魔物が身動きをとれない程の、絶妙な大きさだ。

その上に、小さなスコップを投げる。

『えいっ』

ぶすっ。

頭の真ん中にスコップが刺さる。

なんだか、墓みたいだ…。

動かなくなった魔物の上から、ジョウロで水をかける。

あの水は、相手のHPを奪い、自分のHPにする。
つまり、時雨の雨のようなものだ。
けれど鈴羽の方は、奪うスピードが半端ない。
5秒もあれば、すぐに奪い尽くす。

『よぉし、終わり!』

鈴羽の周りの魔物達は、一気にやられてしまった。

つ…強ぇ…。

とりあえずキリがついた所で解散した。

レベルは
"時雨45LV、八雲48LV、美衣50LV、鈴羽49LV"だ。

俺が一番低いらしい…。
どうやら人形使いは、レベルが上がるのが早いようだ。




ゲームから落ちたすぐ後。
時雨のケータイがなった。

ディスプレイには"すずは"の文字。
2つ折りの黒いケータイを開き、通話ボタンを押す。

「もしもし、時雨?」

「あぁ、俺。何かあったのか?」

「うん…。あのさ、黒雪姫の事だけど…。」

"黒雪姫"という単語に、一瞬心がはね上がった。

「黒雪姫のレベルね…"105"らしいんだよ。」

言葉が詰まった。

「っ…ひゃ、105…!?」

いくらなんでも、この短期間で上がりすぎだろ!

「私も驚いたよ。さっき黒白同盟に入ってる友達に聞いたら"最低でも105はあるだろう"って…。」

電話口の鈴羽は冷静にそう言った。

「ちょい待ち。黒白同盟ってなんだ?」

引っかかった事を、鈴羽に聞く。
初めて聞いた単語だった。

「簡単に言えば、ファンクラブみたいなもんだよ。白雪姫と黒雪姫に興味ある人とか、憧れてる人とか、神様のように思ってる人が入ってるんだってさぁ。」

「へぇ…ンなもんがあったのか…。」

「そうみたいだね。会員数も多いみたいだよ。2500人だって。3日前に作られたばっかりなのに。」

「な…っ、それってギルドとは違うよな?」

「ううん、ギルドだよ。黒白同盟って名前の。」

それはとてもすごい事だった。

普通のギルドは、多くても300人くらいの集まりしかできないはずなのに…。
黒雪姫と白雪姫の名前を出しただけでこんなに集まるもんなのか…!?

