昨日、歌舞伎座第二部の「たぬき」を見て、
いろいろと胸がいっぱいになりました。


こちらの「たぬき」のあらすじは、
ころりという疫病で本当にころりと行ってしまった(と思っていた)男が
焼き場で焼かれる寸前に生き返るも、
囲っていた女の本性を見て、
人が変わったように情を失くしてしまい、
別人として人を欺いて生きていくのだけれど、
自分の正体を見破るただ一人の存在との再会で自分を取り戻す、
という、
超簡単にまとめると、こんなお話です。

生き返った男を演じるのは坂東三津五郎さん。


4月の歌舞伎座公演の後、すい臓がんの治療をまた始めると報じられていたので、
どんな治療か分からないけれど、
その後の回復が気になっておりました。


冒頭、焼き場のところではお声に少し張りがないかしら…?と不安視していたものの
芝居が進むにつれ、私の気のせいだったと思え、
むしろ、4月のときよりは体力戻っていらっしゃるかなと拝見しました。
本当によかったです!!


このお芝居が三津五郎さんで上演されるのは10年ぶりで、
つまり、私の歌舞伎1年生のときの懐かしいお芝居。
それにつけても、10年という年月のすさまじき速さを思い知らされるのでした。


「たぬき」の金兵衛とその女房が10年前と同じ
三津五郎さんと扇雀さんで、その軸が変わらない分
その他の配役の変化に年月の残酷さを強く感じました。

勘三郎さんがもういらっしゃらなくて、
福助さんが舞台に立っていない。
三津五郎さんも大病を患って、
当時の勘太郎さんは勘九郎さんになり、そのご子息の七緒八君が舞台に上がっている。

どれもこれも想像していなかったことばかり。

そして、何よりも観ている私もがん患者…。


三津五郎さんがどんな思いで演じられているのかを
ずっとずっと想像しながら観ていました。

きっと、生き返る金兵衛に自らの姿を重ね合わせていたことでしょう。
病気になってからの世界、
勘三郎さんがいらっしゃらなくなってからの世界は、どう見えますか?


勘三郎さんがいないのは淋しいけど
それでも、勘太郎さんや七緒八君と同じ舞台に立てているることを
とても喜んでいらっしゃるでしょうね。


ラストの三津五郎さんの涙も10年前よりよりはっきりしていました。

こういう喜劇味も混じった渋い人情劇、三津五郎さんならではのお芝居ですよね!!
渋さの厚みを増したように感じました。


七緒八君のセリフは、正直ほとんど何を言っているか分からなかったのだけど(笑)
言葉として何を言っているか分からなくても
何を言わんとしているかはちゃんっっっと伝わってくるんですね!

ちゃんだ、ちゃんだ、ちゃんだーーーって
高いお声で機関銃のように叫ぶんだけど(笑)
このまっすぐさこそが実の父を見分けさせたのだろうなと
ものすごい説得力を持っています。
既に名優ですね泣き笑い



話がちょっと飛びますが、
お正月の海老蔵さんのドキュメンタリー番組で
ご子息のかんかんくん(笑)が
白塗りして犬の鬘(笑)をかぶっていたパパ・海老蔵さんとご対面したとき
全然怖がらずにニッコニコしていたのですよね。


うちの弟が子どもの頃なんか、
菊人形という菊の白塗り人形を見たときめっちゃ泣いてたのに(笑)
0歳の赤ちゃんが白塗り犬を見て怖がらないのは
パパだって分かっているからですよね。
子どもってすごい!


10年という年月は残酷だけれども、
同時に思いも寄らなかったサプライズもたくさんプレゼントしてくれる。


金兵衛に自身の姿を重ねているに違いない三津五郎さんに、
さらに私は自分を重ね合わせながら、幕が閉じるのをじっとじっと見ていました。

また来月も観に来られますようにって。


往復6時間かけて(!?)
歌舞伎だけ見てとっとと帰ってくるってちょっと異常だけど
やっぱり行ってよかったです。

この10年いつでも
歌舞伎座では自分の命と歌舞伎座の力を交換してくるような
ものすごい緊張感がありました。
有閑マダムの道楽みたいな気分を味わったことはありません。
むしろ、戦場だった。


その緊張感は病気になって、さらにリアルなものになったわけですが、
本当にいつもいつも大きな力をありがとうございますって思います。


ありがとうございます。


さて。

今夜は新月ですね星


久々にゆっくりできている晩なので、カード引いてみてから寝まっす♡