「侑(りょう)さん!おはようございます。今朝は寝坊しなかったんですね。残念だなあ、俺が起こしてあげるのに」

「君が居るのに、寝坊する訳には行かないからね。だけど、毎日起こしに来てくれるなら、それはもう天国だね」


そう言って、悪戯っ子みたいに笑う“侑さん”。


昨夜彼は、撮ったばかりの写真を現像して見せてくれ、「まだ初日だから無理もないけれど」と前置き、俺の表情が硬いのをやんわり指摘すると、もっと親密な雰囲気を出したいからと、成瀬さんを名前で呼ぶことを提案したのだ。
 

「侑さんは甘えん坊だなあ。俺よりずっと年上なのに」


確かに名前で呼んでみると、親しくなったような気がして話しやすい。するすると言葉が出て、昔からの知り合いみたいに話せる。
 

「ずっとって、9歳だけだろ」

「おじさんですね」


ほら、こんな軽口だって平気で言える。昨日とは大違いで、新しい自分にビックリだ。


「こらこら、そうだ、今日は庭に出てみようか?こっちのカメラにも慣れておいてもらわないと」

「カメラ何台持ってるんですか?」

「断捨離したから5台」 

「カメラマンって、そんなに持ってるものなんですか?」

「人によるよ。1台を使っている人から、10台以上使い分けてるヤツもいるからね」


侑さんは普段、あまり積極的に話すタイプではない。だけど、カメラのことや写真の事についてとなると、かなり饒舌になる。


この日、俺たちは陽の当たる中庭で話しながら、昼間の撮影をした。そう、撮影ありきではなく、言葉を交わす事。
 

つまり、お互いを知る事に重きを置いていて、打ち合わせなんてしなくても、多分お互いが同じ事を考えているのがわかっていた。


目が合うと、侑さんが俺に微笑んでくれる。それだけで俺は安堵し、微笑む事が出来るようになって行く。


だけど、細かなところで感じる、些細なズレみたいなものがまだ沢山あって、歯痒いと言うかもどかしくてモヤモヤする。


もっと彼との仲が深まれば、この言い様の無い感情を胸の中から押し出す事が出来るのだろうか?


ファインダーの向こうの侑さんに挑むように視線を送り、口の端で笑ってみる。


「祥君。いい表情が出るようになって来たね。明日が楽しみだよ」


シルバーの一眼レフを両手で持ったまま、侑さんは眩しそうに目を細めて、俺に向けたそのカメラのシャッターを指先で切った。






つづく