最初の2、3日は、借りていた別荘の片付けや帰国の準備があるからだろうと、自分に言い聞かせてやり過ごしていた。
俺は4月から社会人だし、入社式の用意もしておかなきゃいけないし、やる事は色々とあった。荷物を片付けつつ部屋を片付け、侑さんの撮った写真を1枚だけ部屋に飾った。
侑さんから返信が来ないまま5日が過ぎた。その頃になると、さすがに俺もおかしいと思い始めた。いくら何でも連絡が無さ過ぎる。
もしかして、何かあったのだろうか?そう思って何度か電話をかけてみた。けれど彼は電話にも出ないし、折り返し電話がかかって来る事もない。
鬱々としかけた気持ちを振り払うべく、俺は久しぶりに小野先輩に連絡して、コンビニ近くの定食屋で会う事にした。
まだ韓国のお土産も渡してなかったし、色々と他愛無い事を話したい。出来る事なら、今のこの不安な胸の内を少しでも軽くしたい。
「言いにくいけど、騙されたんじゃないか?」
一通り話を聞いてくれた先輩は、俺が騙されていたのではないかと、申し訳なさそうに言った。だけど侑さんは人を騙すような人じゃない。
「何か事情がある筈なんです」
「それでもメッセージぐらいするだろ。だいたい、成瀬さんの職場とか家は?知ってんのか?」
そんな話をした事が無いと気付かされて、気持ちがぐらりと揺れた。嘘は吐かれてないとしても、俺はあの人の事を知らなさ過ぎた。
「……知りません」
「アルバイト代は?」
「聞いてたよりも沢山振り込まれてました」
それは、返金しなければと思うほどの金額だった。
「だからって、信用できるかどうかは、また別問題だろ」
小野先輩は痛いところを的確に突いて来る。尊敬していたその頭の良さが、今は胸に刺さって笑えない。
「侑さんは嘘吐きじゃない。あの人は俺に嘘なんて吐かない。すみません、俺、今日はもう帰ります」
「佐々倉、お前まだ何も食べて……」
「そうだ、これ韓国のお土産です。と言っても日本製なんですけど、良かったら使って下さい」
「ありがとう。あ、佐々倉、送るよ」
「いえ、大丈夫です。それじゃあ、また」
俺は逃げるようにその店を出て家路を急いだ。途中一度だけスマートフォンを確かめたら、小野先輩から御礼と謝罪のメッセージが届いていた。
《辛い時にキツいこと言って悪かった。あの人から連絡がくることを願ってるよ。土産ありがとな》
でも、相変わらず侑さんからの連絡は何ひとつとして無かった。彼の事は信じている。けれど、信じ続けるにもエネルギーが必要なんだと言うことを思い知らされる。
彼の声が聞きたい。声を聞いて安心したい。触れて触れられる、あの幸せな時間をまた2人で堪能したい。でなければ俺は、不安に負けて歩けなくなってしまう。
つづく