人間にとって記憶が無くなる、忘れるという行為は、
基本的にはマイナスなイメージに捉えられがちですが、
介護をする側からすると、その忘れるという能力が物凄く役に立つことがあります。
介護士だけはなく、医師や看護師もそうだと思いますが、
人間の死に際に立ち会うというということは、心に大きな衝撃を与えます。
何度か経験していれば慣れるだろうと思うかもしれませんが、
自分の感情を上手にコントロール出来るようになるだけで、心に響く衝撃は毎回同じです。
特に、介護士にとって、ずっと介護して寄り添ってきた利用者が目の前で亡くなるというのは、
家族の気持ちと同様、心に大きな穴がぽっかり空きます。
思い出を思い出して悲しくて泣いたり、自分のしてきた介護への葛藤などもあります。
ただ、介護士の場合、それが「仕事」なので、心に開いた大きな穴をすぐに埋めなければ、
他に待っている利用者への介護が出来ません。
そんな時に役に立つ能力というのが「忘れる」ということ。
利用者の存在を忘れるという意味ではなく、最期の看取りの瞬間を忘れるという意味です。
ベッドで寝たきりになり、少しずつ息絶えていく利用者の場合はまだ良いのですが、
部屋に行ったらすでに死んでいたという場合、発見時の状態にもよりますが、
かなり衝撃的な映像として頭に残ることがあります。
生前の利用者を知っているだけに、そういった場合は、
仕事だけでなく自分の日常生活にもかなり支障がでます。
つい先日、利用者が亡くなったのですが、
突然のことだったので、第一発見者の同僚も心の準備が出来ておらず、
見つかった状態も、生前の状態とはかなりかけ離れていたので、
その発見時の映像が頭から離れなかったらしく、そのせいで数日間眠れず、体調を崩していました。
あまりに精神的にダメージを受けていたので心配していたのですが、
1週間もしたら、ケロッとして「もう大丈夫!」と元気に仕事をしていました。
この時に、出来るだけ早く「忘れる」ように努力をすることは大切だなぁと改めて感じました。
目の前に生きている他の利用者と、自分の生活を守るために^^
実際は、忘れるのではなく、記憶の奥の方にしまっておくことになるので、
時々そういった映像を思い出すことがありますが、
出来るだけ頭の中を整頓して、奥の方へ奥の方へ寄せていき、普段は忘れている状態にします。
本来は「忘れる」ということは、人間にとって嫌なことですが、
終末期介護をする私たち介護士にとっては大切な能力だと思っています。