「蘭・・・・。」
「・・・・新一。」
いつか夢見てた。
二人名前を呼び合って。
見つめ合って。
そっとあなたの腕が私を抱き寄せて。
近付く距離。
そして静かに重なる唇。
好きな人とのファースト・キス。
女の子だったら誰だって夢みてるものよ。
ねぇ。
どんどん私の中で大きくなる王子様。
あなたと目が合うたび。
あなたの声を聞くたび。
あなたの隣を歩くたび。
あなたと電話するたび。
あなたと手を握り合うたび。
あなたに抱きしめられるたび。
私の心は今にもはじけそうな程高鳴るのよ。
ドキドキが止まない。
そのたび。
そのたび。
あなたが愛しくなるんだよ。
“好き”が増えていくんだよ。
一年、一か月、一日、一時間、一分、一秒、一瞬。
そのたび。
そのたび。
日、めくるたび。
あなたは私の一番になるの。
気付いてる?
それはあなたと出会ってから一度も止まった事はないよ。
ねぇ。
あなたはどうだった?
日、めくるたび。 中編
「ー・・・っやだ!!」
夢見ていたファースト・キスの瞬間が突然やってきたと思ったら。
私はあなたを押しのけていて。
あなたは驚いた目でこちらを見ていた。
その場にいる事なんて出来なくてそのまま全速力で逃げた。
ある程度の距離を走り抜けて。
その間も頭の中はぐるぐる回っていた。
しばらくして速度を緩めて立ち止まった。
ズキズキ痛む胸を鞄越しに抱きしめて。
グッと力をこめて。
一呼吸。
意を決して後ろを振り向く。
「・・・・・・・。」
期待した人はそこには立っていなくて。
その場に蹲った。
「・・・・・・っばかぁ・・・。」
コンクリートの灰色が目に入ってくる。
けれどそれが滲んだ。
ポタッと零れた涙が地面を濡らす。
しばらく私はその場から動けなかった。
そしてその間も一向に誰かがやってくる気配はなかった。
:::
翌日ー・・・
明日は4月29日。
昭和の日で高校は休みだ。
明日から始まる連休にクラスメイト達は心を弾ませているようで教室内は賑やかだった。
「あれ?蘭、今日新一君一緒じゃないの?」
「・・・・うん。」
「何よ、冴えない顔しちゃって、喧嘩でもした?」
「・・・・・・。」
登校して自分の机に鞄を置いて用意をしている所に園子がやってきた。
何気ない質問だったけれど私は答えられなかった。
あれから結局新一からは何も連絡がなくて。
もちろん私も連絡することはなかった。
そのまま気まずくて迎えに行く気にもなれず今日は一人で登校してしまった。
私がおかしいと察したのか園子は前の席に腰掛けてから片方の腕で頬杖をついて私を見上げてきた。
「・・・・どれどれ、園子様に聞かせてみなさいよ。」
「・・・・・・。」
園子のその言葉に苦笑を浮かべると私も椅子を引いて腰掛けて昨日の事を話始めた。
:::
「・・・・・・・。」
一部始終を聞いた園子は黙って何か考え込んでいる。
「・・・私が悪い・・・のかな。」
何も答えてくれない園子に不安になって小さい声で呟いた。
「え?・・・・んー・・・別に蘭は悪くないと思うよ?」
「・・・・やっぱり?そうよね、新一がひどいのよね!」
園子から自分は悪くないと言ってもらえてホッとする。
けれど園子は少し困ったように口を開いたんだ。
「いや・・・私は・・・なんていうかどっちが悪いとかどっちが正しいとかは言えないと思うんだよね。」
「え?」
「蘭はさ、恋人って何だと思ってるの?」
「こっ恋人?えと・・・・・。」
園子にそう問われて考え込む。
私が昔から夢見ていた恋人はー・・・
「お互いがお互いを好きで・・・一緒にいると安心できる心許せる仲・・・かな。」
「手をつないだり、抱き合ったり・・・キスしたりするのは?」
「そっそりゃ・・・そのうちはそういう事もするんだと思うけど。」
「・・・したくないの?」
「えっ!?だっ・・・なっ何言ってるのよ!」
思わず恥ずかしくなって慌てる私。
「そんなに恥ずかしい事?私は真さんとなら手つなぎたいって思うし、抱き締めて欲しいし・・・キスだってしたいっていっつも思ってるよ?蘭は違うの?」
「そっそれはー・・・・。」
言葉がつまる。
本当は私だって同じ。
新一と恋人になれたらって憧れ続けていた時は手をつなぐ事、抱き合う事、キスする事だって夢見てた。
本当に恋人になれてからだって一緒に帰ってる時は新一の手を見て“手、つなぎたいな”って思ってた。
一緒にいる時にドキドキがいっぱいになると“ギュッてしてほしい”って思う時もあった。
話ている新一の唇が気になって目が離せなくなって“キス・・・してみたいな”って思っちゃう時もあった。
でもどれもこれも恥ずかしくて。
自分から出来るわけも言えるわけもなくて。
ただ自分の中に秘めてたんだ。
何だって新一に任せて。
私は好きの気持ちを隠してただ、新一のそばにいるだけ。
あれ?
