商標が非類似とされた例 | SIPO

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審決例(商標):類否170

 

<審決の要旨>

『(1)本願商標について

 本願商標は、「金沢まごころ歯科」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成文字は、同種文字を、同じ大きさ及び書体で、間隔なく、横一列にまとまりのよい構成よりなるもので、特定の文字部分だけが独立して看者の注意を引くようなものではないから、全体をして一連一体の語を表してなると認識できるものである。

 また、本願商標の構成中「金沢」の文字部分は、「石川県中部、金沢平野中央の市」や「姓氏の一つ」の意味を、「まごころ」の文字部分は、「いつわりのない真実の心」の意味を、「歯科」の文字部分は「医学の一分科。歯およびその支持組織の治療・矯正・加工などを扱う。」の意味(いずれも、「広辞苑第七版」参照)を有する語であるものの、構成文字全体として成語となるものではなく、各語の語義を結合した意味合いも漠然としており、何らかの歯科(医院)の名称を表してなることを連想させ得るとしても、具体的な意味合いまでは直ちに認識させるものではない。

 そうすると、本願商標は、その構成文字に相応して、「カナザワマゴコロシカ」の称呼を生じるが、特定の観念を生じない。

 (2)引用商標について

 引用商標は、「まごころ歯科」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成中「まごころ」の文字部分は、「いつわりのない真実の心」の意味を、「歯科」の文字部分は「医学の一分科。歯およびその支持組織の治療・矯正・加工などを扱う。」の意味(いずれも、前掲書参照)を有する語であるものの、構成文字全体として成語となるものではなく、各語の語義を結合した意味合いも漠然としており、何らかの歯科(医院)の名称を表してなることを連想させ得るとしても、具体的な意味合いまでは直ちに認識させるものではない。

 そうすると、引用商標は、その構成文字に相応して、「マゴコロシカ」の称呼を生じるが、特定の観念を生じない。

 (3)本願商標と引用商標の比較

 本願商標と引用商標を比較すると、外観においては、語尾の「まごころ歯科」の構成文字を共通にするが、語頭の「金沢」の文字部分の有無により、全体としては異なる語となり、判別は容易である。

 また、称呼においては、語尾の「マゴコロシカ」の音を共通にするとしても、語頭の「カナザワ」の構成音の有無により、全体の語調、語感は明らかに異なるから、聴別は容易である。

 さらに、観念においては、いずれも特定の観念を生じないから、比較できない。

 そうすると、本願商標と引用商標とは、観念において比較できないとしても、外観及び称呼において判別及び聴別は容易だから、これを同一又は類似の役務について使用しても、役務の出所について混同を生じるおそれはなく、両商標は類似する商標とは認められない。(つまり、非類似の商標である)(下線・着色は筆者)』(不服2024-4139)。

 

<所感>

審決は、上記のように本願商標の構成中「金沢」の文字部分は、「石川県中部、金沢平野中央の市」や「姓氏の一つ」の意味と認識されるとして自他役務の識別標識としての機能を有さないか、あるいは、極めて弱いものであるとみて「金沢」の文字を有さない引用商標と類似しないとした。しかし原査定の理由では本願商標について次のように述べて引用商標と類似するとしている。

 『本願商標は、「金沢まごころ歯科」の文字を標準文字で表してなるものですが、その構成中「金沢」の文字部分は、「石川県中部、金沢平野中央の市。」(出典:岩波書店 広辞苑第七版)等を意味する語であり、本願に係る指定役務との関係においては、役務の提供場所を表したにすぎないものですから、該文字は、需要者等に役務の質を表示するものとして認識されるものであり、自他役務の識別標識としての機能を有さないか、あるいは、極めて弱いものであるとみるのが相当です。そうすると、本願商標中の自他役務の識別標識としての機能を果たす部分は、「まごころ歯科」の文字部分にあるとみるのが相当ですから、本願商標は、「まごころ歯科」の文字部分から単に「マゴコロシカ」の称呼も生じ、特定の観念は生じないものです。他方、引用商標は、「まごころ歯科」の文字を標準文字で表してなるところ、その構成文字に相応して、「マゴコロシカ」の称呼を生じ、特定の観念は生じないものです。そこで、本願商標と引用商標との類否について検討しますと、本願商標の要部「まごころ歯科」と引用商標とは、互いに、「マゴコロシカ」の称呼を生じるものです。そして、観念については、いずれも造語と認められることから比較することができず、外観について差異を有するものであるとしても、例えば、時と所を異にしてみた場合、称呼における類似性をしのぐほどの特段の差異を取引者、需要者に印象付けるものとはいいがたく、これらを総合的に考察すると、両者は互いに類似する商標であると判断するのが相当です。』

 「金沢」の文字を自他役務の識別標識と認められるか否かにより判断が割れるので、これは他の識別性の有無にかかわる文字でも同じことが言えるであろう。

 私的には原査定の理由のほうがこれまでの運用に沿った判断であり、こちらに賛同したい。審決の場合その理由に説得力がないように思う。