足音で誰だか判別されるから

 

看護師時代にジェントルマンな白髪の男性が入院しておりまして、

 

病室でケアをしていると、

 

「あ、山本先生がくる」


とか、

 

「みさき看護師さんだね」

 

とか、

 

部屋に入ってくる前から、誰が来るかぴたりと当てるステキな患者さんでした。

 

なので、わたしはジェントルマン白髪男性の部屋に入る時には、

 

足音を消して、そろりそろりと入っていったものでした。

 

わからなかったでしょ、ほらね! といわんばかりに、

 

そんなことに神経つかわないで、仕事に神経使って! と上司から

 

叱られそうです。

 

自分でもちゃらけたやつだなあと、反省するのは、

 

そういう私の密かな楽しみに、反応薄く

 

ある日、こういうんです。

 

「しのぶさんかな、あの足音は、しのぶさんの足音は優しい足音だ」

 

がーん、わたしもそっちがいい。

 

そろりそろり、足音消して、驚かせるナースより、

 

患者さんから、足音からして優しい音だ、なーんて

 

言われてみたいもんだ、と思ったものでした。

 

 

でも、足音を消すのに、すっかりはまった私は、その患者さんが退院してからも、

 

足音で判別されるのは、なんか嫌なので、

 

だって、優しい足音ななんて、どうやったらいいのか、わかりませんし、

 

優しい音を立てようとしても、だめなんですよ。

 

想い、心根、性格、普段のありのままがでちゃうんです。

 

わたしは根っからのおっちょこちょいのあわてんぼう。

 

バタバタサザエさん風。

 

あの人の足音、雑だよねえ、と感じ取られるのは、しゃくなので、

 

足音の出ないように歩いていました。

 

 

だいたい、そう言われてみれば、足音で、

誰だか、よおくわかります。

 

重たい足音、ぺたぺたした足音、さっさかさっさかした足音、きゅきゅっとしたクロックス

 

足音を消すように歩くと、

なにがいいかって

 

 

スパイ活動にもってこいでもあります。

 

 

盗み聞きするつもりは、さらさらありませんが、

 

誰もいないと思われて、会話がそのまま続いたりして、つい聞こえてきます。

 

くだらない話がほとんどだけどね。

 

あとはね、サプライズさせることができます。

 

「いたんかい! いつからいたんだ」 とかね。

 

 

あといいことはね、足先まで、神経が行き届いたしなやかな動きを身につけられます。

 

だらしなくならない、足音を消すことで、後ろにも目がついたかのような

 

鋭敏さを保てます。

 

それで、ちょっといいなあ、かっこいいなあと思っているひとに、医師だか、患者さんだか、そこは濁しておきます。憧れのひとがいて、

 

 

「足音を消して歩くようにしてるんです」

 

って話すと

 

ぷっと吹き出してくれて

 

「君って、面白いねえ、いやあ、そんな面白いことはじめてきいたよ」

 

と、結構受けてくれたのでした。


大笑いしてる! 嬉しい😆

 

 

幼い頃、好きだったのは、魔法使いサリー、ひみつのあっこちゃん、猿飛えっちゃん、不思議なメルモちゃん、魔女っ子めぐちゃん、スパイもの。

 

スパイになるための本なんか、買って読んでました。

 

スパイって、万能なイメージでかっこよかー!

 

まず、頭の回転、身のこなし、逃げ足の速さ、巧みな会話、誰にでもなれるスーパーチェンジャー

 

まるで、自分にない要素ばかり。

 

真逆。

 

ないものに憧れるのでしょうか。

 

 

早口だが頭の回転は相変わらず遅い。

 

 

あなたもね、家の中でもぜひやってみて

 

足音を消す。

 

いいスパイになれますよ

 

とはいいません。

 

足の先まで、神経の行き届いたヤマトナデシコ七変化が目指せます。

 

音を立てないようにするって、なんか好きなんだよね。

 

大きな音が苦手なもんだから。

 

小さな小さななるべく小さな声でお話してみたい。

 

なかよしさんと。

 

ろうそくの火をともしながら