なんかそれって・・・・。
「・・・・蘭が思ってるなら・・・新一君だって思ってるの当然じゃない?」
園子の言葉にはっとする。
新一も・・・同じ?
「いきなりしてこようとするのは蘭の決心だってあるだろうし・・・簡単に受け止められない事だってのはわかるけどさ、新一君だって一生懸命だったんじゃない?」
「一生懸命?」
「蘭がもし、新一君とキスしたーい!って思ってても、新一君は違う気持ちだったらどうする?」
「違う気持ちって・・・?」
「例えば・・・もう一緒にいられるだけで十分、それ以上なんて望んでませんよ!とか。」
「・・・・・・。」
「別に手なんか繋がなくても、抱きしめてなんかくれなくても、キスなんかしなくても全然いいですよ!なんて思われてたら・・・どう?満足できる?」
首を傾げた園子。
わかった気がする。
どうして新一があんな言い方をしたのか。
「・・・・・・満足なんか・・・・出来ないよ。」
俯いて口にした言葉を聞いた園子はにっこりと笑った。
今度は両腕で頬杖をついて口を開いた。
「そうよ、恋する乙女だって欲求はあるんだから、恥ずかしい事なんかじゃないわ!」
私は新一の事が好きで。
新一も私の事を好きで。
だから二人は恋人同士で。
ただそばにいるだけじゃ足りなくて。
でも私は恥ずかしくて何一つちゃんと新一に伝えられてなくて。
こんなに新一の事求めてるくせに。
新一だって私の事求めてくれてるのに。
どうしてわからなかったんだろう。
どうして新一の気持ち考えなかったんだろう。
自分の事ばかり。
私達は同じなのに。
「・・・・私・・・新一に謝らなきゃ。」
「ついでに蘭からチューしてやれば?きっと喜ぶわよぉ。」
「そっ園子!?」
ガラッ
ドアが開くと担任の先生が入ってきた。
園子が席に戻るのを見送るとそっと新一の席を見る。
まだ、来てない。
寝坊しちゃったのかな?
意地はんないで迎えに行ってあげればよかった。
先生が出席をとり始める。
「くどー・・・・あっそうだ、工藤は休みだ。」
「先生、なんで工藤休みなんすか?」
出席をとっていた先生からもれた言葉に男子生徒が質問する。
「あーなんかなぁ、ご両親のいるロスに諸事情で行く事になったそうでな今朝の便で発ったそうだ。だからしばらく休むらしい。」
まじかよー、ロスとかずりぃ!とクラスメイトからブーイングが溢れる。
ロッロス!?
そんな聞いてないよ。
しばらくって・・・いつまで?
だって、もうすぐ新一の誕生日なのに。
それに・・・・こんな喧嘩したままなのに。
なんで?