唖然とする俺に、鈴羽が話を続ける。

「で、こっからが本題。あるんだよ、秘密兵器が…。」

「ひ…みつ?」

俺は静かに鈴羽の次の言葉を待った。
『よーし、どこから行く?』

俺が聞くと、鈴羽が答えた。

『北の方が、弱いやつと強いやつがごちゃごちゃしてるよ。経験値も高いし。』

どうやら、修吾と一緒にレベル上げをしに行った事があるらしい。

『うん、じゃあそこ行こうぜ!』

八雲がそう言って歩きだす。
俺達もそれに続いた。

今の所、俺達のレベルは
"時雨23LV、八雲29LV、鈴羽22LV、美衣15LV"だ。

『はぁっ!!』

時雨は持ち技である回転剣舞(カイテンケンブ)をくりだす。
時雨の武器は、長剣だ。

八雲との勝負で見せた雨も使えるが、それをやると皆を巻き込んでしまうので、剣技だけでレベル上げをしている。

その後ろでは…。

『やぁっ!!』

八雲が糸のついた短剣を振り回していた。
遠距離がら上手に使いこなせば、たくさんの敵にダメージを与えられる便利な武器だ。

『ちくしょー、八雲の武器は反則だ!』

『時雨だって、回転剣舞で大量の敵にダメージ与えれるだろ?お互い様だぜ!』

八雲はニヤつきながら答える。

『それにしても…。』
『あぁ…』

八雲と時雨の視線の先には、美衣がいた。

美衣は操り人形を使う。小さな可愛らしい人形だ。
それもたくさん。

それだけ見れば、可愛らしいのだが…。

『あれは…怖いな。』
『あぁ…本当だよ。アタシも美衣とは戦いたくない。』

2人はげっそりとする。

人形は、魔物に近づき…ばくっ。

頭から食べる。
それも一口で…。

『わぁい~!また倒せたですぅ!!』

美衣の喜ぶ声が聞こえる。
俺達は見なかった事にした。

と、そちらに目をとられていたら、あっというまに周りを囲まれていた。

『しまった!アタシとした事が!』
『やべぇ…!』

俺と八雲は叫ぶ。

『わぁ~、ヤバヤバですう!超でか人形、行くですぅ!!』

ぐおおおお!

うん?今、ものすごい音が…って…!!

上を向く。

空が…割れてる…。

そこから、美衣に似た可愛い巨大な人形が…落ちてきた…。


『嘘っ!?』
『こわっ!』


八雲と俺は絶叫。恐怖の叫びをあげる。

ドォォン!

『ぐっあぁ!』
『ぐぇ…。』


俺達は人形の下敷きになった…。

『あーあ。何やってんだか…。』

鈴羽はつぶやく。
鈴羽は素早い敵を相手にしていた。

『えいっ!』

魔物の下から植木鉢が飛び出る。


『キイイ!キイィ!』


魔物は苦しそうな声をあげる。
「君はどうやら、八坂くんとは昔からの友達だとか…。昨日は八坂くんの家へ行ったそうですね。お見舞いでしたっけ?」

なんだか少しおちゃらけた感じの、スレンダーな男だった。
結構、若く見える。

それにしても、よくもこうペラペラと次の言葉が出てくるな…。
と、時雨は思った。

「あ…自己紹介が遅れましたね。僕、関ヶ口署の赤井朔(アカイサク)と言います。」

赤井さんはにこっと笑って言った。

「あの…赤井さん。その…一気に聞かれても、どれに対して答えればいいのか…。」

「あははっ、ごめんね。じゃあ一つだけ。」

赤井さんの雰囲気が変わった。真っすぐな、真剣な瞳。

「君は、八坂くんの事をどう思っていましたか?」

さっきの明るい赤井さんとは違う、しっかりとした眼差し。

修吾を、どう思っていたかー…。
しばらくの沈黙の後、俺はつぶやくように

「修吾は―――俺の親友でした。」

とだけ言った。

赤井さんは「そっか」とだけ言って、俺を車から降ろすと、どこかへ去っていった。




「嘘だろ…修吾…。」
八雲が静かにつぶやいた。
帰り道、皆と合流した。
暗い顔でうつむきながら歩く。

「…やっぱり、黒雪姫が犯人だぜ!だいたい、あいつが言ってたんだぜ?"早くお友達の所に行かなくていいの?"ってよ!?」

八雲は叫ぶ。

「…でも、それなら白雪姫も。なんじゃないですかぁ…?」

美衣の言葉に、誰も答えなかった。

沈黙…。


「よし、レベル上げしよう。」

時雨が唐突に声を上げた。
「へ?」と鈴羽がマヌケな声を出す。
「な、なに言ってんの?」と八雲。
「――童話迷宮…ですかぁ?」と美衣。

「そうだ。」

と、時雨は頷く。

「でも…レベル上げて、どうなるんだよ。」

八雲が聞く。

「だってさぁ、修吾が言ってただろ?"ゲームで起きた事が、現実になった"ってさ。」

時雨は足をはやめながら、みんなの先頭を歩いた。

「なら、修吾を殺したやつ、黒雪姫とかにも、童話迷宮の中で会うかもしれないだろ?」

そう言って、時雨はみんなの方を振り向く。

「そうだな…アタシは賛成だぜ。」
八雲が真っすぐに時雨を見て言った。

「美衣もですぅ!!」

美衣も、今日はじめて満面の笑顔で笑ってくれた。
鈴羽も、無言で頷いた。

「よし、んじゃ"童話迷宮"の"おとぎの森"に集合だ!!」



午後7時。
俺達4人は"おとぎの森"に集まった。