他所の県もやっているかは分からないけど、
私が住む県では、観光客へのおもてなしの一環として、寄航した客船の出航時にお見送りイベントをやっている。
私はこのイベントが好きなのである。
はじめてこのイベントを見に行ったのは、去年の秋くらいだったかと思う。
イベント自体はわりと頻繁に行われているらしいのだが、私が見に行くのは今日で二度目。
友人が、お見送りをする側として演奏をするので、見に行ってきた。
夕方の定刻を少し遅れて到着すると、岸壁では、お見送り部隊が演奏や伝統芸能を披露していた。
今日は風が強く、ここ最近の中では寒い一日だった。加えて、日もだいぶ傾いてきてる。
港の冷たい風にさらされながら弦を弾く三味線奏者。素手で打楽器をたたく友人の指もまた割れてしまいそう。
薄いはっぴの袖が風に舞っている。
「来てくれてありがとう、また来てね、よい旅を」
演奏部隊は音楽で、踊り子部隊は演舞で、アナウンサーはマイクを通して言葉で、メッセージを客船に向けて送っている。
寒さを感じさせることのない笑顔とともに。
大きな客船のデッキには、その様子を見る人達が数多くみられる。
演奏に合わせて手拍子をしたり民謡を口ずさんだり、手を振ってくれる人もいる。
会ったこともなければ話したこともない、顔もよく見えない人達。
たくさんの人達が、寒い中、デッキに出てお見送りの様子を見てくれている。
顔もよく見えない距離でも、個人が放つカラーの違いは感じられる。
年配のご婦人が数名お喋りをしている、遠目でも上品そうだなぁ。
あっちの二人はご夫婦かしら。
おー、若者もいる。そうか、春休みか。スマホ落とさないようにね。
ギターを持ってる二人組も見つけた。二人は船で知り合ったのだろうか、友達同士なのだろうか。
デッキに並ぶ人達のカラーの違いを感じながら、一人ひとりにそれぞれ違う人生があるんだよなぁ、と考える。まったく同じ物語を持つ人はいないだろう。
私の知らない場所で生きてる人達がたくさんいることを実感する。
デッキに居る人達は、恐らく、道ですれ違ったこともないし、今後会うこともないであろう人達だ。
仮に会ったところで、顔も、名前も、何も情報がないため「今日デッキに出てた人だ」と認識することができない。
一期一会というにも至らない、まったく思い入れのない他人の集団。
なのに、お見送りの様子を見てくれているその集団を眺めていると、不思議と、それぞれの人生が良いものであるようにと、祈る気持ちが湧いてくる。
船長の挨拶があった後、徐々に船は遠ざかり、汽笛の音が別れと名残を教えてくれる。
私が知ることもない人達の、それぞれの思い出を乗せて、船はどんどん遠くなっていく。
随分遠ざかっても、まだ、デッキで手を振ってくれている人達。
岸壁で手を振り返す人達。
「見送る側」と「見送られる側」の、ほんの数十分の交わりの中に、人の心が通う瞬間を感じる。
優しい余韻が港に残る。
私はこのイベントが好きなのである。