机の上で握り合わせていた掌にグッと力がこもった。
:::
その頃ー・・・
「・・・・おい、緊急事態なんじゃねーのかよ?」
「え?緊急事態よ!緊急事態!だって久しぶりにGWに優作の仕事がないのよ!?連休よ?たまには親子で過ごしたいじゃなーい!」
「・・・・それのどこか高校を休ませる程の緊急事態なんだよ!?」
あれから新一が帰宅した所に一本の国際電話が届いた。
それは自分の母親からのもので、聞けば何やら緊急事態が起こったそうで今すぐにこちらに来てほしいという事だった。
あまりにも切羽詰まった母親の様子に冷静さを失いすぐに飛び立つ用意を始めていた。
黒の組織の件では両親にも色々と協力をしてもらっていた分、何かあったのではと気が気ではなかった。
そして翌日の朝一の便で発った・・・・が。
ロスの両親の家に着いたと同時に母親とのこの会話。
新一は肩にかけていた荷物をそのまま落として脱力する。
「・・・・黒の組織の事で何かあったのかって本気で焦ったんだぜ?」
「そんな顔しないでよ!私の演技力まだまだいけるわねー!あれ?そういえば蘭ちゃんは一緒じゃないの?」
「なっなんで蘭が一緒なんだよ。俺一人に決まってんだろ?」
「えー!?だって新ちゃん達やっと恋人同士になったんでしょう!?最初の旅行デートは海外vと思って計画したのにー!」
「・・・・・帰る!」
「ちょっちょっと!新ちゃんそんなに怒らないでよー・・・蘭ちゃんがいないのは残念だけど、こうやって元の身体に戻った新ちゃんと会いたかったのよー!」
「・・・・・・・。」
有希子に腕を掴まれて言われた事に言葉に詰まる。
「そんなに邪険にしなくてもいいだろう?母さんも楽しみにしていたんだ少し位ゆっくりしていくといい。それにもっと冷静さを持っていればちゃんと詳細を確かめていたはずだろう?それを怠ったということはお前にも落ち度があったってことだよ。それとも何か冷静さを失うような事態があったのかな?」
書斎から出てきた優作に見透かされたように言われてうっと顔を顰めると新一は諦めたように息を一つはくと「わーったよ」と観念したように呟いた。
そのままリビングのソファにボスッと腰掛けた新一は窓の外を見上げた。
「・・・・・まぁ、ちょうど良かったかもな。」
“もういい・・・知らない!
新一何もわかってない!!・・・・・ばかぁっ!”
涙を浮かべて走り去った彼女が脳裏に浮かぶ。
自分は本当に正しかったのだろうか?
ただ自分の欲求だけをぶつけて。
彼女の気持ちをちゃんと考えていたんだろうか。
そばにいるのにそれさえも知らずにずっと待ち続けてくれていた彼女。
その間も胸を締め付けられるような蘭の想いを知った。
やっとそばにいると胸を張って言えるようになって。
気持ちを伝えあえるようになったのに。
それで十分なはずだったのに。
どうして自分のことばかり考えてしまったんだろうか。
待つことだって出来たはずだ。
待つ以外にだっていくらでも手はあった。
俺がとったのはただの強行突破。
そして結果また泣かせた。
もう泣かせないって・・・・そう思ってたのにな。
・・・・頭を冷やすのにはちょうどいい機会だ。
そして俺はしばらくの間ロスの自宅へ居座る事にしたんだ。
:::
帝丹高校ー・・・
「らっ蘭、新一君の事知ってた?」
「・・・・知らない。」
「何も連絡受けてないの?」
「何も・・・何も聞いてない。」
HRが終わってすぐ園子がやってきたけれど、その時の私はどんな会話になっていたかなんて覚えていない。
どうして?
なんで何も言わずに行っちゃったの?
そんなに私はあなたを傷つけていたの?
もう許せない?
わかんない。
わかんないよ、新一。
おいてかないで。
もう・・・一人にしないでよ。
私から今すぐキスを送ればあなたは帰ってきてくれる?
でもあなたはここにいない。
いないんだよ。
今度こそ本当に私はひとりぼっちだ。
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後書き:::
お待たせしてまーす。
やっと中編です。
蘭ちゃんの中で自覚が生まれたのに・・・
ロスになんか行ってる場合じゃないよ!工藤君!
こういうすれ違いが大好きkakoです。
いつも同じパターンでスミマセン。
果たして新一君は誕生日に帰ってこれるのか。
そして蘭ちゃんはちゃんと気持ちを新一君に伝えられるのか?
そして・・・キスは出来るのか!?
両親が出てきた意味はちょっとわかりませんが(おい)
とりあえず中編でした。
今から後編も執筆!
明日更新できるよう頑張ります!!
快斗バースデーの前には終わらせないと・・・・。
よっしゃ!
必死こくぞ!
2011.06.19 kako
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