明日の約束 | 統合失調症の海をゆく

明日の約束


半年振りくらいに元彼と合いました。

海沿いの道を銀の車は走ります。

「そういえば……」

「サザエさんでしょ?」

「ええ~?何で分るの?」

なんてことが何回もありました。

ダテに3年付き合ってなかったです、私達。

「そうそう、貯金が1000万越えそうなんだよね。」

「ふーん、よかったねぇ。」

どうしてこの人の自慢は、私のツボからずれてるかなぁ。

親戚が府議会議員だったとか、

愛車が400万のスポーツカーだとか、

学歴や会社での肩書や、

そんな事はどうでもよくて。

あなたの素敵なところは、

お祖母ちゃんやお母さんを大事にしているとか、

物をすごーく大切にするとか、

仕事への真摯な態度とか、

人へのひねくれた、でも優しい態度とか、

するどい観察眼や、ウィットの感覚なのに。

最終便のグラスボートにギリギリ間に合って、

私達はしばし海上の人となりました。

「魚がこんなに近いんだねぇ」

「きれいだねぇ。」

二人で喜び合って、写真をばしばし撮ります。

携帯だからタイミングが合わないと、二人で四苦八苦。

太陽は心地よく、風は少し強く吹きました。

ブーゲンビリアの花が咲く道を車はすべるように走って、

別れ際まで私達の話は途切れることはなく、

彼は最後に言いました。

「君を好きになっちゃダメなんだねぇ。」

……そう思うんだったらそうなんだろうね。

私はあなたにありふれた愛の言葉をもう与えられない。

明日の約束さえ交わすことができない。

私はもっと私を求めてくれる人を探さなきゃ。

もう二度と会いたくないような気もするし、

また会いたいような気もします。

だから、

「じゃあね。」

と、私達は別れました。

見上げたら空いっぱいに星がまたたいていました。

もう夏です。


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