学校ではみんなランチって言うよ。」

「わかった。ランチ行きましょ。どこ行く?」

「よし、今日のランチは僕がおごる。」

「いいよぉ、同じ年なんだし。OLさんじゃないんだし。」

「いや、こういう時は男はおごるもんなんだよ。」

「ふ~ん。」

彼女が不満そうな顔をする。

「なんか悪いこと言った?」

「私ね、そういうの嫌いなの。」

「何が?」

「男はこうあるべきだとか、女らしくしろとか。だから奏くんがそんな理由でおごるって言うなら私もう一緒にお昼行かない。」

彼女は立ち止まる。

「ごめん、じゃあおごらない。」

「じゃあ?なにそれ、なんですぐ妥協するの?自分の言ったことには責任持ってよ。」

「え?」

「あ、今めんどくさいと思ったでしょ。もういいよ。どうせ私はわがままな女ですよ。」

彼女は怒って座り込んでしまった。

「ごめん、僕はいつもそうやって言われた通りに相手に合わせて、自分の意見も言えずに生きてきた。だけど今日は自分の意思で初めて学校休んで、何か変われたような気がしてたんだ。でも結局変わってないね。ごめん、コンビニで何か買ってくるよ。」

「待って、その案もありだけど、私は…あそこに行きたい。」

彼女はファミリーレストランを指差した。

「でも…」

僕は考えた。