
日本経済新聞出版 2025年9月刊 444ページ
第23回本屋大賞受賞。
以来、地元のブックランキングでも1位が続いている。
これまでの作品も話題になってるけど、
朝井リョウの作品、私は初めて。
物語は3人の視点で語られる。
久保田慶彦
離婚し、一人娘の澄香とは月に一度のビデオ通話と学資の支援をするだけの関係。
レコード会社に勤め、かつては新人歌手の売り出しに成功したこともあったが、
今は経理部でくすぶり、若手社員からは疎んじられる存在。
しかし、第一線で活躍する同期に突然声をかけられ、
デビュー間近のアイドルグループのプロジェクトに加わることになり…
武藤澄香
久保田の一人娘。
海外留学を目指す大学に通いながら、
自分に自信が持てず、留学の必要性や、自身の適性に疑問を持ち始める。
語学サークルの仲間・奈々や悠真とも次第に距離が生まれ、孤立していくが…
隅川絢子
契約社員で同じ会社の先輩・いづみさんとともに俳優の藤見倫太郎を推している。
倫太郎は現在休養中だが、
今日も2人はタグイベに熱中し、トレンド入りに成功して充実感を感じる。
しかし、その時、予想もしないニュースが流れてきて…
最初に感想を一言で言っておくなら、
知的好奇心を満たされはしても、
感動的な作品、心に訴える作品とはならなかった、私には。
まず、推し活に詳しくない読者のためにか、
推し活の構造、推し活が個人に与える影響、社会に与える影響等々、
登場人物の言葉で、詳しすぎるほど説明されている。
その詳細さは久保田をして、
「こんな風に丁寧に説明されなくても、容易に想像できる話だ」と言わしめるレベル。
正直、前半は3人の心理描写も含めて、説明し過ぎ、書き過ぎという感じがして、
おもしろくないし、読んでて苦痛、途中でやめたくなった。
そのくせ、推し活用語が多用され全く説明されていないのは意図したことか?
「オプチャ」とか「インライ」、「グッズのコンプ」「タグイベ」とか知らなくっても物語の流れはわかるのかもしれないが、
没入度に差が出るのでは?
言葉がわからなくて、途中で読むのを諦める人もいるかも。
一方で、ファンダムを五つの気質に分類するという話は面白かった。259ページ
自分のことを気の利いたご意見番だと思っているプロデューサー気質。
データ主義で事象を数値化するアナリスト気質。
マイナスに働く可能性のある要素をいち早く見つけて取り締まる学級委員気質。
メンバーへの愛を極める疑似恋愛気質。
布教活動の熱量が高い信徒気質。
私はどれに属する?と思ったけど、
そこまで推し活にのめり込んでない私は、すべての気質を持ち合わせつつも、どこにも属さない信者以前。
タイトルにもなっている「メガチャーチ」。
その仕組み、「チャーチマーケティング」、初めて聞く言葉で、こちらも興味深かった。325ページ
ライブのような非日常感を味わえる場所としての教会。
礼拝ではなくライブに参加するような感覚で、
これまで行き場のなかった無宗教の若い世代を取り込んでいるのだという。
「人間って完全な無宗教状態で生きていくのって難しいんだよ。
何かを信じてた方が楽っていうか。(中略)道標が欲しいんだよね、何でもいいから」という奈々の言葉が
この作品のテーマだと私は思っている。
そして奈々から語られるその定義、
「本質的には無意味、低価値、無関係なものを、
団体が発信するストーリーによる権威づけと信者の視野狭窄によって価値が高いと思い込ませて、
本来の価値以上を支払わせる」
「信者からの集金」が仕掛ける側の目的。
ところが、仕掛け人の国見はファンたちから搾り取るのではなく、
自分自身を使い切らせてあげているのだという。389ページ
この視点もなかなか興味深い。
「皆、自分を余らせたくないんです」
人生の指針がなくなった現代、
人生の正解や成功の条件はただの幻想に成り下がった現代において
「自分というリソースを使い切ったもん勝ち」
「万人に通ずる物差しがなくなったということは、その対象が何であれ、
自分を使い切っている人には外部からのジャッジが一切通用しない」
つまり、金であれ、時間であれ、労働力であれ、人はすべてを使い切りたがっている。
使い切らせてくれる対象、熱中できる対象、狂信できる対象を人は求めているというのだ。
しかし、いろいろと興味深い理論が提示されるんだけど、
これって小説なのか?文学なのか?
昔、めっちゃ流行ったので読んでみたけど、
全然面白くなかった『ソフィーの世界』。
こちらもビッグヒットとなったけど、私は読んでない、
『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』。
それに近いものを感じた。
小説というよりはドキュメンタリー?
推し活にはまる人々の心理分析と、推し活ビジネスの解説?
最後、久保田が自分の孤独を自覚し、
真に向き合うべき相手は澄香だと思うんだけど、
「信徒」の中心人物「ちゃみする」が澄香だと気づく直前で作品は終わる。
自慢の娘の変容を久保田は受け入れるのか、
そんな久保田を澄香はどう思うのか。
その先を描いてほしいと私は思った。
ちなみに、「ちゃみする」は「すみちゃん」の逆読み、
韓国焼酎「チャミスル」から取ったよね?
アイドルグループ「Bloome」はファンダム名が「花道」なんだけど、
日本語では「引退の花道」とか「花道を飾る」って「最後」のイメージ。
でも韓国語では「花道だけ歩きましょう」って、「輝かしい未来」の意味。
どうでもいいけど、気になった。