なのは洋菓子店のいい仕事、最終巻となる第7巻を読んだ。
もう発売されてから数か月が経つわけで、ようやく読んだと言える。
忙しいのもあるけど、そんな漫画一冊読めないほど忙しいわけでもなく、やはりどこか最終巻を読みたくないという気持ちもあったのだと思う。
テレビドラマとかでよくあるのだよね。
毎週録画してみていたドラマの最終話をずっと見ないままになってしまうこと。
見たら終わってしまうのが何か嫌で。
この漫画の感想の度に、縦軸の進むのが早くてたたみに入っている印象を受けていたが、やはり終わりましたかというところ。
終わりの方はかなり暗めで重めだったが、それなりに綺麗に終わったのではという感じだった。
タイム兄さんの心の闇が明るみになって、セージ君との兄弟げんかの末、お互いの気持ちをぶつけあう。
よくあるパターンではあるが、これまで捉えどころがなく適当な行動で周りを振り回し、かつ、さらには店のためにセージ君とほの香さんをくっつけるよう二人を手のひらの上で転がして自分勝手な理屈を振りかざしていたタイム兄さんだからこそ、意味のある展開だったと思う。
なんかこのまま思い通りに行くのはなんだかなあ、と思っていたところのあの終盤は良かった。
セージ君がいろいろ悩みながらも、タイム兄さんに並ぶ存在になったのかなと思う。
そして、一応店主の座に就いたセージ君が自分なりのやり方で店を盛り上げていたのもきれいなエンディングだったのかなと。
店を離れて旅に出たタイム兄さんも含めて。
終わってみて、全体的にこの物語は「身内に認めてもらいたい人たちの物語」なのかなと思った。
タイム兄さんはおじいさんに、セージ君はそのタイム兄さんに。
ただの尊敬する他人であればただただ努力するところだし、すんなり諦めることもできる。
しかし、身内だと諦めた後でも付きまとう存在だから簡単には諦められず、そして身内だから「認めてくれてもいいじゃないか」という甘えもあり、余計に複雑にこんがらがっていく。
そして身内だからずっとそばにいてくれるというところもどこかあるのだろうが、この物語はおじいさんはボケて、お兄さんはいつ消えるかわからない幽霊となる。
それをギャグっぽく描いてはいるところもあるが、それが重くのしかかってくるのが後半だった。
前作神のみから思っていたが、この作者さんは前半ギャグで書いていたことが後半最もシリアスにのしかかっていくという流れが本当うまいなあ。
いろいろともっと深堀してほしいところもあったが、最も描きたい「兄弟の物語」は描けてたのかなとは思う。
さて、最後もヒロインの感想を書こうかなと。
最後だから、最初の扉絵に出てきたあの三人について。
・白川かの香
勝負に負けて自暴自棄になったセージ君を突き放しながらも励ますさまは、まさに「幼なじみ」!
最後までオーソドックスな幼なじみを見せてくれたかの香ちゃん、なの菓子で一番好きなヒロインかもと思っていたが、最後でもはや確信しましたな。
またサラッと「好きだよ」なんて言っちゃって。
あれにはセージ君もそりゃ顔を赤らめますわ。
それが決意の告白って感じじゃなくて、日常での台詞ってところにも幼なじみらしさを感じる。
最終回のメイド姿もかわいいし。
上に書いたように、「身内に認めてもらいたい人たちの物語」と考えると、かの香ちゃんの場合は姉であるほの香さんがその対象になるのだろうが、そこらへんはあまり掘り下げられなかったのはちょっと残念。
・言葉・S・サリンジャー
初登場時からギャグ要因だったが、この子もまたこの作者さんお得意のギャグっぽく書いた部分がシリアスに変わることを体現したね。
タイム兄さんやセージ君同様に、この子も父親に認めてもらいたい人だったのが印象的。
初登場時に「それは理屈だ」と批判する父親に「理屈ではなく理論です」と回想的に言うシーンがあるが、おそらくそのことを面と向かって父親に言ったことはないのだろうな。
何か反論しようと試みるが、父親に一蹴されると「わかりました」とすぐに受け入れる。
子供時代から普通に気付くことが気付けないことに対するコンプレックスがあることも作用しているのだろうと思った。
その弱点をカバーするように理論武装したにもかかわらず、それでも父親には逆らえない。
無表情だが、いや無表情なだけに、そんな心の葛藤が見られて、より一層言葉を好きになった。
まあ最後唐突に父親に逆らっていたわけだが、話数があればそこに至るまでの心の動きをもっと丁寧に描くことができていただろうにと思うとそれもまたちょっと残念かな。
とは言え最終回までおかしな理論でとんちんかんな行動を取っていたのは、言葉らしさ継続で終わって良かった。
・白川ほの香
途中いろいろ書きすぎたのか、最終巻はあまり出番のなかったほの香さん。
でもタイムくんとの関係性がどこか前向きでホッとしたというのが正直なところ。
セージ君に対しては結局恋愛感情というところには至らなかったようだが、やはりこの人はセージ君を「好きな人の弟」として扱うのが最もしっくりくるのかと。
「タイムくんを助けてあげて」と言ってあくまでもタイムくんを気遣うところが良い!
それでもタイムくんがすでに死んでいることは変わらず、結局ほの香さんの恋は成就しないのかと思うとなんだか寂しいね。
最後までそのことを知らされなかったことも、それで良かったのかなあ?……なんて。
とは言え、最後タイムくんの口から「ほの香さんにもずいぶん悪いことをしました。」という台詞が聞けたのは良かったかな。
旅をするタイムくんからほの香さんにハガキが届いたりね。
(実際に出したのは祐天くんかもしれないけど)
結局最後までほの香さんに自分が死んでいることを伝えられなかったタイムくんも、やはりほの香さんのことが好きなのだろうなあと思うと、この年長者幼なじみコンビにはなんとも切ないエンディングだった。
作者さんのブログによると、いろいろな事情で終わらせたというなの菓子。
確かにもっといろいろと見たかったな。
上にも書いたかの香とほの香の関係や、言葉が父親に逆らうまでの心の動きとか。
タイムくんがなぜ死んだのかというのも、客に文句を言いに行った時の不慮の事故と言うだけではなく、何と殺されたのだそうな、とか。
それでもタイム・セージの兄弟関係の進展という、作者さんがもっとも描きたかったであろうことはきれいに描き切れていたのは、正直に良かったと思う。
作者さんの次回作も期待しています。